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「どうですか?」

 よっちゃんはニコニコしながら、粕谷翔子さんの顔をのぞき込みました。

翔子さんはあんまりにも、よっちゃんが見るので、かえって食べづらそうに

しています。

「お、美味しいです…」

少し顔が引きつっています。

「こら!」

お茶を入れつつ、善行はよっちゃんの様子に気付き、頭をお玉で

パチコーン!と殴ります。

「いってーなー!何すんだよ!」

さすがに翔子さんから、離れました。

「近い!お前、しつこい!これ、セクハラ!」

「へっ、そうか?」

よっちゃんは、頭をかきます。

「それに!」

善行は、よっちゃんをにらみます。

「あれは、オレが作ったんだよ!」

あは、とよっちゃんは顔をクシャクシャにして、

「なんだぁ~」と、笑いこけると

「ヤキモチ、妬いてんだ!」

トンチンカンなことを言うので、

「ちーがーう!」

即座に否定しました。

「なんでも、お前の手柄にすんな!」

善行は言いながらも、段々とあきらめモードになりました。

なぜならば、よっちゃんはヘラヘラ笑いをしながら、下から善行の

顔をのぞき込んでくるのです。

「お前は、奥さん一筋です、って顔をしているけど、

 ベッピンさんが好きなんだな!」

(もう、ダメだ!

 こいつ、なーんも、わかっていない!

 アカン!バカにつける薬は、ないものかぁ~)

善行は頭を振りつつ、

「いいから、お前もメシを食ってけ」

そうひと声かけて、そそくさと自分の椅子を引き寄せました。


「ちょっ、ちょっ!」

 さらによっちゃんは、善行を手招きをします。

「ここに、お前が座れ」

すかさず立ち上がると、自分が座っていた席を示します。

そこは、翔子さんと真向いの席です。

自分の食べさしのお椀と箸を手に取ると、一つ席をずらしました。

(何か、勘違いしているんじゃないか?合コンじゃないのになぁ)

呆れはするものの、素直に従うと、よっちゃんはウンウンと

満足気にうなづきます。

翔子さんも微笑んで、箸を手にしました。


「おいしいです、これ」

箸でつまんだのは、サクサクに揚げた、エビと玉ねぎのかき揚げ。

ササッとゆがいたうどんの上に、チョコンとのせ、大根おろしとショウガも

小皿に乗せています。

キュウリの浅漬けは、善行の自信作です。

やはり褒められると、善行も悪い気がしません。

「今日は蒸し暑いので、アッサリ目なのがいいかなぁと思って」

善行の言葉に、翔子さんはニッコリと微笑みます。

「冷やしうどん、お好きですか?」

何だか、お見合いのような会話だな、と少し思います。

「はい、大好きです」

笑顔で答えられると、まるで自分が愛の告白をされているようで、思わず

顔がほころびます。

 そんな二人を、よっちゃんがニヤニヤしながら見ています。

(勘違い、するなよ!)

心の中で、よっちゃんに向かって毒づきながらも、それでもまんざらではない

善行です。


「誰かとご飯を食べるなんて、久しぶりです…」

 翔子さんは、なぜか下を向きました。

あれ?と言う顔をして、

「お友達と、食事に行ったりとかしないんですか?」

無邪気な顔で、よっちゃんが聞きます。

(おい、あんまり調子にのるなよ!)

机の下で、善行はよっちゃんの足を蹴ります。

すると「いたっ!」と声を上げ、よっちゃんは顔をしかめました。

抗議するように、善行の方を見ると、すかさず善行が口にチャックの仕草を

したので、ブスッとして黙り込みました。


「気が向かなかったんです…誰かとこうすることが。

 このところずっと、外に出るのも辛くって…

 だけどどうにか、外に出られるようになって、ここに来たのです」

翔子さんは寂しそうな顔をして、下を向きました。



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