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「おまえ、はしゃぎすぎだぞ!」

 善行はキッチンの隅に、よっちゃんを引っ張っていくと、口を

開きました。

「そう?」

よっちゃんは、へへと笑う。

「悪い、悪い!つい、どうにかしてあげたくなって!

 お前だって、そう思わないか?

 あんなキレイなお嬢さんが、泣きそうな顔をしているんだぞ…」

「お前って…フェミニストだったのか?」

善行は呆れて、よっちゃんを見ます。

「おれは誰にだって、優しいんだぞぉ」

よっちゃんはウィンクをすると、居間に戻ろうとします。

「おい、ドサクサに紛れて、逃げる気か?」

済んでのところで、すかさずよっちゃんの首根っこを捕まえました。

「まったく…」

はぁとため息をつきつつ、よっちゃんの方を向きます。

「油断も隙もないな!」

先に首を突っ込んできたのは、そっちだろ?

よっちゃんを軽くにらみつけます。

「わかるけど…おまえは、誰の友達なんだ?」

つい、よっちゃんの調子のよさに、善行はイラついてきます。

「もちろん、ゼンコーさんのことが大事だけどさぁ~

 固いことを言うなよぉ。 

 オレとオマエの仲じゃないかぁ~」

ヘラヘラと笑いながら、よっちゃんはクルンとした丸い目を向けます。

「どんな仲なんだ?」

「俺、思うんだけどさぁ、ゼンコーさんの食事サービスも軽食でいいと

 思うんだ。

 まずはそれを売りにして、お客さんを呼ぶのはどうだろう?」

よっちゃんは得意気な顔をして、善行のことを見詰めます。

(そんなの、論外だ!)

善行は呆れた顔をして、

「何言ってんだ?」とよっちゃんの顔を見つめます。

「もちろんそれは…軌道に乗るまでさ。

 そうしたら、徐々に客もついてくると思うんだけど?」

 いいアイディアだと思うんだけどなぁ。

よっちゃんは目をクリクリさせて、善行に言い含めるようにして言います。

「そう簡単に、言うなよ!

 そうなるとな、食品衛生管理者の資格とか、調理師免許とか、色々と

 準備しないといけないんだぞ」

  それはもちろん、善行も考えていたことではありました。

「そうすると、講習を受けなきゃなんないし、すると立地のいい場所とか、

 キチンとした厨房も必要だし…

 とにかく、金も手間もいるんだぞ」

 わかっているのか?

善行はよっちゃんに向かって、強い口調で言います。


「そうなのか?」

「そうだよ!まったく、思いつきばっか言って!」

 ブツブツ言いながらも、善行は鍋を取り出します。

「あっ、玉ねぎ取って」

ガタガタと材料を取り出し、トントンカチャカチャとやり始め、よっちゃんは

それを嬉しそうに眺めます。

「おれ、アドバイザーというヤツにでも、なろうかなぁ」

のどかな声でそう言うと、監督よろしく、手元をのぞき込みます。

手早く、コンロの火を調節しながら、

「おれは、オマエの暇つぶしの道具じゃないんだ」

善行はピシャリと言います。


 すると台所の向こうの方から、「あのぉ~」という声がします。

あわててよっちゃんがのぞきに行くと、

「お忙しいなら…出直しますけど…」

遠慮がちに、女性が声をかけます。

「あっ、大丈夫、大丈夫!」

軽く答える声がして、

「すぐ、持って行きますからね!」

よっちゃんが言うのを、

(あいつめぇ~)

善行は仕方なく、聞いていました。





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