3

 男がよっちゃんをにらんでいるところで、女性が戻ってきました。

その手にはデパートの紙袋を下げています。

見た目にも、重たそうに膨らんでいます。

(えっ!)と思いつつも、受け取ります。

手にすると、やはりズッシリとした重みがあります。

チラッとうかがうように女性の方を見ると、目があいました。

上からのぞき込むと、アルバムが目に入り、それだけでも何だか

気が滅入ってきました。

 よっちゃんものぞき込むなり

「重かったでしょ?大変でしたね」

ニッコリと笑います。

(何だ?いつの間に、仲良くなったのか?)

そう思うけれども、男も愛想笑いを浮かべます。


「よかったね」

 いきなりよっちゃんが言うので(へっ?)と訳が分かりません。

「この人が笑うということは、オッケーということなんですよぉ」

まるでこれで決定と言わんばかりに、そう言います。

(えっ?勝手に決めないでくれよ)

このまま決められては、たまらない…とばかりに、あわてて

「見せてもらってもいいですか?」

そう声を上げます。

「どうぞ」

はいかむように、うなづくので、中身を一つ一つ見分するように

広げてみます。

 白い布製のカバーのアルバム。

 古い手紙の束と、指輪のケース。

(これはかなり、訳アリだぞ)

何だか少し、ゲンナリしてきました。


「さっき言った通り、新婚生活の思い出の品です…」

そう語る彼女の顔は、見るのも何だか辛そうです。

「捨てようと思ったのですが、どうしても捨てられなくて…」

目にはうっすらと、涙を浮かべています。

 よっちゃんはうんうんとうなづくと、

「そうですねぇ。いいですよぉ。

 捨てる決心がつくまで、預かっても。

 な、ゼンコーさん!」

勝手に満足そうに、彼女に同情しているようだ。

(おいおい!店主は私だ。勝手に決めるなよ!)

心の中では、そう思うものの…

「もう少し、お話を聞かせてもらえませんか?」

何とか、その場をまとめようとします。

「あ、いいねぇ~メシでも、食いながら…な!」

そいつは、いい考えだ!

よっちゃんは、パンと手を打つと、またもやニッコリします。

「コイツは、料理だけは、うまいんですよ。

 味は保障します!」

またもや勝手なことを言って

「そういうことで、よろしく!」

と、彼の背中をポンとたたきます。

なんだよ、調子がいいなぁ~

うまく丸め込まれた気がするものの、彼は妻の形見の割烹着を

身に着けます。

 視線を感じて振り向くと、ニヤニヤ笑いを浮かべるよっちゃんと、

「すみません…」と、申し訳なさそうな顔をしている女性が、二人並んで

いるのが、カウンター越しに見えました。

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