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 朝食の後片付けをしつつ、ラジオをつけます。

テレビは目が悪くなるからと、NHKの朝ドラと、ニュース以外はつけないと

彼は決めていたのですが、音がしないと寂しいからと、亡くなった妻が

彼にラジオを買ってくれていました。

その妻の形見も、壊れたら見様見真似で直しつつ、これもまた大切に

使っているのです。


 洗い物を済ませると、コーヒーを入れます。

最近はインスタントだけれど、今日は特別な日。

ペーパーフィルター越しに、落とすコーヒーの味は、行きつけの喫茶店以外

だと、亡き妻の入れてくれたコーヒーが、日本一だと、彼は信じてやまないのです。

丁寧に入れたコーヒーを片手に、ようやく新聞を開きます。

だがお眼鏡にかなう記事は、中々見つかりません。

「ホントに、今日なのか?明日じゃないのか」

と、ヒトリゴトを言いつつ、丹念に開いていきます。

「残念!どんな感じか、気になっていたのに!」

ブツクサ言いながら、ようやくたどり着いたのは、家庭欄。


 コーヒーは、どんどん冷めていきます。

勇気を決めて、見直しつつ、新聞を斜め読み。

ようやく行き着いたある記事は、男がせっせと書いたもの。

どんな仕上がりになったのだろう?

たどり着いたのが、求人広告欄。

「おお!また、目立つ位置に、載せてくれたもんだ!」

勇気を出して連絡してからも、ずっとソワソワして、この瞬間を待ちかまえて

いたのです。


 その記事は、求人広告にはさまれるようにして、存在していました。

大きくもなく、小さくもない。

ごくごく平凡な記事でした。

そこには、こう書かれていました。

『あなたの思い出を、預かります。

 宛先のない手紙。未来への手紙。

 なんでも、預かります。

 ただし、生き物、食品、植物などは、お断りします。

 大きなもの、かさばるもの以外で、お願いします』

小さな紙面で、写真も何もありません。

文字だけなので、退屈かもしれません。

それよりも、果たして読んでくれる人が、いるのでしょうか?

 老眼鏡を手に取って、しばし物思いにふけりました。

「さぁ、どのくらい、来るかな?」

それでも、少し気持ちが華やぎました。

老眼鏡をはめたり、外したりしながら、新聞を片付けたり、遠ざけたり

しながらも、しばし眺めていました。


 そうしておもむろに、2杯目のコーヒーを入れようと、立ち上がったのでした。

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