第7話 取り憑かれた怜也と最後の入院

ー2024年3月・4月ー

「そちらをお買い上げであれば、こっちの商品もお勧めですよ〜!よかったらご検討ください!」

「あ!そうですね、こちらの成分は抗ヒスタミンと呼ばれる、この中でしたらマレイン酸カルビノキサミンという成分が…」

花粉症シーズン、パブロン持続性鼻炎カプセルやアレグラFXがよく売れる。

「アレグラお買い上げでしたら、こちらのお薬、同じフェキソフェナジン塩酸塩という成分を使ってるので

効果がほぼ同じで安く、錠数も多いんですよー、悪夢を見やすいのが副作用としてありますねー。」

怜也は正社員で働くドラッグストアで精を出して働いていた。

毎日、臭くなる靴。普段、忙しく無い店舗が何故か私の日は忙しくなる。

楽しかったが、ずっとシャトルランのように走り続けた。


休憩中の煙草ですら、碌に吸えない…。

頭痛が止まらない。常備薬のロキソニンも切らしてしまった。

店内を走っていた在る時、右側頭部に異常な痛みを感じ、そのままダウン。

過呼吸気味になっていく。心配そうに見守るパートやアルバイト、お客様。

怜也は身の限界を感じていた。

相次ぐバンドマンの死。人々の自殺。銃社会での暴力。

職場のストレス。プライベートでのストレス。SNSでのストレスを抱える。


ドラッグストアでの店長の仕事が佳境に入る中、世間では紅麹問題が勃発した。

小林製薬の紅麹コレステヘルプで重篤な腎機能障害により死者は増加の一途を辿って行った。

対応に追われる中、私は務める店舗で過去に販売した履歴などをサービス残業して全て調べ上げ

奈良市役所に報告していた。プライベートも疎かになっていく一方だった。

そんな中、妹の唯から連絡が来る。どうも、母と父が不仲だそうだ。

話を聞けば、父親が他の女とばかりずっと楽しそうに仕事をしている事が母が気に食わないようだった。

――――――耳が痛い。俺は浮気こそしてはいなかったが女性社員とは仲が良かった。

きっと妻は面白くないだろう。たとえ、仕事だと言っても理解はされない。

いつも話し合っても話は平行線をなぞるだけ。

そんな中、妻と私と母で大起水産に寿司を食べに行った。

美味しかった。今まで食った寿司で一番、美味かった。

とりあえず、歳も歳なんだし、書道教室もある。採点の仕事もある。大好きなヨガや卓球もある。

今、別れるのはデメリットしかなく、熟年離婚はリスキーだ。

俺は兎にも角にも説得した。自分たちも仲良くするから母親たちにも仲良くしてほしかった。

離婚は縁を断ち切る事。折角、紡いだ糸を鋏で切るような愚かな事だ。

だから、やめてほしかった。親というのは子の鑑でなければならない。

親をお手本に子供は育つ。解決策をそこに見出すのだ。良い歳にもなってそれが理解できないとは…まだまだ子供だな。

仕事は仕事。プライベートはプライベート。メリハリが大事。公私混同など、言語道断だ。

そんなこんなで仕事でもプライベートでもストレスが溜まる中、解消しようとギターに手を伸ばす。

イライラしすぎて辞めていたSNSとFacebookを再開する。

今、世の中では詐欺が横行している。騙されてお金を盗られるご老人が不憫でならない。

俺は悔しかった。今まで汗水流して働いてきたご老人の大切なお金が吸い取られてる。

もう――――――我慢の限界だ。毒をもって毒を制す。

中国や韓国を恨んだ。これ以上、日本に干渉するんじゃねえ!

無い頭をフル回転で考えた。今、世の中はハイスペックを求めて、マッチングアプリとかいうアホみたいなアプリが流行ってる。

出会い求めるなら、今すぐその携帯を捨てな。ピッチにでもしてろ。出会いたければ努力しろ。

そんな簡単に彼女や彼氏はできない。心をピュアに。ピュアグミでも食ってクソして寝てろ。

ピュアになりすぎると騙される。簡単な話だ。画面を信じるな。

今、目に映るものを信じよ。折角、健常者でいられるんだ感謝するんだな。

今まで、安心安全だった日本も、これからは必ず修羅の国となる。

便利さにかまけて怠惰に毎日を過ごしてきたツケだ。仕事してそのツケでも払ってろ。

俺?俺はしねーよ。好きな事で生きていくって決めてるし。これからはそういう時代。

塾で良い点とって、テストで結果を出す時代は終わったの。根性があればなんだってできる。

今の子達は我慢や忍耐を知らない。かわいそうだ。甘やかされて育ったんだろうな。

そんなことを考えてSNSで警鐘を鳴らし続けた。それが知らず知らずのうちに自分の心を蝕んでいることを気づかなかった。


そして徐々に精神が崩壊していった怜也は5度目の入院をすることとなる――――――


――――――そして、普段視えない妻もこの異常な私の変わり様を間近で見ていて

ずっと背後に視える巨大の霊がハッキリと視えていたのだった。

”それ”は私を守るように妻を睨みつけ、私も取り憑かれたように変貌していった。

「これは私のお祓いの力を持ってしても祓えない―――。」

妻は大粒の涙をボロボロと流し必死に「元に戻って!」と叫んでいる。

しかし、怜也にその声は届かない。

怜也は高笑いを続け一晩中、起き続けた。呪われた様にSNSの画面を注視する姿に

妻は悲しみに暮れていたのだった――――――


5月27日――――外来の日、妻と母と病院に行き、入院することはもう決まっていたように仕組まれていた。

私がいくら先生を説得しようとしても妻とありさは私のしでかした事を洗いざらい吐いていた。

途中に病院から逃げ出し私は電車に乗って雨が降る中、自宅へ帰った。


PCでYouTubeを開き、GLAYのHISASHIがしている番組HISASHI TVを見ながら

GLAYの歴史を振り返るようにモダンパイレーツとGLAYが歩んだ雑誌を見ていた。

その前の晩はX JAPANのYOSHIKIチャンネルを見ていた。

途端に死にたくなった私は、見ていたYouTubeを止め

ASIAN KANG-FU GENERATIONのソラニンを漫画と一緒に見ながら聴いていた。

「もう、このまま車に乗ってどこか遠い所で単独でも起こして死のう。」と考えていた。

そんな矢先だった。親父が原付を走らせてアパートに来た。

「何しに来た。」「助けに。皆心配してる。」「だから、なんやねん。家庭崩壊を起こしといて

今更、親ヅラするなよ。偽善者め。」

父は黙ってその言葉のやり取りを録音していた。

「録音すんなよ!きめぇな!」俺は激怒した。

とにかく親父は俺をアパートの外へと連れ出した。「電車で病院戻れ。わかったな。みんな、待ってるんや。」

俺はその言葉で入院を悟った。誰が行くか。「お母さんとアリスちゃんがお前のせいで帰れへんねんぞ!」

父に嗜められた。しばらくの間を置いて吐き捨てる様に私が言い放った。「わかったよ、その代わり車で行かせてくれ。」

「それはできない。」俺は苛立ちが募り、爆発して親父に中指を立てた。

車の前にある原付を車で踏み倒そうと思った。親父も観念したのか車で行かせてくれた。


病院に戻ると案の定だった。怜也は再び、五条山病院へ幽閉されることとなったのだった――――――

――――――その日は悲しい、冷たい雨が降っていた。


そこからは先ず、ノートと鉛筆を買って曲作りのための歌詞を書いた。

後々、バンドで売れていったら披露することにしよう。

そこでは若い人たちがデイルームに集まって談笑していた。

嗚呼、また戻ってきてしまった。このクソの掃き溜めに。


そこからはしばらく落ち込んでいたが、ノートと鉛筆を買って作詞や絵を描いて過ごした。

しばらくすると日記をつけはじめることになる。

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