第5話 再入院と怜也の決意

―――20歳の成人式の時にまた多くの同級生たちと再会することになった。

態度も図体もでかくなった友達たち。女子とは相変わらず、険悪なままだ。

特に小平とは同じソフトテニス部だった平山と喋っていたところを話しかけた為、

物凄い形相で睨まれた。相変わらず、目つき悪いな。こいつ。

聞くところによると小平も競合他社のドラッグストアで働いてるそうだ。

だが、俺にとってはどうでもいい。真似するのは好きだけど真似されるのが嫌な男=怜也。

そこでは幼馴染のよしみで楽しい時間となった。

怜也は途中で抜け出し、ギターを家から持ち込んだ。

「俺は絶対にビッグになってみせる!」そこで友達たちに豪語した。

そこで尊敬の眼差しを見せる奴もいたが、大抵は嘲笑したように

私のことをバカにしていた。他所のテーブルではホストでも無いのに

コールで沸かせていた。その日は急性アルコール中毒者が一人出て救急車で運ばれて行ったのだった。

後日談だが、そいつはアルコールを見るのもダメになったそうだ。

可哀想に。若くしてアルコール恐怖症とは。ま、俺も今や薬を飲む身。

アルコールと薬はご法度だ。なぜなら、薬の効果をアルコールは高めてしまうからだ。

元々のアルコールの弱さからか、今では飲むだけで頭痛がするしアルコールに触れるだけで手が荒れる。



―――だな…そんな事を考えていた。当時、なんとか自分を変えようとギターを作る学校に通っていたが

大阪の街を歩いているとホストクラブに勧誘されて

何か何もかもどうでもよくなっていた私は働いていたドラッグストアを辞めて、

ミナミの宗右衛門町でホストとして働くこととなる。

源氏名を本名から捩り、怜也(りょうや)とした。

そこでは人外な事ばかりだった。女をまるで金としか見ておらず

毎日、飲みまくりのバカ騒ぎ。鳴りやまないコール。ラルクのXXXが毎晩流れていた。


皆自己中心的でファミレスでは傍若無人な態度。体罰は当たり前。

真面目な自分には耐えられなかった。すぐに辞めたいと思ったが

ホストクラブはそう簡単に辞められないのだ。

すぐにアリスに助けを求めた。「助けてくれ。ホストクラブに殺される。」そう伝えた。

アリスは直ぐに俺を助けに来てくれた。そこで龍馬という先輩ホストと対決することになっても

アリスは強い心で警察にも通報し俺を救い出してくれた。

そんな命の恩人のアリスを俺は生涯、手放すことはないとここで心に誓ったのだった。


次第にストレスが大きくなっていき当時20歳。

成人式を迎えた私は立派に成長する友を見て絶望を味わった。そこで3度目の入院をすることとなる。

その時の入院は永かった。5か月間という長い間、精神科病院へと再び幽閉される事となった――――――――――


それは急だった。思考がおかしくなり"親父を殺す"その意識に囚われてしまい、実家で警察に電話した。

「今から親父を殺すから家まで来い」と伝えた。当時のことは今でもよく覚えてる。

物々しい状況に警察からの事情聴取、挙句連れられたのはまた同じ五条山病院だった。

手足を縛られオムツを履かされた。屈辱だった。人生で初めて雪辱を味あわされた。

悔しかった。悲しかった。自分は狂ってる。可笑しいよ。こんな人生。

何の為に生きて、何のために死ぬのか。ひたすらに自問自答しながら

保護室へと連れられることになる。牢屋のような格子状の部屋。独居房かと思えば3部屋繋がっている。

中にはベッドもなくあるのはマットと臭いトイレのみ。

辛かった。なんで俺がこんな目にばっかり合わなきゃいけないんだ。

心底、人生がどうでもよくなった時だった。また奴らが部屋を埋め尽くした。

「シニタイノナラ、コロシテアゲルヨ」「ラクニナロウヨ」「シニタイ?」また指差しケタケタと嗤う。

もう楽になりたい。出されるごはんにも手を付けず、ひたすら死を願った。

だが、ダメだった。体は次第に痩せ細っていく。65キロあった体重は55キロまで落ちていった。

そこで出会ったのが梨山さんだった。梨山さんは新聞配達の仕事をしていたが、易怒性から五条山に入院することとなった。

五条山では保護室から出て解放された俺は大声で中庭で叫んでいた。

ラルクやGLAYを歌いまくった。皆からどう思われてもいい。そんな天性のカリスマ性を梨山さんは中庭でジッと見ていた―――


2013年―――GLAYは地元北海道で7月27日にライブをした。天候は雨だった。

どうやら最恐の雨男のHISASHI様と怜也青年が天候を動かしたのだろう。

冷たい北海道となったそうだ。



―――梨山さんの夢は将来、山に住むことらしい。名は体を表すというが…。

どうも他人と馬が合わない気質で。孤独を愛するタイプだったが人柄の良さから

いつも患者から搾取されていた。可哀そうではあったが、その財力には私も常々助けられていたものだ。

売店でいつもゼロコーラやお菓子を買ってくれていた。今も本当に感謝しかしていないし、今でも関係性を続ける仲だ。

3ヵ月を過ぎ病棟が移ってからは大変だった。地獄も地獄。回りまわって天国のようだった。カオス―――――――人はそう呼ぶであろう世界だった。毎日、意味の分からないことで爆笑していた。

もう一生、病院でもいいやと思うくらいだった。階段では蹲り白目を剥き出したまま動かない女の子。


―――5ヵ月に入った時、両親もこれ以上は財力に貯えがなく治療を断念し、半ば強制的に退院した。


娑婆の空気だ。気持ちがいい。

若干20にして保護室生活は厳しすぎた。


怜也青年は辞めていたドラッグストアのバイトに戻る事を決めた。

気持ちもポジティブになりギターを弾き始める。

…がしかし、鈍ってる…。ギターがうまく弾けない。

薬漬けにされて指が上手く動かない。飯もロクに食べれない―――

ウィンタミンを恨んだ。悔しかった。自宅療養の期間を経て俺は元居た場所に戻ることとなる。

3度目の入院のあと、病院から自宅へ戻るとコロンというトイプードルとマルチーズのミックスされた

アプリコットカラーの可愛いワンコが自宅に居た。

翔の死から立ち直れなかった俺は理解が遅れた…まだ小さくころころしていてとても可愛かった。


職場は在籍満了期間が過ぎてしまい、一旦離職扱いとなっていた。

再入社した怜也の社員番号は13921から16800へと変わった。

遠方さんも異動となり

片山マネージャーに変わり体制は変わっていた。

店舗では奥店長と桑名チーフが入ってくることとなった。

奥店長は古株で普段温厚だが怒ると怖かった。桑名さんはイケメン高身長でクラブミュージックが大好き。

自分で曲を作るぐらい好きだそうだ。

美大に通っていた過去がありアーティスト気質な私と気が合った。

桑名さんとは今でもよく話をする。奥店長とも仲良しだ。

それから時は巡り、母店の改装の際にマネージャー陣が手助けにくることになる。

そこで一際、オーラがあり輝いていたマネージャーが喜多川マネージャーだった。

喜多川マネージャーはかつて遠方マネージャーの直属の部下で遠方氏から可愛がられて

実力でマネージャーに登りつめた。そんな喜多川さんがマネージャー職を降り、

我が母店にやってくることとなった。喜多川さんはウチと隣町の店舗の兼任だった。


―――月日が経つにつれ、母方の祖母は弱っていき、やがて怜也の祖母はいよいよボケてしまった。

自宅で介護することとなった。壁には便を手で拭き擦りつけた跡…私は精神病院で見慣れていたが

潔癖な姉は限界だったようだ。逃げるようにして家を彼氏と出て行ったのだった―――


俺は時間のある時は祖母に目を配っていた。腹が減ったのか自分で勝手に調理しようとして

家を燃やしかけたことがある。これには介助慣れしている怜也も困った。

当時から後期高齢化社会でただえさえ、老人ホームは満杯の状態が続いていた。

こんなに危険なのに、どこも受け入れ先が無いだなんて。

怜也一家のストレスは限界を迎えていた。

怜也もそこから段々と逃げるようにアルバイトに打ち込んでいた。

店内で響く元気な「いらっしゃいませー!」「ありがとうございまーす!」

怜也の務める店舗は活気づいていったのだった。


2014年―――GLAYは東北でEXPOを開く事となる。

君にあえたら―――こんなに辛い曲はない。悲しい。とてつもない悲しみが会場を包んだ。

明るい曲もした。GLAYはみんなを励まそうとひた努力していた。


職場では怜也青年は運命の出会いを果たしていたのだった。

私は喜多川氏の人格と人の好さに心底、尊敬した。

また同時に私を理解してくれる唯一の理解者とも思えた。

そんな喜多川氏に千載一遇のチャンスを与えられることとなった。

怜也青年はたまにある社長臨店の際に直談判していた。「社員にさせてください」と頭を下げていた私を見ていた喜多川さんや

遠方さん。そして当時のブロック長である松元さんにも支えられた。

喜多川統括店長より「資格を取って、正社員になってみないか?」と話しをいただくことになる。

その時、アリスとも4年の交際を経ていて、既にフリーターの身でありながら同棲を始めていた時だった。


アリスは「このまま何の進展もないなら別れましょう」と伝えてきていた。

私はここでアリスと別れると人生が終わってしまう。二人で大事にしているぬいぐるみ、おつひこくんは二人の仲を一生懸命取り繕ってくれた。

そんな気がして急いで同棲をはじめ、初めて親の居ない中で生活する大変さを知った時だった。

―――これ以上ない好機だった。このチャンスを手放しては俺は誰一人守れないただの障碍者Aで終わってしまうと本能的にそう感じていた。


そこからはひたすらに登録販売者の猛勉強をした。

夏の暑い日も会社の社内研修へ向かう為、滋賀まで足を運び勉強した。


―――そこで怜也青年は京都の鴨川で瞳と再会することとなる。

しかし、お互いに言葉を交わすことはなく瞳は私のスーツ姿に目をぎょっとしてこちらを見つめていた。

私は愛するべき人がもう居る為、その場をすぐに去った。

後々知ったことだが、笹部瞳は名が変わり、母の旧姓である宝島瞳になっていたそうだ。

彼女にも色々あったのだろう…。


今の妻、アリスの実家は京都の丸太町にある。

京都の御所の付近だ。私はアリスの実家へと足早に向かい、

そこで義父と義母、義祖母に見守られた。

義父の家系は祈祷師の家系であり義父は俗に言う、視える人だ。

私と同じ物がどうやら見えている。しかし私以上のパワーを持っていて人を癒す力を持っている。

義祖母は義母の母で愛知県出身で今は亡き祖父の京都へと嫁いだ。

その祖母とはいつも部屋で煙草を吸う仲間だった。

祖母は私と煙草を吸うことが何より楽しみで孫であり末っ子、唯一の女の子とも言うこともあり

大層、可愛がっていた。出逢った時はしっかりしていたお祖母さんも少し認知が進行し始めていたことはその時、皆薄々感じていた。


夏にある京都と奈良の登録販売者の試験を無事終えた私は合格発表の日に岐阜にある本社へと

喜多川統括店長よりセッティングされた。「胸張って行ってこい」

言葉は優しかった。筆者は高校を中退。通信制高校すら辞めて通っていたギターを作る学校も辞めホストも辞め

何もかもから逃げてきた。

これを逃せば私の人生は終わる。そんな不安感と焦燥感に駆られ

私はすっかり自信を無くしていた。とても胸を張れる状態ではなかった。

不安感からか本社へ着いても落ち着かず、ただただ空を漂う薄い黒くニヤニヤした薄い影から目を合わせないように俯いていた。


「まずは常識問題としてペーパーテストをします。」試験官からそう伝えられ

問題用紙を解く。わからない。何一つわからない。大学卒業程度の問題が出ている。わかるわけがない。

終わった。もうダメだ。絶望に打ち拉がれながら、面接へと進んだ。

会場には私を含めた3人が面接に来ていた。

自信をすっかり喪失していた私の脳内は「もうダメだ。お終いだ。俺は結局、アリスを幸せにできない只の障碍者Aだ。」と

そんなことばかりが駆け巡っていた。応答に元気はなく、何一つアピールできずにその場を後にしたのだった。


時が過ぎ、いつも通りドラッグストアでフリーターで働きつつアリスとも小さな2DKのアパートで暮らしていて合否の知らせを待った。

合否判定はアリスとアリスの家族で聞くこととなった。

――――――おめでとうございます。合格です。詳細は後日、連絡いたします。』

訳がわからなかった。信じられなかった。中卒の自分が人生で初めて勝利を勝ち取った気がした。

嬉しかった、と同時にこれからのし掛かる責任に耐えられるかわからなかった。


喜多川統括店長からもお祝いの言葉をいただいた。「人事部長に話通すの難儀したんやでぇ〜。絶対この子なら大丈夫ですから!言うて推したんや。

感謝しいや〜?これからもよろしくなあ!」

嬉しかった。認められた。初めて人から認められた。今まで否定ばかりされ続けた人生が一発逆転劇を起こした時だった。

革命が起きた。最強の2が弱くなり最弱の3が強くなった。弱きものが強くなった。

BUMP OF CHICKEN、RADWIMPSだ。そんな気がしてならなかった。


一方、中学からの大親友の雅は子供を設けていた―――

先、越されちまったな。雅に似て視力は悪い様だが、

幸いなことに目つきは奥さんに似て優しい目をしていた。

いつか大きくなったら、また俺とも遊んでほしいものだ。

雅も、その息子も一緒にな。

幸せになれよ、雅。俺はずっと応援してるからな。


大樹もまたこの数年後、子供を授かることになる。

「バンドなんて夢物語だなぁ」俺の心は複雑でそっとそう呟きながらベランダで煙草を蒸すのだった―――――

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