第4話 二つの運命と一つの職場

高校にも一度戻ったがダメだった。周りからの心配される目。奇異な眼。指差し嘲笑う群衆。耐えられなかった。

俺は程無くして高校を辞めることとなった。


流石にこの時世。高校くらいは出ないと…ということで京都の二条にある通信制へと通うこととなるが、その前に出会った

第一の運命の人の話をしよう。


名を笹部瞳といい、彼女は京都の宇治育ちだった。良いところのお嬢様で、スタイルはぽっちゃりといているが

才色兼備。ピアノが弾けて絵もとてつもなく上手かった。私と感性が酷似していた。彼女は当時売れ出しのバンド

RADWIMPSが大好きだった。哲学的な歌詞がとても魅力なバンドだ。対する俺はRADというよりはBUMP OF CHICKEN派だったが

彼女の影響からRADWIMPSを聞いて歌詞や言葉選びの綺麗さに心惹かれた。彼女から借りたMDに入っていた4thアルバム、

"おかずのごはん"ふたりごとから始まりギミギミックへと移行。me me sheや05410-(ん)、有心論など名曲名高いアルバムだった

一気にRADWIMPSが大好きになった。そこから大人の行為をすることとなるが相手は中学生。

緊張してダメだった…この子の人生を万が一振り回したら俺は一生後悔する。そう思うとダメだった。

地元のツレも当時はRADWIMPSファンが徐々に増えており、バンドを誘うこととなる大樹が違法ダウンロードで"マニフェスト"と

"ハイパーベンチレイション"を手に入れていた。俺は嬉しくなりすぐに瞳に連絡した。


――――ダメだった。愉しみを奪ってしまった。かなり怒られた。ゴメン。こんなに怒られるなんて。

初めて喧嘩した…ような気がした。瞳と別れてしまうのは早かった。俺が精神病院に入院していることを親に知られてしまった。

瞳も受験生だったこともあり猛反対だったのだろう。俺たちが出会うには早すぎたのかな。

俺は次に会う約束を取り繕うために集めていた鋼の錬金術師の漫画を持っていた半分貸し出していた。

でも、ダメだった。彼女が俺の元に戻ってくることはなかった。

若すぎた。いや、戻ろうとしてくれていたのかもしれないが、俺は彼女から教えられていた「復縁は続かないよ」という言葉が

ずっと頭にあったからだ。だから、冷たく突き放した。「貴女には俺と違う人間と幸せになってね」と心の中で願って。

瞳の誕生日は5月15日の牡牛座。血液型はO型。2個下の女の子だった。

7月27日生まれの獅子座AB型の俺とは合わないんだろうなと心の奥底ではわかっていた。


それはとても冷たい別れだった。さようなら。瞳。もう逢うことは無いでしょう。さようなら。俺の人生。

もうここから良くなることはないでしょう。自殺しようと誓った。

見たくないモンまで見える人生。聞こえたくないモンまで聞こえてしまう人生。

もうどうでもいい。俺なんて生まれなければよかったんだ。

そんな気持ちのまま、生まれて初めて煙草に火をつけた。当時18歳。

俺は再び五条山にまた入院することとなる。正直、当時の記憶はあまりない。


相変わらずの病棟。同じ匂い。以前、視えた幽霊さん。

ほんと自分が嫌になる。早く全て終われば良いのに。

そう願って毎日を過ごした。

そこでも数々の出逢いがあったがあまり憶えていない――――


――――退院した俺は二条にある通信制高校に通う。正直、人生どうでもいい。レポートもせず

授業も受けず、ずっと校舎の前で煙草をふかしていた。そんな時、同じような背格好をした奏に出会った。

彼は音痴ではあったが根性がありいつも二条駅前で弾き語りをしていた。いつも「うるせえ!やめろ!」と罵声を浴びせられながらも

また生徒たちからカモにされていてもめげなかった。彼は当時流行っていたビジュアル系が大好きでいつもサルエルパンツを履いていた。

身長も低く小柄で色白だった。

私がヴィジュアル系が大好きで当時、教科書を買いに行く本屋近くの楽器屋でGLAYを弾いていた。

奏は目を丸くしてまるで宝石の原石を見つけたかのように話しかけてきた。

お金のない私に近くにある服屋さんで白のヒョウ柄の服を買ってくれた。

そこから奏を中心とした友達が増えていくこととなった―――――



――――2011年3月11日。

東日本で大震災が起こった。

津波は瞬く間に街を飲み込んでいく。凄惨で目を当てるのも恐怖だった。

大勢の人が亡くなった。あまりに辛い時間だった。

『苦しい。助けて。誰か…』大勢の黒い手がその前日の晩、夢に現れた。

その前日、俺と鈴森は地元にある5丁目の階段を登り切った頂点で大きな地震雲が東を指していたのを見ていた。

あの時、みんなに逃げて。と言えていたならどれほどよかっただろう。

辛かった。ずっと苦しかった。一人で膝を抱えて実家にある窓から外の空を見ていた。雲の上では大勢の神様たちが泣いている。

雨が降った―――俺は為す術もなくベッドの上で泣き崩れた。



2011年4月――――――

そこで第二の運命の人、アリスと出逢う事なる。アリスは19の歳で付き合い結婚する仲だ。

アリスは5月15日牡牛座のA型。1個下の女の子だったが、直ぐに運命だと直感で思った。

彼女も同様にRADWIMPSが好きと言っていた。こんなに早く運命の人と出会うと思ってなかった。

またアリスも俺は運命の人だと思ったらしい。彼女は九州の外れ喜界島で生まれ育ち京都に引っ越してきて

この通信生高校へとやってきた。また、後に妻から聞いた話ではあるがアリスは夢で既に俺と出逢っていたのだそう。

自分の父にこの人が結婚相手ですと紹介していたそうだ。

アリスは奥ゆかしくよそよそしく京都人にしては幼い見た目だった。一言で言うとピュア。この言葉に尽きる。

初めてやってきた高校で教室がどこかわからず、挙動不審だった。見かねた私が声を掛けた。「どうしたの?何か探してるの?」

「あの…ここの教室ってどうやっていくかわからなくて」「ああ、ここね。この教室はこう行ってこう行くんだよ」そう説明して俺は

その場を去ろうとしたときだった。一度HRで集まった教室を出たが忘れ物をして戻ってきたら、アリスが担任と話している。

「まだ居たんだ。早く行っておいでよ。」「ああ、うん。あの、あの、良ければ携帯電話番号教えてくれませんか?」――咄嗟だった。

「あの、普段私こんな人に電話番号聞いたりしないんですけど、なんかこのまま別れちゃいけない気がして…」

当時、失恋して傷心中だった私は困惑した。何より、携帯が大手三社ではなくピッチ。ウィルコムだったからだ。

自分で携帯代を払っていた為、大手三社は無理だった。だから恥ずかしかった。

それでも構わないとアリスは言い、俺たちは赤外線通信で連絡先を交換した。


その前にそこの通信制高校では同じGLAYファンの知奈とも知り合っていた。年上の先輩であり

初めてそこでGLAYのライブの楽しさを知ることとなる。

しかし、彼女はおそらく他の男とも遊ぶ仲で心底どうでもよくなり、距離を取った。


瞳と別れたばかりの罪悪感からアリスへの返事はそっけなかった。文字を打つのもピッチだった為、正直めんどくさかった。

申し訳ないとは思っていたが、喪失感からか俺は何に対しても億劫になっていた。

しかし、アリスと話をしていくことで次第に心を開いていくことになった。

アリスには8個上の兄4個上の兄2個上の兄の4兄妹だった。

8個上の兄はGLAYが好きな尚兄ちゃん、4個上の兄はラルクが好きな優兄ちゃん、2個上の兄はラップが好きな健兄ちゃん。

皆優しくて当時の私たちを温かく時に厳しく見守っていてくれた。


「本当はGLAYとかラルクが好きなの。」その一言で俺たちは意気投合するのも早かった。

京都のとある駅で夜にハグをしたり、電車の中で俺が「誰も居ないからキスできそうだね」など甘い言葉を掛けていた。

ピュアだった。あの時の俺たちはただひたすらにピュアだった。

車もなくいつも徒歩でデート。どこに行くにしても歩いて行っていた。

若かった。青かった。何より眩しかった。人生に陰りが見えていた私も光を見出すことができた。

喜界島から京都に越してきて学校に通い始めてからというもの、アリスは夜遊びを覚えて

母親と2番目の兄から怒られた事は今でも鮮明に覚えている。

申し訳なかった。2番目の優兄ちゃんとアリスは大の仲良しで、母親のごはんを食べたあと

二人で焼肉に行くくらい仲が良かった―――――


――――5月15日。俺とアリスは付き合うこととなったのだった。


対する俺の家庭は冷え切っていて家族で食卓で会話することもなく、

ただリビングのテレビの音だけが空を漂い、黙々と母の作った料理を皆で食べていた。

俺一人がいつも「美味しいね。」と呟く母は嬉々とした顔で「うれしい!怜也だけ!そんな事言ってくれるのは。」と

いつも母と私だけが会話をしていた。寂しかった。みんなでワイワイ喋りながらご飯を食べたかった。

当時、飼っていた柴犬の翔もいつも外の犬小屋で寂しそうにしていた。


そんなある日、俺が19になるとき、翔は空へと旅立っていった――――――

翔は11歳。腎不全だった。大好きだったご飯を食べなくなった翌日。

急逝だった。俺は母の泣き叫ぶ声で触っていたパソコン作業を中断し

急いで翔の元へ駆け寄った。抱きしめた。ただ、ひたすらに抱き締めた。

「翔!翔!ダメだよ!逝かないで!まだダメだよ…早すぎるよ。」

冬空の下、冷たくなった翔は目を薄く開けてしんどそうな顔をして亡くなっていた。

辛すぎた。翔は俺の魂の一部だった。記憶の欠片だった。

もう何もかも失っていく俺はどんどん生きる意欲を無くしていった。

自宅の庭に親父が大きな穴を掘って翔を土葬した。

その上には後に立派な花を咲かす桜の木の苗を植えた。


窓の外を見つめてボーっと毎日を過ごす。大好きだったギターも弾かなくなった。

そんな私を見かねた親父はドラッグストアの求人の写真を撮り、徐に私に送り付けてきた。


―――今の環境を変えたい。意識を少し前に向ける。


私はドラッグストアにアルバイトの面接をすることとなる。

以前まではコンビニで働いていたが使い物にならない上に廃棄商品も大量に持って帰り好き放題だった

シフトにもすぐに入れてもらえなくなりすぐに行方をくらました。


ドラッグストアの面接では半分茶髪半分黒髪のツートンカラーで面接に行った。

なめ腐っていた。その時の店長だった旭店長からは「染め直して来たら採用。」とだけ言われ

お金もなかったので素直に応じた。

そこから私の人生は激変していったのだった―――――――――――


同じタイミングで同じ年齢のアルバイトが俺を含めて3人採用された。

名を愛、加奈子と怜也。みんなすぐに仲良くなっていった。

楽しい。働くことってこんなに楽しいことなんだ!旭店長と西村チーフに優しく接客の何たるかを教えてもらい

接客業が大好きになっていった。


―――有名な言葉を紹介しよう。


"人は心が変われば行動が変わる

 行動が変われば習慣が変わる

 習慣が変われば人格が変わる

 人格が変われば運命が変わる

 運命が変われば人生が変わる"


有名な野球監督が創った言葉らしいが、この言葉に今まで何度も助けられてきた。

本当にその通りだなと思う。

旭店長から体制が変わり、有村店長と猿飛チーフに変わった。

この有村店長と猿飛チーフの仕事に取り組む姿勢が本当に大好きでとにかくドラッグストアの仕事に興味を持った。

特に猿飛チーフは本当にお客様を思い、また従業員からも慕われる存在だったが

上司の当時マネージャーだった遠方さんからは嫌われていた。

その遠方さんと猿飛さんが事務所に入っているときに私は宣戦布告したことを今でもしっかり覚えている。

「私は、絶対にあなたたちと肩を並べてともに頑張ります!」とそこから遠方さんには気に入られ

今でもサシで呑みに行く仲となっている。

程なくして有村店長と猿飛チーフは異動。

変わりに平店長とビューティースタッフの田本社員が配属となった。

平店長はかなりいい加減で人はいいんだが何故か心惹かれなかった。

社員になりたい意思を伝えるとそこから扱いは厳しくなっていった。

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