第10話 責任取れと言われたよ

金貨10枚以上を数日で稼ぐには、オークを狩らなければ無理だ。それも、40頭は狩らなければならないから、この若い娘達には、到底無理な話だった。

だからといって、俺が立て替えたら、彼女達を、俺が買ったことになるらしいから、それが出来ない。

彼女達3人を俺のパーティに組み入れて、一緒に狩をして分け前を渡すしか、彼女達を助ける方法がないということだった。本当に、面倒臭い法律や慣習が支配している世界だ。


パーティを組むと決まって、女の子達も俺と同じ宿屋に泊まることになった。

アリサ達は、部屋代が惜しいから、3人とも俺と同じ部屋でいいと言ったが、断固拒否して、俺は1人部屋を取った。彼女たちの部屋代も、パーティのリーダーとして俺が払うのだから問題はない。

リックは、パーティに入れなかったので、肩を落として、別の宿を探しに行った。

リックには、借金のような特別な事情がないし、そんな奴の面倒まで見る気は、俺にはない。

これでリックとアリサ達は、完全に離れ離れになってしまった。少し哀れだが、この世界は非情だから仕方がない。


狩りは、明日から始めることにして、食堂で夕食を食ってから、それぞれの部屋に入る。

アリサ達に夜這いを掛けられないように、戸締りを厳重にして寝ていると、深夜に、レイが独房から出て来た。

俺が、アリサ達との同室を断った一番の理由が、このレイの存在だった。

「話は全部聞いていたわよ。あの子達の弱みに付け込んじゃだめだからね。そんなことしたら、軽蔑するわよ」と、地球の女性らしい価値観を主張する。

「そんなことするもんか。人を何だと思っている」と怒ると、

「そう、少し安心したわ。それより、約束よ、血を頂戴」

そう言えばそんな約束をしたが、まだ血を吸われなかったので、すっかり忘れていた。

「どうすればいいんだ?」と聞くと、

「そのまま寝ていて」と言って、俺のベッドに上がり込み、俺の上に被さって、首筋に顔を埋めた。暫くすると、ズズズッと啜る音がして、血を啜られたのが分かった。

恐らく首に牙を立てられているのだろうが、不思議と痛みも感覚もなく、むしろ、かなり気持ちがいい。

血を吸う時間が、ちょっと長くないかと思っていると、レイが顔を、俺の首から離して、

「ご馳走様でした。これがヴァンパイアになったということなのね。体験記を書いたら売れるかな?」と呑気な独り言を言っている。

「終わったのか?」と聞くと、

「お礼をするわ」と言って、赤い瞳で俺の目を覗き込んだ。

それからのことは覚えていない。

気が付くと2人とも裸で、レイが俺に被さるように抱きついて眠っていた。

「これは、やってしまったのか?」と思って下半身を探ると、やってしまっていた。

「意識がある状態でやりたかったな」と思っていると、レイが起きて、いきなり泣き始めた。

「ヴァンパイアの本能に負けてしまったけど、私は初めてだったんだからね。責任とってよね」

と泣きながら、勝手なことを言う。

「俺に責任があると思うのか?むしろ、やられたのは、俺の方だ」というと

「卑怯者」と言って、一層激しく泣き始めた。

「泣くなよ。子供が出来たら責任は取るから」と折れると、

「私の初めては、そんなに値打ちがないの?子供ができなくても、責任とってよ」とむくれるから

「分かった。責任を取る」と、さらに折れると、

「よし、言質を取ったぞ。約束を破ったら、針千本だからね」と、いきなり子供のようなことを言って、空が明るくなって来たのに気付くと、慌てて服を抱えて独房に戻っていった。

「まったく。台風のような奴だ」

レイが地球にいた頃の顔は分からないが、今は、真相ヴァンパイアだけあって、絶世の美女だ。口から牙が覗いているが、それでも、美しすぎるほど、美しい。プロポーションも神の如くと言っていいほど完璧で、胸部装甲も立派だ。

そんな女と関係を持って嬉しくない訳はない。たとえ相手が、俺の血を吸っていく奴だとしても。

俺は朝から上機嫌だったらしい。

宿の裏の井戸で顔を洗っていると、隣に来たアリサに、

「ラモンさん。何かいいことがあったんですか?」と探りを入れられた。勘がいい娘だ。

「そんなことより、今日の狩りは、森の奥まで行くぞ。準備は出来ているのか?」と、俺は、わざとらしく話を逸らした。

「はい、出来てます。朝ご飯は、この宿屋で食べて行きますか?」と聞くので、

「勿論だ。先に、食堂に行っておく」とその場を離れた。

「待ってくださ〜い」

アリサが追いかけて来て、俺の片腕を抱え込んで横に並ぶ。

「昨日は、酷いです。何で、私達を閉め出したんですか?」と聞いてくる。

「いや、締め出したわけじゃないぞ。夜は、ゆっくり眠る主義なんだ。だから、途中で誰にも起こされないように、鍵をしっかり掛けて眠る。アリサも強くなろうと思ったら、夜はぐっすり眠ることだ」

「そうなんですね。分かりました。夜はゆっくり眠ります」と頷きながらも俺の腕を離さない。

「夜がダメなら、昼間でもいいんですよ」と、なおも誘ってくる。レイが聞き耳を立てているはずなので、

「お前達の弱みに付け込むことになるからダメだ」

「もう〜、頭が固いんだから〜。でも、それだから、信用出来るんですよ〜」

と、一層しっかり俺の腕を抱き締める。

そんなやり取りをしている間に、食堂に入って4人掛けのテーブルに着く。アリサが隣に座り、遅れて来たメルルとミニアが

「アリサズルい」と唇を突き出しながら、俺達の向かい側に座った。

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拷問師ラモンと引き籠り真祖の異世界スローライフ 肩ぐるま @razania6

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