第9話 再会

俺は、俺のスキルである独房に保管していた4人の死体を埋葬することにした。レイが、部屋から死体を出してくれとせがんだからだ。

俺としては、レイのように生き返るかもしれないから、独房に保管しておきたかったが、レイが死体と一緒にいるのは耐えられないとわがままを言った。

まだヴァンパイアの自覚が芽生えていないようだ。

俺は、森の奥へ行き、4つの穴を掘って、ドラゴニュート、鬼女、サキュバス、ダークエルフの死体を1体ずつ、別々に埋葬した。そして、その墓の上に、木の枝で十字を作って墓標として突き刺した。

『こんな異世界に転生させられて怖かっただろう。安らかに眠れ』と黙祷していると、独房から出て来たレイも俺の横に立って黙祷した。


「これから、どうするの」と、ちょっとしんみりした口調でレイが聞いてくる。

「特に予定はないな。俺も、この世界のことはよく知らないし、街に行っても馴染めるかどうか分からないしな」

「あなたも、コミュ力低い口?」

「高いとは言えないな。それにこんな外見になってしまったから、余計にな」

「贅沢よ」

「えっ、何だって」

「贅沢って言ったのよ」

「何が贅沢なんだ」

「私なんて、牙があるのよ。この牙、引っ込まないし。口を閉じても、唇の間から出てるじゃない。ラノベなんかだと、牙は、人を襲うときにしか長くならない筈でしょう。なのに、何で、私の牙は伸びたままなのよ。それに比べたら、あなたなんて、とりあえずは見た目、人間だし。それで、文句を言ったら贅沢って言ってるのよ」

「牙が引っ込まないのか?」

「そうよ。そのせいで、言葉もちゃんと話せないし。こんな牙が生えてちゃ、早口言葉も話せないわよ」

「早口言葉を話したいのか?」

「ち、違うわよ。説明しているだけよ。突っ込まないで」

とプンプンしながら、また独房に入ってしまった。


どうも、乙女心は理解出来ない。いや、乙女じゃなかったな。もうOLだったな。

なんて、くだらない、1人ボケ突っ込みをしながら、一旦オルラーの街に戻った。


「何処へ行ってたんだ?」

街に戻り、ギルド付属の酒場で飯を食っていると、ハーフオーガのドラッジが話しかけてきた。

「森の中だ」

「森の中か。ハイオークはもういないと思うが、まだ危険かもしれないから気を付けろよ。と、言うだけ無駄か。ガハハハハハッ」と豪快に笑う。

俺が、特に答えることもなく飯を食い続けていると、

「そういえば、お前さん、ここに来る前に、ディアブローの街に少し居たんだってな」

「何故、それを?」と聞き返すと、

「あの街のギルマスのクレインが、臨時で、この街のギルマスも兼ねることになってな、それで、さっきからギルドの奥の部屋に居て、あんたの話をしていたところだ」

「俺の話?」

「ああ、クレインがディアブローから若手のパーティを連れて来ていてな、この街で、あんたとパーティを組みたいって言っていたぞ」と教えてくれる。

「若手のパティ―というのは、男1人と女3人のパーティか?」

「そうだ。疾風の剣という名前だったらしいが、名前を変えるとか言ってたな」と言うドラッジの話を聞いていると、

「「「ラモンさ〜ん」」」と、若い女の声が俺の名前を呼んだ。

聞き覚えがある声がした方を見ると、アリサとメルルとミニアが、足早に近づいて来た。その後ろからリックも付いて来る。

「ラモンさんの武勇伝聞きました」とアリサが目を輝かせて言う。

「武勇伝は、大袈裟だな。まっ、座って何か食え。奢るぞ」と促すと

「へへっ〜。流石、ラモンさん」と、メルルとミニアが俺を挟むように両隣りに座り、アリサはちょっと遠慮がちに俺の向かい側に座った。だが、リックは居心地悪そうに立ったままだ、

「どうしたリック、お前も座れ」

俺に言われて、やっとリックも座った。

「好きな物を頼め。それと、何かあったのか?」

後半は、リックに掛けた言葉だ。

すると、アリサが

「疾風の剣は解散しました」と答えた。

俺は驚きながら、

「ちゃんとゴブリン狩りが出来るようにしてやったのに、何故だ。地道にやって行くんじゃなかったのか?」

「そんな意地悪言わないでよ」とメルルが俺の右腕にしがみ付き、

「私はラモンさんが忘れられないんです」とミニアが俺の左腕にしがみ付く。

「おいミニア、誤解されるようなことを言うな」と、文句を言うと、

「へへへっ、だって、ラモンさん暖かいんだもん」

とミニア。

「だから、それが誤解されるっていうんだ」と言いながら、メルルとミニアから腕を振り解く。

「実は、私達、ラモンさんに組んで貰わないと、身売りするしかなくなったんです。お願いします」と、アリサが真剣な顔をしながら頭を下げた。

「この前より深刻なことになってるな。どうしたんだ?」

「実は、私達3人は、実家が借金を抱えていて、それが払えないと、売られることになっているんです。それで、冒険者になってお金を稼いで返そうと思っていたんです」

「ゴブリンを狩るだけじゃ足りないのか?」

「それが2日前に村から使いが来て、期日が早まって半月以内に返さないといけなくなったと言うんです」

「それで?」

「私達がゴブリンを狩っても、とても借金を返す金は稼げなくて。でも、ラモンさんに組んでもらったら、借金が返せるだけの狩りが出来ると思うんです。虫のいいことを言っているのは分かっているんです。でも、他に頼る人がいなくて。それで、ギルドマスターにラモンさんがどこにいるかを聞いたら、この街に居ると教えてもらって。それで、マスターから一緒に来るかと誘ってもらったので来たんです」

「何故、俺しか頼れないんだ?ギルマスに頼めばいいじゃないか?」

「ギルドは、冒険者の個人的な事情に関わってくれません。それに、ラモンさんへのお願いは、タダとは言いません、借金の分を稼ぐまで、私達自身を差し出しますので、自由にして下さい」

と、アリサは涙を流しながら訴える。

こんな若い子が、ここまで思い詰めるなんて放っておけないが、俺がお金を建て替えれば済む話じゃないかと思って、

「借金はどれだけある?」と聞いた。

「私の家は金貨5枚、メルルとミニアの家は金貨3枚ずつです」

「それじゃあ、俺が金を立て替えてやろう」と言うと、

「金を立て替えるっていうことは、その嬢ちゃん達を買うってことだぜ」とドラッジに注意されて、この世界の面倒くさい一面を知ることになった。

「そこまで言ってるんだ、借金分を稼ぐのを手伝ってやったらどうだ」とドラッジが言葉を続ける。ここまで言われると断ることが出来ないので、俺は渋々頷いた。


この世界では、金貸しの許可を持っていない者が、誰かに金を貸すのはご法度らしい。だから、一般人の間では、売買は、あっても、貸し借りはない。何とも、不可解な世界だ。

そして、その副作用として、多くの者が、手持ちの金が無くなって奴隷に落ちたり、子供を売ったりすることになるらしい。アリサ達も、このケースのようだ。

個人的な金の貸し借り禁止というのは、たぶん、奴隷としての身売りを促進するための法律なのだろう。

もっとも、物々交換にこういった縛りは無いようで、村では未だに、物々交換が主流だという。

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