第7話 捜索隊

「助かったぜ。やばい奴だった。あいつはオークジェネラルよりも上位種じゃねえか?」

とハーフオーガの巨漢が話しかけてくる。

「たぶんな」と俺は答えておく。この世界に転生して日が浅い俺にはオークの上位種の区別なんかつくわけがない。ここは、知ったかぶりをして、あいまいに返事をしておく。

「他のオークはどうなった?」と巨漢が他の方を見て聞く。

「街に入った奴は、スカルたちが追いかけている」と、金属鎧を着た背の高い男が答えている。

「ヤバいのはあの1体だけだったか?」と巨漢は、金属鎧に状況を確認している。

「礼を言うのが遅くなった。さっきは助かったぜ。俺はこの街のBランクで、ドラッジだ。あんたの武器は凄いな」と手を差し出してくるので、握手に応えながら

「ラモンだ」と答える。

「あんたはAランクか?見ない顔だが、この街に来たばかりか?あんたがいてくれて助かったぜ」

「来たばかりというか、たまたま近くに来ていたのでな。それから、俺はAランクじゃない」

「じゃあBランクか?実力はAランク以上だがよ」

「いや、冒険者になったばかりだ」

するとドラッジと名乗った男は目を見開いて、

「訳ありか。そうか、それなら何も聞かねえよ」と、一人合点していた。

街の中から聞こえていた戦闘音がだんだん減ってきて、やがて静かになった。

「おい、そっちの路地を調べろ」

「その建物の中に潜り込んだ奴はいないか」

怒鳴り声が近づいて来て、5~6人の冒険者達が建物の角を曲がって姿を現した。

「ドッジ、そっちは片付い・・」と、スキンヘッドの筋肉ムキムキの巨漢が、途中で俺に気が付いて、言葉尻が消えた。

スキンヘッドの巨漢が向かい合って、なんだか合わせ鏡のような構図になってしまった。

「がははは、まるで双子じゃねえか。そうかそうか、スカルの兄弟だったのか」とドラッジが腹を抱えて笑う。

「おい、ドッジ、このお方は誰だ。俺は存じ上げないぞ」と俺じゃない方のスキンヘッドが、わざと丁寧な口調で、ドラッジに抗議する。

「からかって悪かった。この人は、オークジェネラルの上位種を倒してくれたラモンさんだ。Aランク上位の実力をお持ちだ。ラモンさん、こっちは副ギルドマスターのスカルベンだ」

この言葉に驚きながら

「Aランク冒険者がこの街にいたのか?幸運だったな。俺は副ギルドマスターのスカルベンだ」と、右手を差し出してきた。

俺は握手に応えながら

「さっきも言ったが、Aランクじゃないぞ。登録してまだ日が浅いラモンだ。山の中で長い間修行していた」

「そ、そうか。それで、オークジェネラルの上位種を倒してくれたのか。ところでそいつは何処にいる?」

「そこの肉の塊だ」とドラッジが、地面に積もった肉片の山を指さす。

「なんだと、これはただのこま切れ肉じゃねえのか」

「このラモンさんが、こま切れ肉にしちまったのさ」

「そ、そうか。それはお手柄だな。それで、そいつは本当にオークジェネラルの上位種だったのか?」

「まちがいねえ。これを見てくれよ」と言いながらドラッジは自分の武器である大斧を見せた。刃の中央が欠けて、全体に大きなひびが入ってしまっている。

「奴の斧を受けてこのざまだ。オークジェネラルは何度か狩ったことがあるが、こんな無様なことにはならなかった。間違いなく上位種だぜ」

「なら、オークキングか?」

「いや、オークキングなら何千というオークを引き連れているはずだ。こいつは、せいぜい数百のオークを連れていただけだから、キングよりは下位種だろう」

「それは、そうだな。キングが出たら、国の軍でないと対処できないからな」

そのとき、フルプレートに率いられた30名ほどの兵隊が街の中から引き揚げてきて

「スカルベン、ご苦労だったな。街に侵入したオークは全て討伐したぞ。それより、クレイドルは、まだ戻ってこないのか?だとするとオークにやられたか?俺は上に報告をしなければならん。スカルベン、クレイドルの代理として同行しろ」

こうして、カルスベンというおっさんは、全身金属鎧に連れられて街の中に去って行った。

そのとき「ラモンさん、あんたにも話を聞きたいから、ギルドで待っていてくれ」と言い残していったので、俺は立ち去ることができず、ドラッジの後をついて、この街の冒険者ギルドに向かった。俺は、冒険者ギルのドマスターの執務室に来ている。

案内してくれた美人受付嬢が、目の前にあるソファーを指して、掛けて下さいというので、執務机の向かい側に座る。

トラッジは1階で冒険者たちに指示を出しているそうだ。

暫く待つとトラッジがドアを開けて

「ラモン、そろそろ暗くなるがギルマスの捜索隊を出したい。参加してくれないか?」と聞いてきたので驚いた。

「夜に行くのか?捜索隊に被害が出ないか?」

「大規模な捜索は明日の夜明けに出すが、生き残りが、怪我で動けないか、どこかに隠れている可能性もある。腕利きだけでいったん現場を調べておきたい。スカルはこの街に残らないといけないから、行けるのは俺と腕の立つ奴等十数名だけだ。あんたがいると心強いんだがな」

一瞬、どうするか迷ったが、ここは応じておくことにした。

「どうしても行くというなら、一緒に行くか。あんたを見送って、その後で何かあったら目覚めが悪いからな」

「恩に着る」

そんなやり取りの後、総勢16名で街を出た。

昼間なら街から半日ほどで着くが、暗い中を周囲を警戒しながら歩くとその倍の時間がかかる。同行している連中は腕利きというだけあって、暗い中でもオークの群れが来た足跡を見定め、逆向きに辿っていく。

何度も魔物の群れに襲われるが、危なげなく撃退していく。いや、俺も働いているよ、ちゃんと。

夜明け前に、ようやく戦闘のあった現場に着いた。あちらこちらに小規模な魔物の群れがいて、まだ死体を食い漁っている。

戦闘が終わって丸1日近く経っているから、死体はもうほとんど食い荒らされているはずだが、残骸を漁り足りないのか、ここに居ればまた獲物にありつけると感じているのか、立ち去らない魔物の群れが、そこかしこに居残っているのだ。

「おーい、クレイ、ストレイ、いたら返事をしてくれ」トラッジが大声を張り上げる。そんなことをすれば魔物が寄ってくるが、トラッジ達は大声で叫び続けた。

「ライアン、ダリア、ベラミ、クライ、生きているか~、助けに来たぞ~」他のメンバーも大声を張り上げるが反応はなかった。代わりに、周辺にいた魔物達が集団で襲ってきたが蹴散らしていく。そうこうするうちに夜が明けて、周囲の状況が見えるようになってきた。

オークの死体も人間の死体も、今ではほとんど骨だけになっているが、俺が最初見たときの半分も残っていない。他の所へ持っていかれたり、巣に持っていかれたりした死体がかなりあるのだろう。

冒険者たちが5~6人のグループに分かれ、手分けして辺りを調べ始めている。

「これはダリアの杖じゃないか?」

1人が,大振りの杖を拾い上げて掲げてみせる。

「生き残りは居ないのか?」とドラッジが大声で叫ぶ。

明るくなって1時間ほどしたとき、10騎ほどの騎馬隊が到着した。領主軍の先駆けだという。彼らは飲み物や食べ物を持ってきてくれた。そして、調査の範囲を広げるといって、戦闘現場の周辺部に向かっていった。

俺達は食事をしながら少し休憩を取る。よく考えたら、昨日の午前中から休んでいないことに気付いた。

「本格的な調査隊も、先遣隊のすぐ後に出発したはずだ。あと鐘1つで着くだろうから、彼らが付いたら少し眠ろう」とドラッジが皆を元気づける。夜に出発した先発隊の全員が、もはや疲労困憊の様子を見せている。気力だけで持たせているのだろう。

俺はといえば、腹が減っただけだ。眠気は少し感じるが、疲労は特に感じていない。凄い体に転生したもんだと、誰にか分からないが感謝しておく。

皆が警戒したまま休んでいると、冒険者と領主軍の混成部隊が到着した。冒険者が約30人、領主軍が約30人だ。先遣隊と合わせると70人になるが、冒険者たちのほとんどはDランクで、強い魔物が現れれたら全滅しかねない。ドラッジはそれが心配で、先発隊を引き上げるかどうか迷っているようだった。

ついにドラッジは先発隊は残すと決断したようで、

「ラモン、もうここには強い魔物は出ないと思う。あんたには無理に付き合ってもらったが、街に帰りたければ、スカルへの伝言を持って行ってもらってもいいぞ」と言ってきた。

もちろん、俺にはありがたい申し出だったので、ドラッジの書いた手紙を懐に入れて、オルラーの街へ戻った。


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