第6話 オルラーの攻防

その頃オルラーの街では、ギルドの中が騒然としていた。

「ギルマスから定時連絡がないっていうのはどういうことだ」

「まさか、殺られたんじゃないよな」

「あいつに限ってそんなことはね〜だろう」

「あんた達、本当に心配なら、こんなとこでくっちゃべってないで探しに行ったらどうだい」

ギルマスだけでなく、討伐隊からも何も連絡もなく、誰も帰って来ないので、さては全滅したかという憶測が飛び交っていた。

「いや、だってあれだ。ギルマスってBランクだったよな」

「あぁ現役バリバリだ」

「そいつが帰って来ないんだ。俺たち程度が探索に行ける訳がない」

「なんだい、臆病風かい」

この街の有力な冒険者の多くが討伐で出かけてしまった為、残っているのはDランクの冒険者が多かった。

そのときギルドの扉を開けて、衛兵隊の伝令が転がり込むように入ってきて

「オークです。オークの群れが攻めて来たました」と叫んだ。

「何、オークの群れだと?」

「数は?」

「方向は?」

「数は数百、南門です」

その報告を聞いて、居合わせた冒険者たちがギルドから飛び出した。

真っ先に南門に着いたのは、2人の巨漢だった。

一人はスキンヘッドの筋肉マンで、この町の副ギルドマスターのスカルベン、もう一人は、副ギルマスよりさらに厳ついハーフオーガで、Bランクだが実力はAランクといわれている冒険者ドラッジだった。

彼らはすぐに門横の階段で、防壁の上に駆け上がる。

防壁の上には、この街の衛兵隊隊長のラックリッパーがいて、南の方に舞い上がる砂埃を指さす。

まだ遠いが、2足歩行の何かの群れがこの街に向かっている。

「オークか?」とスカルベンが確認する。

「オークだ。間違いない」とラックリッパー。

「数はそれほどでもないな。何故、こっちに向かっている?」とドラッジ。

「理由は分からんがこの街を目指しているのは間違いないだろう」とラックリッパー。

「あの数では脅威になるとも思えんが、迎え撃つ準備はしておこう。弓兵と魔法使いを、ここに集めよう」スカルベンはそう言い置いて、一度防壁を下り、付いてきたギルド職員に指示を出すと再び防壁の上に戻って来た。

数分後には防壁の上に冒険者が続々と登って来た。いずれも弓を抱えていたり、魔法使いらしい杖を持っていたりする。街の衛兵も弓を持って待機する。

彼らが防壁の上に展開してオークを待つ。

数十分後、防壁に近づいてきた300匹近いオークに防壁の上から冒険者たちが矢と魔法の雨を降らせる。

押し寄せてきたオークの群れが、防壁に近づく前にどんどん数を減らしていく。

「そら、これをくらいな」

ローブを着た女冒険者が宝石を嵌め込んだ木の杖を振ると、大きな火球がオークの群れに降り注ぎ、一度の攻撃で十数匹のオークが焼け焦げる。

「「「スラッシュ」」」

の掛け声とともに、数人の冒険者たちが剣や斧を振ると、見えない刃が打ち出され、オークたちの群れに血の花が咲く。

円陣を組んだ5人の魔法使いが呪文を唱える。

「猛り狂う炎の竜巻よ、我らの呼びかけに応えてその姿を現すがよい。すべてを燃やし尽くし、灰燼に帰すそなたはこの世の王ならん。力を見せよギガファイヤートルネード」

オークの群れの上に直径10メートルほどの魔法陣が現れ、次の瞬間そこから炎の竜巻が出現し、群れの中を右へ左へと突き進み、数十匹のオークを焼き殺していった。

これで勝負はついたかと思われたとき、生き残りのオークの中から、ひときわ大きな咆哮が上がった。同時に、何かが弾丸のように南門にぶつかって来た。

ドッシーンという鈍い音が響き、次の瞬間には鋼鉄製の門が倒れていた。

その衝撃で南門を支えていた両側の防壁の一部が崩れ、その上に陣取っていた10名近い衛兵と冒険者が瓦礫と共に地面に落下した。


その音は俺にも聞こえた。

『むっ、不味いんじゃないか?これは防壁か門が破られたか?』

オーク程度の魔物、高ランクの冒険者なら簡単に倒せるだろうと楽観視していたのだが、進化した奴はかなりの上位種なのか?


その頃、南門では衛兵や冒険者が倒れた門の下敷きになったり、防壁の上から転落したりして少なくない負傷者が出ていた。

そして、負傷者を助けようとした者たちは、倒れた門に殺到してきたオークによって屠られていった。

「くっ、こいつハイオークどころじゃねえぞ」

扉が倒されたときに、すかさず防壁から飛び降りて、その元凶と戦っているのはハーフオーガの冒険者ドラッジだ。

「おい、スカル、手を貸せ」

「ドッジ、こっちはこっちで手いっぱいだ。もう少し一人で持ちこたえてくれ」


地獄耳で街の様子を伺っていた俺は、この2人の怒鳴り声を聞きとったので、すぐに街に向かって駆けだした。森の端から街まではかなりあるが、身体強化を使えば4~5分で着くかもしれない。

俺は、マントに吊り下がっている武器を一つだけ手に持ち、残りは全て独房に放り込んで、全速力で走った。

『間に合ってくれ』

小さく見えていた街の防壁がだんだん大きく見えてくる。街までの距離の半分を超えた。

『もう少しだ。あと2分、持ちこたえてくれ』

祈る気持ちで走り続けて、やっと防壁に着いた俺は、すぐに壊された門に飛び込んだ。

そこでは、異常な雰囲気を放つ紫色の巨大なオークが、大きな斧を1人の巨漢に振り下ろすところだった。

武器を振るっていては間に合わない。

咄嗟に俺は、「奈落の鎖」とスキル名を叫んだ。

いきなり紫色のオークの手足が巨大な鎖に縛られて、斧は振り下ろされることはなかった。

しかし次の瞬間、オークは手足を束縛していた巨大な鎖を引きちぎった。

そして、憎々し気に俺を睨むと大きな斧で斬りかかって来た。

その斧を、手に持っていた武器、拷問円盤鋸の柄で弾き上げたが、重い衝撃が腕に走った。

「くっ、強い」

俺は後ろに飛んで距離を取り、魔力を流して柄の先端に円盤鋸を生み出す。

ギュュュュュュ~ィィィィィという音とともに、円盤鋸が回転しながら大きくなり、矢継ぎ早に灰色のオーク目掛けて打ち出された。

灰色のオークは何枚かの円盤鋸を斧で弾いたが、弾ききれなかった円盤鋸が何枚も体に突き刺さり、体に食い込んでいった。体に食い込んだ円盤鋸を払い落そうとしたそいつの指や腕は斬り飛ばされ、ついには首を斬られてゴトリと頭が落ちた。

体だけが暫く仁王立ちしていたが、体に食い込んだ円盤鋸に切り裂かれていき、ついにはいくつもの肉片になって地面にばらまかれた。




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