第4話 盗賊の上前をはねる

という訳で、今、俺は森の中を探索している。

説明するまでもなく、俺の狙いは魔物じゃなくて盗賊だ。しかし、その盗賊が見つからない。それはそうだよな。当てもないのに闇雲に探しても見つかるわけはない。そこで俺は頭を絞った。盗賊が出没するのはどこだ?まず、街道沿いだよな。しかも、街から1日以上離れたところだ。

というわけで俺は街道に沿って森の中を移動している。盗賊に見つからないように、移動するのは夜だけにしている。暗視スキルがあるので、夜でも目は見えるのだ。

昼は、スキルの独房に出たり入ったりして街道を見張っている。

街から10日程離れたところで、やっと目的のものに出会った。

隠密スキルで身を隠している俺の近くを、怪しい集団が通っていったのだ。

俺は、すぐにその後をつけていく。

目的は、話を盗み聞くことだ。

その集団は半日ほど歩き続けて、遂に野営の準備を始めた。

俺は、隠密スキルを使ったまま地獄耳のスキルを使って、聞き耳を立てる。

「今度の・・・は楽しみだな」

「・・・が手に入ったら・・・」

断片的に言葉が聞き取れる。その後、会話が全て聞き取れるようにもう少し近付いて聞いていると、こいつ等は盗賊の先発隊のようだ。

どこかで後続の奴らと落ち合って、何かを襲うようなことを話し合っている。馬車を襲うという言葉が聞こえたから、旅人か商人を襲うつもりなんだろう。会話の内容から盗賊であることが確定した。

こいつらからアジトの場所を聞き出そう。


俺は夜が更けて見張り以外の盗賊達が眠るのを待つと、2人の見張りの後に忍び寄って、それぞれの首の後ろにチョップを叩き込んで気絶させた。

倒れた見張りから剣を奪い、眠っている6人の盗賊どもの頭を殴りつけた上で、縛り上げた。

チョップで気絶させた奴等も縛り上げようと思ったら、すでに死んでいた。チョップが強過ぎて首の骨が折れたようだ。

縛り上げた奴らが気が付いたので、剣を突き付けて尋問を始めた。

「お前らの人数を言え」

「誰だてめえは?」

縛られている奴の1人が口答えするので、太腿に剣を突き立てる。

「質問に答えろ」

黙っているので剣を捻って傷口を広げてやる。

「わ、分かった。言うから、止めてくれ」

「それで?」

「俺たちは30人ぐらい居る」

俺は更に剣を捻る。

「嘘は良くないな」と鎌をかける。

「わ、分かった。ご、50人位だ」

「どこにいる?」

「洞窟だ」

「それはどこにある」

男は腕を伸ばして、ある方向を指差した。

「ここからどれくらい離れている」

「半日くらいだ」

「それで、お前たちはこれから何をするつもりだった」

「商人の馬車を襲う予定だ」

「それにしては人数が少ないな」

「お頭が残りを連れて来るぜ。お前はもう終わりだよ」

俺は剣を太腿から抜いて、首に突き刺した。

盗賊は「ゲフッ」と血を吹き出す。

俺は剣を動かして首を切り裂くと、そいつは放っておいて、他の盗賊に近づく。

その光景を見ていた他の盗賊たちは、縛られた手脚を動かして後ずさる。

「口は災の元だ。さて、次はお前だ」と生き残りの一人の首に剣の先を押し付ける。

「ひえっ、俺は下っ端だ。何も知らねえ。助けてくれ。何でも言うこと聞くから」

「お前らの頭は強いのか?」

「めちゃくちゃ強い、らしいです」  

「なぜ、らしいなんだ?」

「俺等下っ端はお頭と口を聞いたこともないですから」

「頭はどんな奴だ?」

「どこかの国の兵隊の偉いさんだったそうです」

「そうか、ご苦労だった」

俺はそう言いながら剣を首に押し込んだ。

「えっ、助け・・」

そいつは口から血を吹き出してこと切れた。

生き残りも全て殺すと、盗賊の死体から金目の物を漁った。

目撃者は殺しておかないと後が面倒だ。


こいつらの言ったことが本当なら、盗賊の後続部隊が来るということだ。しかも、親玉が強いといっていたから警戒しないといけない。強力なスキルや魔法も要注意だ。やはり先手必勝でいくべきだろう。

まずは、森のあちこちに落とし穴を作った。穴を掘るのは盗賊たちの鎧の鉄の部分をスコップ替わりに使った。穴は深くない。30センチくらいだが、そこに尖らせた木の枝を埋めておき、木の枝と草を被せて偽装する。そして、穴の周りにはツルを足首の高さで張り巡らしておく。

敵が森の中で走ったときに、蔓に足を引っ掛けて転び、落とし穴に顔から突っ込んで、尖った木の枝で怪我をさせる。敵を撹乱するための罠だ。

倒木を幾本か樹の上まで引き上げて、俺が待ち伏せしている場所で蔓を切ると丸太が落ちてくる罠も用意した。

最後に、若木を切り倒し、先を尖らせて木槍を30本ほど作った。

そうこうしているうちに空が白み始めてきたので、休憩して敵を待つことにした。

足元には大量の拳大の石も用意してある。石は落とし穴をつくったときに大量に手に入った。それをいったん独房に入れておいて、待ち伏せ場所で独房から取り出したのだ。

敵が罠地帯に差し掛かったら攻撃開始だ。

いよいよ敵が罠地帯の前まで来た。距離は約100メートル。俺は木の陰から出て身体強化を使って石を投げ始めた。とんでもない遠投だが、今の身体能力なら可能なのだ。

「グァッ」

「ギャッ」

盗賊たちは密集しているので、投げた石は次々に当たる。

だが、最初は2、3個投げては間を置き、数呼吸置いてまた投げる。

「敵か?」

「お頭、前の方から石が飛んで来ますぜ」

「石か?どれくらい飛んできた」

「一度に2、3個ずつです」

「何かの魔道具を使っているんだろう。間隔が開くと言うことは、1回撃ったら、次まで時間がかかるということだ。一気に攻めて潰してしまえ」

頭目の命令で飛び出した数人が、20~30メートル程走ったところで、足を蔓に引っ掛けて前に転ぶ。尖った木の枝を埋め込んだ落とし穴に、顔から突っ込むことになり、

「ギャー」

「グヮー」

と悲鳴が上がる。

「落とし穴だと」。

「小賢しい、横から回り込め」

盗賊達は散開して木の陰を伝いながらこちらへ駆けて来る。

足元が悪く、真っすぐ進めない森の中の100メートル。駆け抜けるには30秒以上、いや40秒以上かかるだろう。

その間に俺は本隊を狙って石を投げる。盗賊たちの大部分は、まだ密集したままのため、狙わなくても石が当たる。

散開した奴らが近づいてきたので、そちらへも石と木の槍を投げて数を削っていく。

その間に、盗賊たちの本隊が接近してきたので、樹の上の丸太を支えている蔦を切ると、左右の樹から丸太が盗賊達の頭上に降ってくる。

この攻撃は実際に当たらなくてもいい。気持ちの動揺を誘う為のものだ。それでも数人が丸太の落下に巻き込まれた。さらに追加で敵の正面から木の槍を投げる。

遂に、左右から盗賊達が回り込んできたので、これも木の槍を投げて迎撃した後、一旦身を翻して退却した。

そんな俺を盗賊たちが追いかけて来るが、またもや蔓に足を取られて落とし穴に顔から突っ込むことを繰り返す。落とし穴の先には木の槍を数本ずつ置いてあるので、槍を置いた所まで来て、立ち止まっては投槍で敵を倒す。

本隊への投石攻撃で6人が大怪我で離脱。最初の落とし穴で2人が負傷。その後落ちてきた丸太で3人が負傷。その時に投げ込んだ木の槍で3人が負傷。散開して突撃した連中は2人が投げ槍に貫かれて死亡、俺を深追いしてきた5人は返り討ちにした。合わせて7人が死亡、6人が大怪我。何とか動ける負傷者が8人。50人からいた盗賊たちを30人ほどに削った。


「20人もやられたのか?役立たずどもめ!」

頭目が大声をあげる。

「頭、この先は罠だらけのようですぜ」

「敵は何人だ?」

「分かりません。誰も姿を見ていないもんで」

「そんなはずないだろう」

「敵に近づいた奴らは全部殺られたみたいですぜ。」

「どこかの国の秘密部隊上がりでもいやがるのか?」

「秘密部隊?」

「よし、一旦退くぞ」

「え〜、まだまだやれますぜ」

「バカヤロー!相手は罠を仕掛けてるんだ。このままここに居て、後ろから攻撃されたらどうする」

「そのときは・・・・」

「前に移動するしかなくなったら、罠だらけの場所に突っ込まないといけなくなるだろうが。だから、ここから距離を取るんだよ」

盗賊たちが退却を始める。

俺は盗賊たちから一定の距離を取って追いかけながら、遠くからその背中に向かって石や木の槍を投げていく。

「グワッ」

「ギャッ」

逃げる途中の集団から、早くも10人程が脱落した。

退くときはまだ30人ほどいた盗賊たちだが、既に20人ほどになっている。

盗賊たちの拠点の洞窟までは、まだ遠い地点で日暮れが訪れた。

「くそ、逃げ切れない。ここで迎え撃つぞ」

盗賊の頭目は体の向きを変え、剣を構えて、追撃者を迎え撃つ姿勢を見せた。

手下の盗賊達も全員退却を止め、振り返って剣を構える。

そこへ、ギュュュュュュ~ィィィィィという音とともに、前方の森から何かが飛び出して来た。

「なっ」。

誰も反応出来ない速さで飛んできたのは、直径1メートルほど円盤鋸の歯であり、高速回転する鋭い歯が人体を紙のように斬り裂き、1人目を斬り裂いても勢いは衰えず、2人目、3人目と斬り裂いて後方へと抜けて行った。

ギュュュュュュ~ィィィィィという音と共に、次々と闇の中から現れる円盤鋸。

「グァッ」

「た、助けて・・」

ザシュ、ザシュ

不気味な音がするたびに、仲間の体が千切れ、斬り裂かれて倒れていく。

「チッ」

頭目は自分を目掛けて飛んできた円盤鋸を剣で弾いた。

しかし、弾かれたのは剣の方だった。

ザシュ

円盤は威力を落とすことなく頭目の胴を輪切りにして、後ろに抜けて行った。

生き残った数人がアジトを目指して逃げていく。俺は、1人ひとり仕留めながら追いかけ、アジトの洞窟の場所を突き止めた。

盗賊達の洞窟には5人が残って警戒していたが、これも円盤鋸を打ち出して殺した。

洞窟の奥には特に何もなかった。ラノベだと奪った財産がたっぷりあってウハウハとなるのだが、財宝も女奴隷も見つからなかった。盗賊たちの寝床の下から金貨と銀貨を数枚ずつ見つけたのが唯一の収穫だった。

その後、森で殺した盗賊から金や持ち物を回収した。頭目や幹部と思われる奴らは、それぞれ数枚の金貨と銀貨、宝石の付いたアクセサリーなどを持っていた。金目の物は持てる分だけ持って、残りは、剥ぎ取った武器や鎧と一緒にスキルの独房に放り込んでおいた。

洞窟の中で集めたものと、ここで盗賊の死体から漁ったものを合わせると、金貨17枚と銀貨が50枚くらいになった。

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