第3話 困った申し出

森の中を彷徨っている間は、拷問スキルの独房で寝泊まりしていた。

スキルで出せる独房は、俺が指定した人間だけしか出入りできず、どこででも出現させることができる便利な異空間だ。この空間があるお陰で、夜はぐっすり眠れるし、好きな時間にのんびり休むことが出来ていた。

食べるものは、魔物を狩って拷問魔法の火炙りで焼いて食べていたし、水も拷問魔法の水責めで好きなだけ出せるので、飲み食いにも不自由しなかった。おまけに魔物を狩って溜まった魔石は独房に保管できたので、持ち運ぶ必要もなかった。

実は、この街に来るまでにかなりの魔物を倒している。ラノベの知識を参考にしながら、魔石があるかもしれないと、拷問用の巨大メスで解剖してみたら、石が出て来たので、これは魔石に違いないと集めておいたわけだ。

この街を見つけたとき、街に入るために並んでいる行列の中にいた商人風の男にこの石を見せると、買い取るというので、この石が魔石だと確認できた。

えっ、街に入るときの税金はどうしたかって?

その商人が魔石を買い取ってくれた金で、入街税を払ったに決まってるじゃないか。

この後、この商人から、魔石を金に換えるにはどこで売ったらいいかも聞き出した。

そして、商人から教えてもらった道具屋で、持っていた魔石の3分の1ほどを売った。

冒険者ギルドで魔石を売らなかったのには理由がある。

「あんまり多くの魔石を冒険者ギルドで売ると騒ぎになるぜ」

「なぜ騒ぎになるんだ?」と聞くと

「いきなり腕の立つ新人が現れてみなよ。貴族や領主が抱え込もうとして動き出すからさ。あんた、力が強そうだし、腕も立つんだろう。用心しなよ」

と、商人に忠告されたからだった。

魔石を売って、そこそこの金になったので懐は少し暖かい。だが、大食いのこの体は食費がかかりすぎるので、食堂で腹いっぱい食べているとすぐに赤字になりそうだ。

だから、一泊だけ宿に泊まることにして、明日からは、また街を出て狩りをすることにしよう。

と思っていたが、何故か疾風の風の3人娘が、俺の後から付いて来て、疾風の風を抜けるから、俺のパーティに入れて欲しいと言ってきた。

何故、俺なんだと聞いてみると

「この世界は力のある者が全てを支配します。あなたはその一人に違いない。だから付いて行けと私の直感が告げています。お望みなら、私の体を自由にしてもいいので、あなたのお傍に置いてください」と言ってくる。アリサだけでなく、メルルとミニアも同じ考えのようだ。

リックはどうするんだと聞くと

「彼は男だから1人で生きていけます。ですけど、彼には私達を護る力はありません。彼と一緒にいると、近いうちに、私達はもっと力のある男達のパーティに無理矢理入れられてしまうでしょう。それなら、好もしいラモン様に身を委ねたいのです」

結局、リックは見限られたわけか。

「俺の女になるということか?今まで、リックの女じゃなかったのか?」

「リックとは、そういう関係にはなっていません。ただ出身の村が同じだったというだけです。ですから私達は処女です」

「俺に処女を捧げると?」

「「「はい」」」と3人がハモる。

「リックに恨まれないか?」

「弱いリックが悪いのです」のにべもない。


日本人の感覚なら、未成年を、しかも相手の弱みに付け込んで関係を持ってしまったら悪質な犯罪でしかない。

しかし、この世界では成人は15歳だ。アリサもメルルもミニアも15歳に達しており、成人している。つまり大人として扱われるわけだ。

さらに、この世界の平民には結婚という概念がないらしい。結婚が出来るのは貴族が豪農か、裕福な商人だけで、特に財産を持たない平民は、結婚しても子孫に受け継がせる財産がないから、結婚という制度自体が適用されないのだそうだ。例外的に、平民から身を起こして財産を持った場合はどうなるか?そんな場合は、金で身分を買えば結婚できるようになる。

それでは平民の男と女の関係はどうなっているかということだが、男女の関係になっているかどうかが全てであるようだ。

男女の関係にさえなっていれば、俺の女に手を出すなは、この社会でも尊重される。かなりの乱暴者でも、誰かの女になってしまった者には手を出さない。それを無視した場合、領主に訴えられると縛り首になるからだという。

リックについては、彼女たちはリックに力がないからと、関係を拒否していたらしい。

というわけで、この3人の美少女達が、俺に言い寄ってくる裏には、俺と寝ることで俺に保護してもらおうという下心があった。

この世界では、男女の関係は好き嫌いよりも、打算というか、生きていくすべをいかに確保するかという要素が剥き出しになっている。それだけ生きていくことが厳しい世界であるようだ。まあ、地球の恋愛だって、オブラートに包んではいるが、似たような面があるのだろうけど。

「そんなに結論を急ぐことはないだろう。ときどき狩りに付き合ってやるから、この話は、いったん保留にしとけ」

「でも・・」と食い下がろうとしたので、

「それなら明日、狩りに付き合ってやる。街の門が開く時間に、門の所で待っていろ」

「「「分かりました。よろしくお願いします」」」と美少女達はお辞儀をして踵を返したので、

「リックを連れてきてもいいぞ」と後姿に声を掛けておいた。

アリサ達は、振り返えると軽く会釈をして帰って行った。


翌朝、門の所に行くと、3人の美少女とリックが待っていた。リックは3人から少し離れて立っており、少し居心地が悪そうにしている。

俺はそれを無視して

「行くぞ」と言って門を出た。

街から森に向かって歩きながら、

「今まで狩った中で一番強い魔物は何だ?」と聞いた。

「ゴブリンです」とアリサ。

「お前たちのレベルはどれくらいだ?」

「私は3です」

「2です」

「2です」

「俺は4です」とリックだけ遠慮がちに答える。

あまりのレベル低さに驚きつつも

「そ、そうか。う~ん、他の新人はどれくらいなんだ?」

「冒険者になって1年や2年ではそんなものです」とアリサ。

「そうか、それじゃ、まずゴブリンを狩ろう」

ちなみに俺のレベルは、この街に入るまでに23になっている。


森に少し入ったところで、気配察知で魔物を探す。

間もなく3匹のゴブリンを見つけたので、アリサに攻撃させる。

「風よ、火よ。我の求めに応じ、この世の理を超えて我の願いに応えよ。風を巻き、火を巻き、敵を焼き尽くせファイヤートルネード」

呪文と共にゴブリンの周囲に現れた火の竜巻が、1匹のゴブリンの体を包んで燃え上がる。

1匹のゴブリンが燃えながら、残りのゴブリンは無傷のままこちらに向かって突っ込んでくる。

「剣に纏いし風よ。我が願いに応えて、力を与えよ、疾風剣」

リックが短い呪文を唱えつつ長剣を振り、無傷のゴブリンを斬り倒した。

しかし、もう1匹のゴブリンと燃えているゴブリンが、リックの脇を抜けてくる。

『これがこのパーティの限界か』

俺は、向かって来る2匹のゴブリンに駆け寄り、素手で殴り倒した。

「えっ、素手で」

「うそっ」

4人は驚いて固まっているが、

「止めを刺せ」

俺の指示に従って、アリサとメルルとミニアがそれぞれの短剣を、転がっているゴブリンに突き刺す。

今までは、ゴブリンが3匹いると、リックが1匹倒している間に、後衛が残りの2匹に攻撃されるので、手を出せなかったという。ゴブリンが1匹でいることは珍しく、運よく1匹だけのゴブリンを見つけたときしか、ゴブリン狩りが出来なかったという。

「そうか、それなら今日は、ゴブリンを狩りつくそうか」

俺達はさらに森の深くに入り、70匹以上のゴブリンを狩り、4人のレベリングに励んだ。

「俺、レベルが8になりました」とリックが驚いたように言う。

「私は、レベルが7になりました」とアリサが続けて言う。

「「私もレベルが6になりました」」とメルルとミニアも声を揃える。

俺は、お子様を引率しているような気分になりながら、その日の狩りを切り上げ、街に戻った。

リック達から、晩飯を奢らせて欲しいと言われ、ある食堂に連れていかれた。入ったのは、森の茸亭というメルヘンな名前だが、店の中では暑苦しい熊みたいな親父がコックと給仕をやっている、名称詐欺みたいな店だった。この店の名物だという壺焼き茸のミートパイは話以上に美味かったが、あまり食べるとリックたちの懐具合に響くので、食べるのは控え目にしておいた。

この時、盗賊を討伐したらどうなるかを聞いてみた。

俺は、自分自身が何者なのかという謎を抱え込んでいる。しかも俺のステータスやスキルについては、誰かに知られるのは不味いと本能が告げている。そうはいっても、この世界の常識や情報を教えてくれる相手は欲しいし、パーティーを組めるような相手も欲しい。しかし、疾風の風のような年端も行かない世間知らずの少年少女ではダメだ。

この世界がラノベに似た世界なら、必ずあるはずのもの。それを手に入れることを俺は考えている。ふふふっ、何を考えているかって?もう察しているだろう、奴隷を手に入れるのだ。

しかし、奴隷を買うには金が要る。それも相当な大金が必要だ。そこで、ラノベによくあるように、盗賊が溜め込んだ金を奪うというミッションを考えていた。

「盗賊を討伐したら報奨金がもらえますよ。賞金首が混じっていれば、賞金ももらえるはずです」

「盗賊が溜め込んだ金や財宝を見つけたらどうなるんだ」

「見つけた者のものになります。ただし、貴族の持ち物は別で、貴族に返さないと縛り首になりますので注意が必要です」

「冒険者は、盗賊の討伐はしないのか?」

「たまにギルドから依頼が出ることがあるそうですけど、俺達は参加したことがありません。俺達はランクが低いので、受けたくても受けられないですけどね」

「そうか、俺は暫くこの街を留守にすることにした。お前たちも今なら、ゴブリンの3匹くらい危なげなく狩れるだろう。暫く、自分達だけで狩りをしていてくれ」

「もしや、盗賊狩りに行かれるんですか?」とアリサ。

「それは秘密だ」と俺は笑って誤魔化しておく。話の流れから誤魔化せているとは思えないが、口で否定しておくことは大事だ。

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