第2話 2つのパーティ

あれからどれくらい森の中をさ迷っただろう。今、俺は、とある街の冒険者ギルドのドアを開けて中に入ったところだ。

目の前で、複数の人間が睨み合っている。俺に背を向けているのは4人の男達だ。その向こうにいるのは、男1人に女3人のグループだ。

「だから、そっちの女達をこっちに寄越せばいいんだよ」

「そんな男と組むより、俺達と組んだ方が得だぜ、お嬢さん達よ。なんといったって俺達はDランクのパーティだ。その駆け出しのEランク野郎とは訳が違うぜ」

どうやら手前のパーティが、向こう側の女達を無理やり引き抜こうとしているようだ。

「何を勝手なことを言ってるんですか。僕たちはこのメンバーでやっていくと言ってるんです」と向こうのパーティの男が主張する。

それをあざ笑って

「聞き分けのないことを言ってると、痛い目をみるぜ」と手前のグループの男。

これは脅しだな。そんなことより通してもらいたい。

俺は片手をあげて、一番近くの奴の肩を軽く掴んだ。

そいつはビクッと硬直するが、構わずに

「おい、通してくれないか」と耳元で囁く。

その瞬間、言い争いに集まっていた視線が、一斉に俺の方に集まる。

同時に

「ひっ」

「きゃっ」

「げっ」

小さいとはいえ、失礼にも悲鳴が上がり、ギルド内が凍ったような沈黙に包まれた。

その異様な雰囲気に気付いたのか、男たちのパーティが後ろを振り返った。

そこで彼らが見たものは、2メートルを超える上背と樽のような分厚い体格を黒いマントで包み、スキンヘッドの額には入れ墨を入れ、凶悪そのものの顔で一番後ろのメンバーの肩を片手で掴んでいる魔人、つまり俺の姿だった。誰が魔人じゃい。

肩を掴まれたメンバーは、すでに泡を吹いて気を失っており、肩を掴まれたまま脚は宙に浮いている。

俺が手を離すと、そいつはドサッと地面に落ちて俺の行く手を塞いだので、

「邪魔だ」と軽く横に蹴ると、そいつは吹っ飛んで行って横の壁にぶつかった。

ベチャという嫌な音がして、そいつの体は一瞬、壁にへばりつき、その後ゆっくりと地面に落ちた。器用な奴だ。

俺が一歩前へ進むと、残りの3人の男は後ずさる

更に一歩前に進むと、1人が躓いて尻もちをつき、残りの2人も釣られて躓いて尻もちをついた。

「お前ら、今までに悪いことをしていないか?」

と、俺が腰を屈めて男たちの顔を覗き込む。

先ほど1人目の男の肩を掴んだときに、そいつが行ってきた悪事が俺の頭に流れ込んできたのだ。自白強要のスキルの効果のようだ。

男たちは、狂ったように首を横に振っている。

「認めないなら、自白させてやろうか」

俺は、マントを広げて、そこに吊るしてある拷問道具を見せ、拷問プライヤーを取り出そうとすると

3人は、「「「イ、イヤダー」」」と悲鳴を上げ、手と膝で走るという器用な芸当を見せながら、俺を迂回して入り口の外へと転がり出て行った。

俺は首を捻ってそいつらが出て行って扉が閉まるのを見届けると、前に向き直る。

俺の前にはもう誰も立ち塞がっていなかった。

カウンターの前に立った俺は受付嬢に

「登録がしたいんだが」というと受付嬢は

「と、と、と、登録でしゅか?」と歯の根が合わない感じで答えた。噛んでるし。

受付嬢は書類を取り出して

「ご、ご、ご記入ください」と、カウンター越しに差し出してきた。

俺は、名前と年齢だけを書いて返すと、受付嬢は暫くお待ちくださいと言い置いて、書類を持ってカウンターから離れて行った。


暫くするとカウンターの奥の方から年配のイケメン男性が、受付嬢を伴って現れた。

「私はギルドマスターのクレインバウム・シュトランゼールだ。あのダニどもを追い払ってくれたらしいね」

と言って手を差し出してきたので、思わず握手に応えた。

「ラモンだ。あいつらはダニだったのか?」

「ああ、ダニだった」

「なぜ、放置しておいたんだ?」

「ギルドの規則でね。冒険者が明らかに人を害していない以上、ギルドが干渉できない仕組みになっている」

「なるほど。ズルい奴は取り締まれないという訳か」

ギルドマスターは口元を歪めて

「辛辣な言い方だな。ところで、新人とは思えないが、どこかで活躍していたのかね?」

「いや、新人だ。ずっと山の中で修行していて、人里に出て来たばかりだ」

「そうか。何か、問題があったら、ココに言ってくれ。それでは、これで」

と言ってギルドマスターは奥の部屋に戻って行った。

その後を受付嬢が引き継いで

「ココと言います。ラモン様の専属になるように言われました。よろしくお願いします」

「ああ、こちらこそ、よろしくな」

と頷いて、ギルドカードを造ってもらって出て行こうとすると、

「「「先ほどは、ありがとうございました」」」と

と絡まれていた若手のパーティがお礼を言ってきた。

「気にするな」と答えると、

「よければお礼にお食事をおごらせてもらえないでしょうか?」

と言ってくるので、

「気持ちだけ受け取っておくよ。俺は大食いなんで、俺に奢ると金が無くなるぞ。それより、お礼をしてくれるんなら、この街の話を聞かせてくれ。俺はよそ者だから、知らないことが多いんでな」といって、受付の横にあるバーの方を顎で示した。

「分かりました。それがお望みなら、いくらでも」

俺はバーのテーブルに陣取り、若いパーティからこの街の冒険者のことを教えてもらった。

このパーティーは、疾風の剣というありふれた名前で、リーダーはリックという16歳の若者だった。他のパーティメンバーも16歳のアリサ、成人したての15歳のメルルとミニアで、大人にはない未熟さと、真っすぐさがまぶしい連中だった。

この街は、ディアブロ―といい、アケローン王国の西の外れにあるらしい。

冒険者が、魔物を狩って魔石や素材を売って稼いでいるのは、ラノベの知識と共通していた。

リックとアリサは冒険者になって1年と少し、メルルとミニアは冒険者になって半年ほど。4人は同じ村の生まれで、先に街に出たリックとアリサを追って、メルルとミニアも村から出て来たということだ。

疾風剣士のリックが前衛に立ち、火と風の魔法が得意なアリサが後衛だったが、そこに斥候役のシーフのメルルと水魔法が使えるミニアが加わったことで、かなりバランスの良いパーティになったということだった。しかし、前衛が1人しかおらず、盾役がいないのと火力不足のせいで、弱い魔物しか相手に出来ないのが悩みだという。

「厚かましいかもしれませんが、ラモンさんが一時的にでも僕らのパ-ティーに加わってくれたら、強い魔物が狩れるんです。お願いできませんか」

「やめておけ。俺と組むと、あいつらを敵に回すぞ」

あいつらというのはダニのことだ。

「あいつらは、ラモンさんを恐れて近づいてきませんよ」

「いや、俺が居る間はそうだろう。しかし、俺はいつまでもこの街に居ないぞ、俺が出て行った後、あいつらから目の敵にされると思うぞ」

「「え~、この街を出ていくんですか~」」とメルルとミニアがハモる。

「まあ、大人しく、自分達に合ったことをしていたらどうだ」

「ラモンさん、あいつら、しつこく言い寄ってくるんですよ。私たちを助けてくれないんですか?」とアリサという美少女が、興奮の為か顔を赤くして言う。

「おい、アリサ、厚かましいぞ」とリックが止める。

いくら美少女の願いとはいえ、知り合っただけの人間の面倒を見ると約束することはできない。

「間違っちゃいけない。さっきは偶然助けた形になっただけだ。俺が君を助ける筋合いはない」

「そんな」とアリサは絶句する。

「よく考えるんだ。俺の力に頼っていたら、俺がいなくなったときに困るだけだ。俺以外に、頼れる仲間を見つけろ。自分達のことは自分達で守るんだ」

「そうだよアリサ。会ったばかりの人に頼っちゃだめだ」とリック。

「リックはよく分かっているようだな。早く頼れる仲間を見つけることだ。それじゃ、頑張れよ」と俺は席を立った。

「ま、待って・・」とアリサが言いかけるが、リックに腕を掴まれて止められた。

そんな風に断ったわけだが、あいつらのことは密かに気を配っておこうと思いつつ、俺は宿を探した。

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