拷問師ラモンと引き籠り真祖の異世界スローライフ

肩ぐるま

第1話 拷問師?

『重い』

何かが背中に乗っている。

身動きが取れない。いや、体に力が入らないだけか?

息も苦しい。何かが顔に押し付けられている。

体を起こそうと手足に力を入れると、上半身が少し持ち上がった。

どうやら俺は俯きで大の字になって気を失っていたらしい。

しかし、まだ背中に何かが乗っている。

力を入れて体を起こし、膝立ちになる。同時に、背中に乗っていた何かが地面にずり落ちた気配がした。

見えていなかった目が、だんだん見えてきて、ぼんやりとだが周囲の様子が分かってくる。

周囲を見回し、下を見て、後ろを見下ろす。

そして、そこにあるものを触って確かめる。

『冷たい』

俺の周囲にあるのは、人の体だった。いや、人だったものの体、つまり死体だ。

さっき、俺の背中から落ちたのも死体だった。

そして、充満する血の匂い。

体に力が戻ってきたので立ち上がった。

『ここは、戦場だったのか?』

周囲にあるのは、地面を覆い隠すほどの死体。そして、折れた剣や槍や矢が、そこかしこに突き立っている。

どの死体も鎧や兜を着込んでいた。

『ここは戦場だったのか?しかし、いつの時代だよ?』


俺は自分自身が怪我をしていないか、自分の体を見下ろした。

体は、黒い革のマントで包まれていた。マントの前を開けようとすると、ガチャンガチャンという重量感のある金属音がマントの内側から聞こえた。

構わずに、マントを開けると革の鎧を着ており、マントの内側には、見たことのない奇怪な金属製の道具がいくつもぶら下がっていた。さっき音の正体だ。

俺は途方に暮れながら、もう一度周囲を見渡した。

そのとき、眼の隅に何かの塊があるのに気がついた。その塊に意識を向けると、それは目の前に移動してきた。


名前 ラモン

種族 不詳

年齢 不詳

職業 拷問師

レベル 不詳


スキル

拷問技:威圧、自白強要、拘束、独房、断頭、解剖、鉄の処女(未開放)、奈落の鎖(未開放)、煉獄送還(未開放)

拷問魔法:火炙り、水責め、氷漬け、石抱かせ、高圧電流、毒沼

拷問師闘技術:拷問レンチ術、拷問プライア術、拷問執刀術、拷問円盤鋸術

拷問師特性:怪力無双、体力強化、超再生、精神力強化、完全毒耐性、状態異常耐性、気配察知、隠密、地獄耳、千里眼、暗視、隠蔽、翻訳


『何だこれは?ステータスウィンドか?誰の?』

キョロキョロと周りを見回すが、立っているのは俺一人だけだ。

『やっぱり俺自身のステータスか』

名前がラモン?職業が拷問師?その他は不詳だって?

これが俺?そんな馬鹿な。


『ラモン?羅門朝人』

自分の名前とともに、記憶がフラッシュバックした。

トラックのヘッドライトが目の前に。そう、俺は、あのとき死んだはずだ。

『すると、ここはあの世か?』

回りは死体ばっかりだし、その考えは、あながち間違っていないかもしれない。

ここで立ち尽くしているわけにもいかない。血生臭さすぎる。


俺は、死体に埋まっている脚を引き抜き、地面を覆い尽くしている死体を踏みつけながら歩き始めた。

脚は膝まである革ブーツを履いている。

そのとき、ふと、ラノベならこんな時、死体が持っている武器や金を頂戴するよな、と思いついた。屈み込んで足元の死体の懐を探ってみる。しかし、手が届く処にある死体からは金が見つからなかった。


ガルルルル。

背後から何かの唸り声が聞こえた。

振り返ってみると黒い大きな獣がいた。

前脚が地面に着いていても、頭の位置が俺の目線より高い。

そいつは、軽く口を開いて、長い舌と涎を垂らしながら充血した目で、俺を見ている。

いや、睨んでいるのか。

俺は思わずマントの裏に掛かっていた長さ1メートル以上ありそうな金属の棒を取り出して、右手に持って構えた。

その棒を目の前の犬に向けると、

キュュュュュュ~ィィィィィ~という甲高い音がして、棒の先端から円盤鋸のようなものが出現し、大きくなりながら回転し始めた。

ギュュュュュュ~ィィィィィ~。

円盤鋸は、さらに大きくなりながら回転数を上げていき、音も物騒なものに変わっていく。


ガルルルル。

獣は、円盤鋸を警戒したのか後ずさり始めた。と見せかけて、いきなり俺に飛び掛かって来た。

俺は、とっさに円盤鋸を獣に突き出した。その瞬間、円盤鋸が幾つにも分かれて棒の先端から飛び出し、獣の体をやすやすと貫通していった。

飛び掛かって来た獣は空中で失速して目の前に落ちたが、その体は幾つにも斬り裂かれた肉片と化していた。


『ここは地獄か?そして、この獣は地獄の番犬ガルムか?』

そんなことを考えているうちに、今倒した獣と同じ奴に取り囲まれていた。

ガルルルル。

ガルルルル。

ガルルルル。

一斉に飛び掛かられて、俺は円盤鋸のついた棒をメチャクチャに振り回した。

数十匹の獣に体中を噛みつかれて、革鎧がボロボロになったが、最後に立っていたのは俺だった。

『とにかくここを離れよう』

俺は、近くに突き立っていた槍を杖代わりにしながら、この場を離れるために歩き出した。

歩きながら体を確認していると、あれだけ噛みつかれたのに怪我をしていなかった。

革鎧はボロボロになったが、下に着込んでいる鎖帷子は無傷で、何故かマントも無事だった。

『鎖帷子のお陰で無事だったのか?』

そんなことを考えながら、鎖帷子で護られている前腕を見る。

『うん?この腕、太くないか?』

そうだ、今になって初めて、自分の体が記憶にある自分の体と随分違うことに気が付いた。

胸も腕も厳つい筋肉が盛り上がっており、掌も大きくて分厚い。比較するものがないから、確かめようがないが、恐らく背も随分高くなっているような気がする。


どれくらい歩いたのか分からないが、気が付くと目の前に黒い空間が浮かんでいた。

これは出口だ。何の根拠もないまま確信が生まれ、俺はその黒い空間に脚を踏み入れた。

瞼を一瞬閉じただけだが、次の瞬間には森の中に立っていた。


『ここは?』

俺は改めて周りを見回した。


直径が20メートルはありそうな大木が林立し、その隙間に、小さな、といっても直径数メートルはある樹が生い茂っている。

樹の枝は、一番下の枝でも十数メートル上にある。見上げても空は見えないが、葉の間で乱反射した光が地上まで届いているので、十分に明るい。


周囲を見回して危険がないことを確認すると、もう一度ステータスを確認した。


名前 ラモン

種族 魔神人族

年齢 26

職業 拷問師

レベル 11


HP 350/350

MP 500/500


スキル

拷問技:威圧、自白強要、拘束、独房、断頭、解剖、鉄の処女、奈落の鎖、煉獄送還

拷問魔法:火炙り、水責め、氷漬け、石抱かせ、高圧電流、毒沼

拷問師闘技術:拷問レンチ術、拷問プライア術、拷問執刀術、拷問円盤鋸術

拷問師特性:怪力無双、体力強化、超再生、精神力強化、完全毒耐性、状態異常耐性、気配察知、隠密、地獄耳、千里眼、暗視、隠蔽、翻訳


『む、ステータスが変わった』

種族が不詳から魔神人族に変わっている。

だけど、魔神人族って何だ?魔神なのか、魔人なのか?神か?人か?その中間という意味か?

年齢が26、レベルが11。この辺りは、まともそうだ。

だが、職業が拷問師というのは納得できない。いたって平凡なサラリーマンだった俺が、何故、そんな物騒なジョブになった?心の奥にそんな願望があったのか?いやいやいやいや、そんな物騒なことは願望していないぞ。願望していないはず。たぶん。


そしてスキル。

拷問技に拷問魔法に拷問師闘技術、おまけに拷問師特性まである。

こちらも納得できない。

さらに驚くことに、ボロボロになっていた革鎧が、いつの間にか元に戻っている。自動修復機能という奴か。

マントの裏にぶら下っている器具を一つ一つ手に取ってみる。

手に持つと、何故か器具の名前と使い方が分かる。


拷問レンチ

これはモンキーレンチを、そのまま大きくしたような形状をしており、長さが1メートル以上もあり、先端がレンチのような形状になっている。

拷問プライア

これはプライアを大きくしたような形状で、2つの柄で何かを挟むことができる。長さが1メートル以上もあるので、梃子の原理で生み出される挟む力は尋常ではない。

拷問執刀

ほとんどメスの形状をした武器だが、長さが1メートほどもある。その刃は、鉄板といえどもスパッと切り裂く。

拷問円盤鋸

これは太さが5センチ以上、長さが1メートルを超える鉄棒で、一方の端を持つと、反対側の先端に円盤鋸が現れる。最初に獣に襲われたときに思わず使った武器で、この円盤鋸が大きくなって回転したり、分裂して飛んで行ったりするようだ。その威力は半端なもんじゃない。


器具というより武器だが、まあ、この拷問円盤鋸を手に持っていれば、大概の獣は倒せるだろう。

ここがどういう世界が分からないが、とりあえず、人の居るところを探してみよう。

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