第2話
尚弥の足は遅い。
先に走った二人は運動部ということもありどんどん距離が離れていってしまった。
澤田と岡本は無事に校門の外に出て、坂を下っていくのが見えた。あの二人が警察に連絡してくれるだろう。尚弥もとにかく必死に走った。
しかし、唯一の出口である校門の前にいつのまにか巨大で真っ黒な影が現れた。
尚弥は目を見張る。さっきまで後ろからのろのろと追いかけてきていた怪物が突然瞬間移動していたのだから。
だが、思わず後ろを振り向くと先ほどの怪物はまだ後ろから尚弥を追ってきていた。
「増えた?!」
尚弥は焦り出した。
後ろから怪物、前からも怪物で挟み討ちになっていた。
幸い足は尚弥の方が速い。校門からは出れそうに無いので、一度校舎の中に入り撒くことにした(上手くいくかはわからないが)。
運動場の端から一気に真ん中まで移動し、脚がちぎれそうなぐらい必死に校舎へ向かって走った。校舎の中に入ると3階まで一気に駆け上がった。廊下の窓から様子を伺うと二体の怪物はずずずっと校舎へ向かってきていた。これで出口はフリーだ。
尚弥は「よし」と小さく頷き外に出ようとした。が、新たな問題にぶち当たった。
「1階の玄関に出るまでにあいつらと会う可能性あるの忘れてた」
しかし、何か考えている猶予も今は残されていない。このままだと警察が着いた時にはもうきっと手遅れになっているだろう。
下の階から怪物の不気味な足音が迫ってきている。
とにかく動こうと立ち上がった尚弥の視界に光が見えた。それは先ほど三人で設置していた蝋燭・・・・・・。
尚弥は蝋燭のある廊下の端まで駆け寄った。そして、思い切って蝋燭を蹴り倒した。火が徐々に床にも移っていく。これでもっと燃えて火事になれば、山を降りたところに住む中学校の近隣住民が気づいて助けを呼んでくれるかもしれない。それにもしかしたら怪物たちは熱に弱いかもしれないし、火が燃えていることによって尚弥の気配や足音が届きにくくなる気がした。
じゅうぶん火が広がっていくのを確認して尚弥は玄関に向かって階段を降り始めた。ついでに近くにある蝋燭も倒していく。学校はあっという間に火の海になるだろう。実際すでに周りが煙臭く、熱い空気が漂っていた。
体を低くしながら階段を降りていると、先の踊り場が真っ黒なことに気づく。怪物が階段をドロドロと上ってきているのだ。思わず息を大きく吸ってしまい、尚弥は咳き込んでしまった。途端に背中は汗でびっしょりと重くなる。
案の定、怪物はこちらに気づき、速さをあげて迫ってきた。尚弥は先ほど降りてきた階段に引き返すことにした。上の階は先ほどよりも煙がもうもうとしてきている。息を吸わないようにしてはいるが、目がしばしばして痛い。どこかに急いで隠れなければと尚弥はすぐ近くの教室のドアを開けた。
教室は閉め切られていたからか、煙はかなりマシだった。床にはおびただしい血の跡がある。10年前のもののようだ。
窓に駆け寄り外を見てみる。運動場が明るく照らされているのを確認すると少しほっとした。しっかりと校舎に火が広がり燃えているのだ。
ずずずっ。
尚弥は飛び上がった。怪物は上の階に行ってくれたのだと思っていたが、そうはいかなかったらしい。教室の廊下側の窓は磨りガラスになっているのだが、真っ黒になっていた。
それはつまり、やつがすぐそこにいるということだ。尚弥は動くことができず、手の届くところにある椅子をなんとか引き寄せた。無いよりはマシだろう。入ってきたらまずぶつけて、それから隙をついて逃れたらいいのだが・・・・・・。
黒い影は動かず中の様子を探るかのようにじっとしていた。尚弥は浅い呼吸を繰り返しながら考えている。窓から飛び降りる?いや、このは3階だ。骨折するだろう、下手したら死ぬ?逆に窓から4階へ?ダメだ。今でもだいぶ熱くて息が苦しい。
やはり戦うしかない。
尚弥がおでこの汗を拭った次の瞬間、怪物が壁を破壊して入ってきた。
煙も入ってきたので部屋は灰色になる。ついに尚弥は激しく咳き込んだ。怪物は目の前まで来ていた。尚弥は椅子を振り上げようとしたが、息が苦しくてそれどころではなくその場で倒れてしまう。
涙で視界が見えないが、怪物の大きな口が被さってきているのは感じられた。煙の中でもわかる生臭さ、ドブ臭さ。
すべてがスローモーションのようだった。
最後に死んだ家族と残された祖父母のことを思う。
尚弥は静かに目を閉じた。
•
尚弥が階段の踊り場で怪物に見つかったちょうどその頃、中学校のすぐ裏にある森の中を突っ切る人間たちがいた。
二人の男と一人の女が腕についたレーダー探知機を見ながらまっすぐ中学校に向かっている。
「西の第一中って懐かしいな〜」
この言葉は中学生くらいの見た目をした中性的な男の子。ほわんとした笑みを浮かべている。
並走している小さな女の子が目を見開いて、
「隊長、笑ってる場合じゃないですよ〜!逃げられたんですよ?しかも、なんでか知らないけど火事になってるんです〜!」
と隊長と呼ばれた男の子に言った。
隊長はそれでも微笑みを浮かべている。泣きそうな女の子に向かって背が高く綺麗な顔立ちをしているもう一人の男が言う。
「まあまあ落ち着いて、ももちゃん。消防にさっき連絡入れといたから」
「さっすが要く〜ん!」
ももちゃんと要はグータッチをした。
三人は一つのチームだった。風のような速さで森の中を駆けていく。中学校に着く前にもう一度レーダーを見て、要は綺麗な眉間にしわを寄せた。
「人がいる・・・」
「えっ?!」
ももちゃんも今一度確認し「うそやばっマジでいるじゃん!!」と叫んだ。隊長はのんきなもので「あれ?ほんとだね〜」と笑っていた。
レーダーは生命体を写すものでそこには三つの反応があった。スワンプの怪物は赤色、人間は緑色で表示されている。校舎の端に赤色、どこかの教室の外に赤色と中に緑色だ。
隊長が指示を出した。
「第一優先で人を助けなきゃね。私が行くから、二人はもう一匹をお願いするよ」
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