第54話 リアム、不意打ちを防ぐ
「────はぁ……女帝ちゃんって、積極的……っていうか、リアムくんに対してそれを超えた何かの気迫があるけど、それってどうしてなの?」
「気迫……?よくわからないが、私がリアムのことを私の男だと強く言っていることなら、先ほども伝えた通り、私が元々私以上の力を持つ男と結ばれると昔から決めていたからだ……そして、これも先ほど伝えたが、性格まで良いとなればもはや文句など出るはずもないだろう」
「それはそうだけど、それだけで?」
メリアさんがそう聞くと、女帝さんは少し間を空けてから言った。
「この魔族の国の女帝という私の地位は、父の皇帝という座から受け継いだものだった……当然、それは私が父の子だったからというだけでなく、それ相応の力が備わっていたからというのが大前提だ」
女帝さんは、さらに続けて言う。
「そして、私が今私以上の力を持つ男と結ばれたいという考えに至っているのは、自らよりも強い男である父と結ばれた母の影響……だが、そこで一つ問題が起きた」
「────あなたより強い男性が居ないこと、ですね」
リディアさんが先を読んでそう言うと、女帝さんはそれに対して頷いて言う。
「そうだ……元々、母はもし父が居なければ女帝となっていたと言われるほどに強く、父は皇帝……その二人の子として生を受けた私は、身体能力にも魔力にも人並外れて優れており、一度も努力を欠かすことは無かったから、もはや私に勝る男など存在しなかった……このままではいずれ、この血が途絶えてしまう────そうはならぬよう私は長い間強者を求め続け、今日ようやくリアムに会うことができた……この話だけでも、私がリアムと結ばれたいと願う理由としては十分だろう」
確かに、僕も、今日突然女帝さんから「私の男となってもらいたい」と言われた時は驚いてしまったけど、今の話を聞くとその言葉の意味にも納得することはできる。
僕がそう思っていると、メリアさんがため息まじりに言った。
「なるほどね、まぁ、とりあえず理由としては納得できたよ……じゃあ、あと一つ聞きたいことがあるんだけど、いい?」
「あぁ、私に答えられることならなんでも答えよう」
女帝さんがそう言うと、メリアさんは真剣な表情で言った。
「この魔族の国に、エルフの国を滅ぼそうとした奴が居るんだけど、女帝ちゃんは何か知らない?」
「……エルフの国を滅ぼそうとした、だと?そんな話は初めて聞いた」
「女帝という立場ですら知らないとなると、探し出すのはかなり困難になるかもしれませんね」
「そうだね〜……まぁ、だからってそれがそいつを見逃してあげる理由になんて絶対にならないけど」
メリアさんからしてみれば、自らの故郷を滅ぼされそうになっているから、ここまで怒るのも当然だし、僕もその人のことは許せない。
そんな話が繰り広げられていると、僕たちは宿の前に到着した。
「ここに泊まっているのか」
「はい!快適な部屋で、とても過ごしやすいです!」
「我が国の宿をそう評してもらえるのは、嬉しいことだな」
「じゃあ、宿に入って、今日のところは早く休────」
メリアさんがそう言いかけた時。
突如、後ろから僕に向けて突進してくる魔力反応があったため、その方向を振り向くと、そこに居た僕に突進してきたモンスターを、僕は風魔法で吹き飛ばした。
そして、僕以外の三人もその反応に気付いていて、僕とほとんど同時に後ろに振り向いた。
「流石リアムさんですね、不意打ちでも防いでしまうとは」
「ね〜!リアムくん流石すぎるよ〜!」
「あぁ、流石は私の男だ」
「あ、ありがとうございます……でも、どうしてこんなところにモンスターが……?」
たくさん褒められたことに感謝を伝えながらも、僕がそんな疑問を抱いていると────すぐ近くに別の魔力反応があったため、僕はその方向に視線を移す。
すると、そこには────マスクを付けて、タキシードを着ている人物が居た。
「長い帽子に、顔を覆った怪しげなマスクを付けてる、タキシードの男……っ!あいつが、エルフの国を滅ぼそうとした魔族の奴だよ!」
「え!?」
メリアさんが視線の先に居た人物の方を向いて力強くそう言って、僕がその発言に驚いていると、続けてリディアさんと女帝さんが言った。
「そして、今まさにリアムさんに不意打ちで危害を加えようとした愚か者……リアムさんのお力があったおかげで無傷でしたが、だからと言ってエルフの国の件も含めてただで済ませるわけにはいきませんね」
「私に無許可で愚行を働こうとし、今まさにリアムに危害を加えようとした魔族、か……そんな輩には、私がこの手で直接罰を下さねばならないな」
そう言った後、三人が体から強力な魔力を発すると、そのマスクをしている男性は路地裏の方に走って逃げて行った。
「……逃すわけないでしょ」
「はい、追いかけましょう!」
その後、僕たちは一度宿前を離れると、エルフの国を滅ぼそうとしたというマスクをしている男性の後を追った。
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