第52話 女帝、リアムにお願いする
闘技場中央から闘技場戦士入場口奥にある廊下に移動すると、僕は女帝さんに回復魔法を使用していた。
やがて、完全に女帝さんが回復したと思われるタイミングで回復魔法を使うのをやめると、僕は女帝さんに聞く。
「一通り回復できたと思いますけど、まだどこか痛むところはありますか?」
「無い、戦った後の回復までさせてしまって悪いな、リアム」
「いえ、気にしないでください!」
僕がそう言うと、女帝さんは小さく口角を上げて言う。
「今まで、私に勝るほどの強者と出会いたいと願いながらも、戦う者の一人として誰かに敗北を喫したくないという矛盾した感情を抱いていた……だから、いざ敗北を喫したらその時はどんな感情になるのだろうかと今まで想像していたが────実際敗北してみると、存外悪くないどころか、良い気分だ……きっと、相手が君のような人格者で、かつ圧倒的な強者だったからだろう」
「あ、圧倒的な強者だなんて、そんな……」
とても僕には似合わないような言葉を言ってもらったことに対して、僕が反応に困っていると、女帝さんは僕の目を見て言った。
「君はこの私に勝利したんだ……君が強者で無いというのなら、私も、今まで私と戦い敗れていった戦士たちも強者では無いということになってしまう……それに、私は慢心しろと言いたいわけじゃない……ただ、君には守りたいと願う相手を守ることのできる力があるということを、理解しておいて欲しい」
「守ることのできる、力……」
「今すぐに理解できなくても、少しずつ理解できればいい……私は、そんな君の隣で、今後は君のことを支えていきたいと思っている」
「女帝さん……ありがとうございま────え?」
お礼を言いかけた僕だったけど、女帝さんの言葉の一つに引っ掛かりを覚える。
「今後は……?」
僕が引っ掛かりを覚えた言葉を口にすると、女帝さんは頷いて言った。
「あぁ……実は、私は折り入って、君にお願いしたいことがあるんだ」
お願いしたいこと……それは一体どんなことなんだろう、と思っていると、さらに廊下の奥の方から走ってこちらに向かってくる足音が聞こえてきた。
「リアムさ────」
「リアムく────」
リディアさんとメリアさんの僕を呼ぼうとする声が聞こえかけた時、女帝さんは僕の目を見て力強く言った。
「リアム、君には……私の男となってもらいたい」
「え……?」
「っ!?」
「はぁ!?」
僕が発言の意味をすぐには理解できず困惑していると、僕たちの方に向けて走ってきていたリディアさんとメリアさんは驚きの声を漏らし、僕たちのすぐ横までやって来ると、メリアさんが大きな声で言った。
「ちょっと女帝ちゃん!いきなり何言ってるの!?」
「ん?私はリアムに、私の男になって欲しいと言っただけだ」
「その発言が意味わからないから!大体、まだリアムくんのことほとんど知らないののに、どうしてそんな発想になるの!?」
「闘志を持って戦い合えば、時間や回数など関係無く相手のことがわかるものだ……それに、私は元々私以上の力を持つ男と一緒になると昔から決めていて、私が対戦者を募っていたのもそのためだ」
「なるほど……先ほどの必要が無くなったというのは、そういう意味、なのですね」
「あぁ……リアムを超えるほど強き男など、この世に存在しないだろう……それに、力だけでなく────私は、リアムの人格にも惹かれている」
そう言うと、女帝さんは僕の顔に自らの右手を添えてきた。
僕がそれに対してドキッとしてしまった瞬間、リディアさんとメリアさんはとても強力な魔力を体から放って言った。
「ねぇ、リディアちゃん、一度この女帝ちゃんに私たちの力わからせて、大人しくさせないといけないんじゃない?」
「そのようですね」
珍しくリディアさんとメリアさんの意見が一致していると、女帝さんは僕の顔から手を離して、二人と向き合って言った。
「ほう?面白い、今度は君たちが私と戦うのか……君たちが強者であることは見た時からわかっていたが……体も回復したことだ、リアムに付き添うほどの実力があるのか、見させてもらおうとしよう」
そう言うと、女帝さんも体から強力な魔力を放つ。
すると、女帝さんとメリアさんは、観客席に誰も居なくなった闘技場中央へ向かい、リディアさんがその後を追おうとしたところで、僕はリディアさんのことを引き止める。
「リディアさん!」
僕がそう名前を呼ぶと、リディアさんが僕の方を見て言った。
「ご安心ください、リアムさん……これは喧嘩ではなく、あくまでも互いの力量を測るためのものです……それと────後で、お話がありますので、夜になったら機を見て二人きりになりましょう」
「っ……!……わかりました」
僕がその言葉に頷くと、リディアさんは僕に優しく微笑みかけてくれてから、闘技場中央へと向かった。
……リディアさんとの夜のことも気になるけど、喧嘩じゃないと言っても戦うとなるとそっちの方も気になるため、今はそのことだけを考えて、僕も三人を追って闘技場中央へと向かうことにした。
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