第51話 リアム、女帝と握手する

◆◇◆

 リアムと女帝が魔法を放ち合い、時に距離を縮めて近接戦を行っていると、それを見ている魔族の観客たちが困惑の声を上げた。


「お、おいおい、あの人間、女帝様とやり合ってるぞ?」

「な、何者だ?」

「一見ただのガキにしか見えねえが……人は見かけによらねえってことか」


 観客席に居る魔族たちのほとんどが似たような感想を抱いていたが、そんな観客席に居るリディアとメリアは────


「流石はリアムさんですね」

「うん!圧倒的な魔力量に圧倒的な魔力の質の魔法をとても上手に使ってて、あぁ、見惚れちゃう……」


 リディアは尊敬の眼差しでリアムを見つめ、メリアは頬を赤く染めてリアムに見惚れていた。

 続けて、少し間を空けてからメリアが言う。


「むしろ、あの女帝ちゃんもリアムくん相手によく頑張ってるよね〜」

「そうですね、近接戦闘は左手に持っている氷剣でこなし、距離を取れば魔法で攻撃……攻撃の仕方や回避方法からも、強者であることは間違いありません、是非一度手合わせしてみたいものです」


 そんなことを話しながら、二人は引き続きリアムと女帝の戦いを見届け続けた。



◆◇◆

 距離を近付けた近接戦闘になり、僕が女帝さんに攻撃しようとすると、女帝さんは左手に持っている氷剣でその攻撃を防ごうとしてきた。

 そのため、僕はその氷剣に向けて炎魔法を放つ。


「っ……」


 すると、その氷剣は溶けて、女帝さんにとっては分が悪くなってしまったため、女帝さんは一度僕から距離を取った。

 そして、僕とと女帝さんは改めて向かい合う。


「凄まじい力だ……ふふ、これほどまでに強き力を持った男がこの世界に居たとはな……もはや諦めかけていたが、今まで諦めなくて正解だった……こうして、君のような強き男に出会うことができたのだからな」

「……僕も、こんなに強い方と戦ったのは、女帝さんが初めてです」

「ふふ、君からそう言ってもらえるのは、これ以上ない賛辞だな……だが、まだ決着は着いていない……無論、最後まで付き合ってくれるのだろう?」

「もちろんです!最後まで、全力で戦います!」

「良い返事だ……行くぞ」


 力強く、気迫溢れる雰囲気でそう言うと、女帝さんは僕に距離を縮めてきた。

 当然、女帝さん相手に手加減なんてできるわけもないため、僕は先ほどの宣言通り最後まで全力で戦う。

 そして────互いに距離を取って、奇しくも同じ雷魔法を放ちあった。

 その雷魔法は闘技場の中心でぶつかり合って、とても眩しく光り輝いた。

 少しの間それが続いたけど、次第にその光の中心は、闘技場中心から片方へと寄って行き……最後には、女帝さんに直撃した。


「っ……」


 雷魔法を体に浴びた女帝さんは、倒れそうになったのを、氷剣を軸として片膝をつくことによって阻止した。


「女帝さんっ!」


 あの雷魔法を直接受けてしまったら、意識を失っていてもおかしくないほどのはずだ……そう思った僕は、女帝さんのことを叫んで駆け寄────ろうとしたけど、女帝さんはそんな僕に向けて、動きを止めるよう手で制止してきたため、僕は駆け寄るのをやめる。

 すると、女帝さんは、今度はその手を上に上げて、闘技場中に響く力強い声で言った。


「この勝負、私の対戦相手であるリアムの勝利とする!そして、それと同時に、今まで私は対戦相手を募ってきたが、そのも無くなったため、今日を持って私への挑戦も終了とする、以上だ!」


 女帝さんがそう言うと、観客席から今までに無いほどの歓声と拍手が聞こえてきた────


「おおおおおお!!」

「女帝様はずっと俺たちの憧れですぜ〜!!」

「そこの人間もすげえな!!」


 たくさんの人の声が混じり合っていて、何を言っているのかは聞こえないけど、悪い雰囲気じゃないことだけは伝わってくる……そうだ!

 僕はその雰囲気を感じながらも、すぐに女帝さんの方に駆け寄って、女帝さんに回復魔法を使う。


「女帝さん、大丈夫ですか?」

「あぁ、ありがとう……ふふ、君は攻撃魔法だけでなく、回復魔法まで突出しているな……もう体が元通りになってきた……一度回復魔法を使うのをやめてくれるか?しっかり、君としておきたいことがある」

「わかりました」


 女帝さんに言われた通り、一度回復魔法を中断すると、女帝さんは立ち上がって、氷剣を消すと、僕に左手を差し出して来て言った。


「もう一度言うが、この勝負、私の負けだ……敗者からお願いするのも変かもしれないが、君さえ良ければ、私と手を交わしてくれないだろうか」

「っ!もちろんです!!僕と戦ってくださり、ありがとうございました!!」


 そう大きな声で返事をすると、僕と女帝さんは握手を交わした。

 ────その瞬間、闘技場内はさらに大きな拍手で包まれ、女帝さんは僕に優しく微笑みかけてくれた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る