第49話 リアム、女帝と相対する

◆◇◆

「ぐああああああああっ!!」


 しばらくの間雷魔法を喰らい続けたゼインは声を上げ続けたが、やがて女帝が雷魔法を放つのをやめると、その声は収まった。

 そして、ゼインはその場に倒れ込む。

 すると、女帝が言った。


「君にそれ相応のことをするとは言ったが、ずっとこうして距離を取って攻撃し続けていても芸が無い……それに、もしかしたら君が近接戦闘においては他の戦士を侮辱してしまえるほどの力量を兼ね備えているという可能性もあるからな……君が望むなら、今度は近接戦闘で相手をしてやろう」

「ぐっ……ク……ソッ……」


 女帝は最初からそのつもりだったのか、ゼインの体は最低限動かすことができるようになっていた。

 そのため、ゼインはゆっくり立ち上がると、女帝に向けて言う。


「この俺にこんなことをして、舐め腐ってくれやがったこと、後悔させてやる」

「ほう、先ほどまで悲鳴をあげていた者の発言とは思えないな……それだけ近接戦闘に自信があるということか」

「俺の拳で痛みを感じて、それを確かめやがれっ!!」


 そう言うと、ゼインは女帝に駆け出して、両拳に魔力を溜めるとその拳で女帝に殴りかかり始めた。

 女帝は、それを動くことなく氷剣で捌く。

 そして、女帝は呆れるように言った。


「やれやれ、雷魔法で動きが鈍っているなどという言い訳ができぬほどに、基礎の動きから何までがなっていない……仮に私を弱体化させられたとしても、こんな攻撃で私が敗北するはずが無いだろう」


 その言葉を聞いたゼインは、女帝に殴りかかりながら、怒りを顔に表して怒鳴るような声で言った。


「黙れっ!!俺は、魔族の英雄になる男だぞ!!邪魔すんじゃねえ!!」

「君が、魔族の英雄……?冗談にも程があるな」

「っ……お前さえ倒せばあいつも、あいつもあいつも、鬱陶しい奴らを全部ぶっ飛ばせるんだよ!大人しく俺に殴られやがれ!!」

「悪いが、こんな遅く弱い拳に当たったとなれば、今まで私と戦ってきた戦士たちに顔向けができないのでな────もう終わらせてもらうぞ」


 鋭い目つきでそう言うと、女帝は氷剣によってゼインの両手を弾き、ゼインのことを無防備にすると、その着ている防具の上からゼインのことを素早い剣戟によって斬った。


「ぐぁああああああああああっ!!」


 その衝撃によって吹き飛んだたちのは、闘技場の壁にぶつかると、その剣に斬られた衝撃と壁にぶつかった衝撃で意識を失い、そのまま地面に倒れて意識を失った。


「呆気無いな……もう二度と、誇り高き戦士たちのことを侮辱するな」


 意識を失っているゼインに対して、女帝が左手に持った氷剣と右手から放っていた魔力を消してそう言い放つと、決着が着いたことで、闘技場内は歓声で埋め尽くされた。

 ゼインは、闘技場の係のものによって闘技場の建物内へと運ばれて行く。

 が、女帝の頭の中にはもうゼインのことは無く、今頭にあるのは次の対戦相手であるリアムのことだけだった。

 女帝は、観客席に座っているリアムの方を見ると、力強い声で言った。


「ここまで降りてくるといい、リアム……私と戦おう」

「っ……はい!」


 すると、リアムは頷いて大きな声で返事をすると、席を立って女帝の居る闘技場中央へと移動を始めた。


「ただそこに居るだけで、私のことを気圧した初めての男……ふふ、私の中に、久しく闘志のようなものを感じる」


 少し口角を上げてそう呟くと、女帝はリアムが闘技場中央へやってくるまでの間、自らの中に久しく、だが確かに感じる闘志に意識を集中させた。



◆◇◆

 闘技場の中央までやって来た僕は、そこで僕のことを待ってくれていた女帝さんと向かい合うと、女帝さんが言った。


「リアム……私はきっと、ずっと君とこうして戦えることを心待ちにしていたんだ……今こうして君と相対していても、君がかつて私の出会ったことが無いほどの強者であることがよく分かる」

「僕も……女帝さんほど強いお方と、こうして戦う相手として相対するのは、初めてかもしれません」


 リディアさんやメリアさんも、女帝さんと比べて引けを取らないぐらい強い人だけど、二人とこんな風に戦うという形で相対したことは無かった。


「そうか……色々と話したいこともあるが、我々が語り合うのに言葉など不要だろう……リアム────私に、君の力を見せてくれ」

「っ!はい!」


 そのやり取りの後、僕たちの間に雷魔法が落ちたことを合図として、僕たちの戦いは幕を開けた。

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