第47話 ゼイン、絶望する

◆◇◆

 闘技場中央に居るゼインと女帝の間に雷魔法によって雷が落とされたことを合図として、二人の戦いが幕を開けた。

 すると、女帝はゼインに向けて言う。


「君は、私に勝利する自信があるらしいな」

「自信?悪いが、そんな安っぽいもんじゃなくて、たった一手で俺の勝利を確実にさせられると確信してるんでな」


 ────こっちには、魔族を弱体化させる液体があるんだからな。


「ほう、この私を一手で敗北にまで追いやる方法があるとは、なかなか面白いことを言う者も居たものだ」

「そんな余裕面してられんのも今だけだ」

「この私にそんな態度を取った者も珍しい、良いだろう……最初の攻撃権は君に譲ろう、その一手というものを私にぶつけてくると良い」

「おいおい、良いのか?本当に一手で終わっちまうぜ?」


 ゼインがそう言うと、女帝はそれに対して頷いてハッキリと言った。


「あぁ、構わない……君の魔力量や、こうして相対した時に感じる気迫などが、とてもじゃないが私に勝てるほどのものとは思えなくてな……だから、もし次の一手で私が敗れてしまうというのなら、私の目はそれまでだったということだ」


 ────どこまでも舐め腐りやがって……だが。


「そういうことなら、遠慮なく先に攻撃させてもらうぜ」


 ゼインにとって都合の良い話であることには変わりないためその話を受け入れると、ゼインはポケットから魔族を弱体化させる瓶を取り出して、その中にある液体を女帝に向けて投げ、大きな声で言った。


「この俺を舐めやがったことを、せいぜい後から後悔しやがれ!!」


 女帝はその液体を防ぐことも避けることもせず、そのまま受け入れた。

 それを見たゼインは、もはや勝利を確信して高笑いをする。


「ははははっ!!本当に喰らいやがったぜ!!これが俺を甘く見たことの報いってわけだな!!」

「……」


 ゼインがそう高笑いをしている間に、女帝は自らの体に視線を送る。

 それを見たゼインは、さらに面白そうにしながら言う。


「どうした?力が出なくて驚いてるのか?だが、それも当然ってもんだ……そいつは魔族を弱体化させる液体だからな……これで、ようやくお前にも今の状況、そしてこれからどうなるか見えただろ」


 続けて、ゼインは口端の口角を表情が歪むほどに大きく上げて言った。


「今からお前は、今までお前のことを称えてきた魔族たちの目の前で、俺によって一方的に敗北するんだ!どうだ?そんな醜態を見せるのが恥ずかしいってんなら────」

「なるほど……私の体に何の変化も感じないと思ったら、そんなものだったのか」

「……あ?」


 沈黙し続けていた女帝が突如口を開いたかと思えば、ゼインにとって頭が追いつかない言葉を発した……それを聞いたゼインは、突如冷や汗をかき出して顔を青ざめたが、聞き間違いという可能性を考えてその確認を取る。


「今……なんて言ったんだ?」

「私の体に何の変化も感じなかったと言ったんだ」


 そう言うと、女帝は自らにかけられた液体を魔法によって一瞬で蒸発させた。

 その光景を見たゼインは、とても先ほどまでの威勢があった人物と同一人物とは思えないほどに引き攣った顔をしていた。

 そして、女帝は続けて力強い口調で言う。


「全く、戦士たちを侮辱した君の、私を敗北させるほどの一手というものがどんなものかと思えば────こんなものがこの私に通用するはずが無いだろう」

「だ、だ、だが、そ、それは、ま、魔族を、弱体化させ────」

「こんなもので弱体化する魔族など、元より弱い者だけだ……それとも、君は私のことを弱いと思っているのか?もしそうだと言うのなら────君に、私の力を見せてやろう」


 そう言うと、女帝は何も持っていない左手で、氷魔法によって形造られた氷剣を握ると、それを一度大きく振りかぶった。

 その瞬間、闘技場全体に冷気が走り、ゼインは背中に悪寒を走らせる。

 だが、女帝はそんなことを気にした素振りもなく、続けて右手から雷魔法を発し始めると、ゼインに向けて重たい声色で言った。


「では、約束通り────戦士を侮辱した君には、それ相応のことをさせてもらおうか」

「ひっ……!ゆ、許────ぐああああっ!」


 自らの絶対的だと思っていた切り札が全く意味を為さなかったことに絶望し、恐怖の声を上げて許しを乞おうとしたゼインだったが、女帝はそれを聞かず、左手に氷剣を、右手に雷魔法を構え、ゼインに攻撃を開始し始めた。

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