第46話 ゼイン、女帝と相対する
◆◇◆
盛り上がる歓声の中央で女帝と相対したゼインは、心の中で呟く。
────こいつが女帝……顔から体まで極上の女じゃねえか……今からこいつを負かせて侍らせることができるって想像しただけで最高だぜ。
そんなことを思いながらも、次に目の前に居る女帝に話しかける。
「あんたがどれだけ強いのか知らないが、俺には勝てないぜ」
「ほう?こう相対してみてもあまり強者だとは感じなかったが、私に挑むというだけあって、君は相当力に自信があるらしいな」
「力がどうこうって話じゃねえんだよ、俺は今まであんたに挑んできた能無し共とは違うからな」
ゼインがそう言うと────女帝は、少し目を鋭くして言った。
「私は今まで戦ってきたもの、それが強者であれ弱者であれ全員に敬意を抱いている……君は、それを能無しと表するのか」
「っ……」
まだ魔法も放たれていないのに女帝から放たれている気で気圧されそうになったゼインだったが、ゼインには魔族を弱体化させる液体の入った瓶がある。
その絶対的な有利は変わらないと自らに言い聞かせて、一筋の冷や汗を流しながらも言った。
「それが事実なんでな……俺と戦ったあんたは、俺の利口さに恐れすら抱いて、今の俺の言葉を肯定することになると思うぜ」
「そこまで言うなら、早速相手をしよう……だが────もしそれが偽りだった場合、戦士を侮辱した君にはそれ相応のものを覚悟してもらうことになる」
────はっ、女帝ってだけあって随分と強気だぜ……だが、こんなに強気な女帝も、あの液体を浴びたら力が出せなくなって、俺に跪くしか無くなるんだがな。
「構わねえぜ?その時は俺をどうとでもしてくれ」
「そうか、なら……始めよう」
◆◇◆
────数刻前。
僕が吹き飛ばしたゼインさんが予想だにしないところで出てきて驚いてから少しだけ時間が流れ、ようやくちょっと落ち着いてきたところで、僕は二人に話しかける。
「ゼインさん、とても自信のある表情をしてますけど、何か女帝さんに勝利できる方法を思いついてるんでしょうか?」
「もう〜!何言ってるのリアムくん、あいつが何したってあの女帝ちゃんに勝てるわけないでしょ?」
「え?ということは……ゼインさんは、僕と同じように修行の一環として力を試すために女帝さんと戦おうとしてるということですか?」
「あの愚か者とリアムさんが同じなど、例えリアムさんのお口からであっても今後は発さないでください……それはそれとして、リアムさんのことを追放した愚か者にそのような気概があるとは思えませんので、一応本人は勝利するつもりなのでしょう」
勝利……ゼインさんが一人で戦うところはあまり見たことが無かったけど、一体どんな戦い方をするつもりなんだろう。
僕がそう思っていると────右隣に座っているメリアさんが、僕と顔を見合わせて来た。
「はぁ、あんな奴の顔ずっと見てたら目に毒だから、ちゃんとリアムくんの可愛い顔も見ないといけないよね〜」
「えっ!?」
すると、続けて僕の左隣に座っているリディアさんも僕と顔を見合わせて来て言った。
「確かにその通りですね……リアムさんの勇ましくも愛らしさのあるお顔を見ていると、とても心が落ち着きます」
「リディアさんまで!?」
「驚いてるけど、私たちがあんな奴の顔見たくない気持ちもわかるでしょ?」
そうだ……ゼインさんは、メリアさんの故郷であるエルフの国を滅ぼして、メリアさんの泣いているところを見たいなんて言っていたんだ。
「……はい────ゼインさんのことは、今でも許せません」
僕がそう答えると、リディアさんとメリアさんは左右からそれぞれ僕に身を寄せてきて、メリアさんが僕の頭を撫でながら言った。
「うん、私も同じ気持ちだよ、リアムくん」
「無論、私も同じ気持ちです」
その後、僕はゼインさんのパーティーに居た頃では絶対に感じられなかった温もりを感じながら、女帝さんとゼインさんの戦いが始まるのを静かに待って────いよいよ、今から二人の戦いが始まろうとしていた。
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