第45話 メリア、ゼインを許さない

◆◇◆

 ────闘技場挑戦者用廊下。

 時間が来れば、この廊下を真っ直ぐに進んで女帝と戦うことになるゼインと、その二人のパーティーメンバー、ベラとラッドは口角を上げて話をしていた。


「あんな雪の中に吹き飛ばされて、一時はどうなることかと思ったが、むしろそれがラッキーだったな……おかげで、俺たちは魔族の国を手に入れることができる」

「ね〜!」

「待ちきれねえ〜!!」


 そんな声を上げるパーティーメンバーのことを見て頷くと、ゼインはポケットから魔族を弱らせる液体の入った瓶を得意げに持って言う。


「それにしても、女帝とやらも不憫なやつだぜ……今まではこんなもんを用意することすら思い付かない能無ししか相手をして来なくて無敗を誇ってたのに、それが今日で終わるってんだからな」

「可哀想〜」

「な〜」


 ベラとラッドは軽い口調で言った。

 ゼインは、持っている瓶を強く握り締めて言う。


「あとちょっとだ……あとちょっとで、ようやくあのリアムをぶっ飛ばしてやることができる」

「そうだ!大体、リアムのくせに美人二人も連れてるなんて許せねえ!」

「それもあとちょっとの辛抱だ、あいつがぶっ飛ばされて絶望してる顔を想像して堪えてろ」

「わかったぜ!」


 そんなやり取りを繰り広げられていると、やがてゼインが闘技場中央へ来るように呼び出された。


「どうやら、お呼びらしいな」

「頑張って、ゼイン!」

「勝ってくれよ、絶対!」

「あぁ、任せとけ」


 自信ある表情でそう言うと、ゼインは二人に背を向けて闘技場の中央へと歩いて行った。



◆◇◆

 たくさんの魔族の人たちが居る観客席の一番上の席から、僕とリディアさん、メリアさんの三人は闘技場全体を見渡していた。


「すごい数の人が居ますね……」

「さっき宿の前で戦っていた時も感じましたが、魔族の方は血気盛んな方が多いのかもしれませんね」


 確かに、リディアさんとメリアさんが宿の前で戦っていた時、かなりの魔族の人たちがそれを周りから見ていて、さらには戦闘を盛り上げるようなことを言っていた。


「種族ごとで偏りはありそうだけどね……でも、そんな人たちが他の国と比べて比較的多い国なら、それはもちろん女帝とその挑戦者との戦いなんて見過ごせないから、こんなに人が多いのも納得だよ」


 メリアさんがそう言い終わると、闘技場の二つある戦士入場口のうち一つの方に火が灯されると────歓声が上がると同時に、女帝さんが姿を見せた。


「おおおおおおお!!」

「女帝様!今日も力を見せてくれ!!」


 ……あの立ち姿だけでもわかるけど、ここまでの人気を博しているということはやっぱり相当強い人なんだろう。

 そして、女帝さんが闘技場中央で足を止めると、メリアさんが言った。


「それにしても、魔族の国の女帝が強いって話は有名だと思うけど、それに挑むってことは次の挑戦者の人間の男っていうのはそれなりの力はあるのかな?」

「どうでしょうか……もしかすれば、修行の身で力を試したいのかもしれません」

「なるほどね〜」


 その二つなら、僕は後者の方になる。

 二人がそんなことを話していると────続けて、闘技場の二つある戦士入場口のうちもう一つの方の火が灯された。

 すると、今回は人気を博しているという感じではなく、これから戦いが始まることへの歓声のようなものが上がり、その挑戦者の人が戦士入場口から姿を見せ────


「……え?」


 た、瞬間。

 僕は、その人物の容姿を見て驚き、思わずそんな声を漏らすと、続けて今の気持ちを大きな声で言葉にした。


「ど、どうしてゼインさんがここに!?」



◆◇◆

 驚くリアムの隣で、リディアは呟く。


「なるほど、先ほど挑戦者は力があるか、修行の身で力を試したいかのどちらかと言いましたが、第三の可能性がありましたね────自らの力を過信した愚か者、という可能性が」


 すると、続けてメリアが冷たい表情で言った。


「エルフの国を滅亡させようとしたこと、リアムくんを泣かせたこと────絶対に許さない……」


 驚いていて二人の言葉が聞こえていないリアムの隣で、二人は静かにゼインたちに対する怒りを、以前以上に高めていた。

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