第36話 リアム、謝罪する

 魔族の国に行くための準備ということで、僕たちはエルフの国の中央都市であるマギアトスの街に出て、僕を真ん中として横並びで歩いていた。


「色々と準備したいものはありますが、雪国である魔族の国に行くとなると、やはり先決とされるのは防寒具の購入……でしょうか」

「そうだね〜!今の私たちの格好で行ったら凍えちゃう〜!」

「そうですね……ですが、あなたは雪国であることなど関係なく、そのような肌を露出した服をやめていただきたいところです」

「できるだけ長い間リアムくんに私の体見せてあげたいから、それは難しいかな〜」

「っ……!?」

「あなたという方は!」


 相変わらずなメリアさんの発言に驚かされながらも、いつものやり取りを繰り広げている二人と歩いていると、いよいよ防寒具を売っているというお店に到着したため、僕たちはその中に入ってそれぞれの防寒具を見始める。

 すると、メリアさんが僕に話しかけてきた。


「リアムくん、ちょっといいかな?」

「はい、なんですか?」

「この服とこの服なんだけど、どっちが私に似合ってるか自分だとわからないから、私の着替えてるところ見ててくれないかな?」

「……え?」


 き、着替えてるところ……!?

 ……僕の聞き間違え、もしくはメリアさんの言い間違えかなと思った僕は、メリアさんに問いかける。


「えっと……着替えてるところじゃなくて、着替えた後の姿を見て欲しいっていうことで良いですか?」


 ここで頷いてくれた何も問題無かった────けど。


「ううん、私の着替えてるところをリアムくんに見て欲しいの」

「え、えっ!?」


 聞き間違えや言い間違いでなかったことが判明すると、僕は思わず驚きの声を漏らして、続けて言う。


「ど、どうして着替えてるところを見ないといけないんですか!?」

「もちろん防寒具が似合ってるかどうかも見て欲しいんだけど、着替えてるところ見てくれたらサイズ感とかもわかりやすいでしょ?だから、私は純粋な気持ちで────」

「でしたら、私が見て差し上げましょう」

「わっ!?」


 僕とメリアさんの間に割って入ったリディアさんがそう言うと、メリアさんは驚きの声を上げた。


「リ、リディアちゃん!?い、いつの間に……」

「全く……あなたという方は、油断も隙もありませんね……そのようなくだらないことをしている暇があるのなら、今はできるだけ早く旅の準備を進めることに意識を向けてください」

「……は〜い」


 そう言うと、メリアさんは大人しく防寒具二着を持って試着室へと歩いて行った。

 すると、僕はリディアさんに言う。


「す、すみません、リディアさん……ああいう話には、どうしても少し動揺してしまって、どう対応したら良いのかわからなくて……」


 僕がそう謝罪すると、リディアさんは優しい表情で言った。


「謝らずとも良いのですよ、そういったところもリアムさんらしさですから」


 そう言ってくれるリディアさんだったけど、僕はそんなリディアさんに対して少し複雑な気持ちになりながら言う。


「でも……昨日の夜は、そのせいもあって、僕はリディアさんのことを傷付けてしまいました」

「っ……!そのようなことは────」

「あります!僕がリディアさんのことを魅力的だと思ってないならそれも仕方無かったのかもしれないですけど、リディアさんのことを魅力的な女性だと思ってるのに、昨日はリディアさんの気持ちに応えられなくて、リディアさんのことを傷付けてしまって……本当に、ごめんなさい」


 二度目の謝罪をすると、リディアさんは優しく微笑んで言った。


「強大な力を持っていて忘れてしまいがちですが、リアムさんは年下の男性なのでしたね……もちろん、リアムさんに受け入れてもらえなかったことに思うところが無いわけではありませんが、あの時は状況も状況でしたので仕方ありません……それに────」


 リディアさんは、僕の右手を両手で握って続けて言った。


「私はリアムさんのお傍に居ることができるだけで、常にこの上ないほどの幸せをいただいているのです……ですからどうか、これからも、私にリアムさんのことを支えさせてください」

「っ……!もちろんです!僕の方こそ、よろしくお願いします!」


 左手をリディアさんの両手に重ねてそう伝えると、リディアさんはとても嬉しそうに微笑んだ。

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