第35話 リアム、高揚する

 ────翌日の朝。


「おはようございます!リディアさん!メリアさん!」


 目を覚ますと、僕よりも先に起きて活動を始めていた二人に向けて元気に朝の挨拶をした。


「おはようございます、リアムさん」

「……おはよう、リアムくん」


 そう挨拶を返してくれた二人だったけど────メリアさんの様子が、どこかおかしいような気がする。


「メリアさん……?どうかなされましたか……?」


 いつもより元気が無い、というか、暗いというか……とにかくメリアさんの様子がいつもと違ったため僕がそう聞くと、メリアさんが大きな声で言った。


「どうもこうも!私は昨日リアムくんとえっちなことする気満々だったのに、それができなかったからこの感情をどこにぶつけていいのかわからなくなってるの!」

「え!?」


 僕がその発言に驚いていると、リディアさんがメリアさんに向けて呆れた様子で言った。


「全く、昨日は巨大樹の一件でリアムさんもお疲れでしょうからということで話が付いたではありませんか」

「そんなこと言って、リディアちゃんだって本当はリアムくんとそういうことしたかったけど出来なくて、変な感じになってるんじゃないの?」

「っ……!」


 そう指摘されたリディアさんは、顔を俯けると小さな声で言った。


「それは……まだ、私にはリアムさんに釣り合うほどの女性としての魅力が無かったということで、納得しています」

「え、え!?ちょ、ちょっと待ってください!僕、リディアさんやメリアさんに魅力が無いからっていう理由で昨日お二人とそういうことをしなかったんじゃなくて……」


 ただ、二人のどちらかを選ぶことができなくて、かと言って三人でするなんていうのも恥ずかしいからしなかっただけで……でも、どちらにしても、僕がリディアさんとメリアさん────はわからないけど、少なくともリディアさんのことを傷付けてしまったのは事実だ。


「……」


 リディアさんは優しくて、綺麗で、強い人で、僕のことを思ってくれていて……そんなリディアさんのことを、女性として魅力的だと思わないはずがない。

 だから……もし次にそういう機会があったら、その時はリディアさんと────


「まぁ、こういう話は朝にするものじゃなくて夜にするものだから、ひとまず今から次の私たちの目的地を決めたいんだけど……リアムくんの元々の予定だと、どこに行くつもりだったの?」


 僕がそんなことを考えていると、メリアさんがそういう話ではなく通常の大事な話に話題と雰囲気を切り替えたため、僕は聞かれたことに答える。


「次は、魔族の国に行くつもりでした」


 そう答えると、メリアさんが明るい声で言った。


「だったらちょうど良いね!私も、もちろんリアムくんの意思が一番大事だけど、できたら魔族の国に行きたいって思ってたから」

「え……?どうしてですか?」

「ほら、リアムくんの元パーティーメンバー……とかいうのもおこがましいけど、そいつらが魔族の英雄になるなんてバカなこと言ってたんでしょ?加えて、あれだけのモンスターを突如マギアトスに呼び寄せられるのなんて魔族のやつぐらいだから、簡単に言うと────エルフの国を滅ぼそうとしたやつに、もう二度とエルフの国を滅ぼそうなんて気が起きないようにしてあげようと思って」


 メリアさんがそう告げると、この部屋の空気が一瞬揺らいだ。

 それに対して、リディアさんが言う。


「確かに、その輩がまたいつこのエルフの国へ侵攻して来るかわかりませんし、その前にこちらから仕掛けるというのは賢い選択ですね」

「でしょ〜?で、リアムくんはどうして魔族の国に行こうと思ってたの?」

「僕の旅の目的は、もともとゼインさんたちに力量不足と言われてパーティーを追放されたので修行しようという目的で、魔族の国ではとても強い女帝さんが一対一で戦ってくださるという催し事があるみたいなんです」

「力量不足、ね……本当、よくあんな奴らがリアムくんに力量不足なんて言えたよね……それはそれとして、確かにその催し事は楽しそうだね」

「はい、彼らにもう一度会うことがあれば八つ裂きにしますが、それはそれとして魔族の国の女帝が一対一で戦ってくださるというのは、確かに修行としてとても良さそうですね」

「っ!ですよね!僕もそう思ったんです!」


 リディアさんが僕の言葉に賛同してくれたため、嬉しくなって元気にそう答えると、メリアさんが言った。


「だったら、早速魔族の国に行く準備始めよっか!」

「はい!」

「はい」


 こうして、僕たちは宿を出ると、早速魔族の国へ行くための準備を始めた。

 新しくメリアさんを仲間に加えて、より賑やかになった三人での旅を想像すると、僕は気持ちを高揚させずには居られなかった。

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