第30話 リアム、本気を出す
◆◇◆
リディアは剣によって次々と地上に居るモンスターを、メリアは魔法によって空に飛んでいるモンスターたちを次々と倒していき、エルフの警備たちも主に二人の補助という形で協力してくれている。
一体一体の力は、少なくともリディアやメリアたちにとっては微々たるものなため、このモンスターたちを巨大樹に触れさせるという事態にはならないだろう……ただ、数が多いため長期戦になることは避けられない。
メリアが全体を見渡せる後方からそんなことを思っていると、リディアの方にあるモンスターが向かっているのが見えて、リディアに向けて言う。
「リディアちゃん〜!そっちに剣に耐性ありそうなモンスター向かったけど、私が代わりに倒してあげよっか?」
「不要です……【魔力斬撃】」
リディアは、刀身を全て魔力に変えると、それによって剣に耐性のあるモンスターを両断した。
「流石リディアちゃん〜!」
「私の心配ばかりしていても良いのですか?あなたの方にも、魔法耐性のあるモンスターが向かっているようですが」
「うん、知ってるよ」
そう言ったメリアは、リディアから視線を外さないまま地面から木の根元を複数生やすと、それらの複数の根本によって魔法耐性のあるモンスターを貫いた。
「これなら、魔法耐性なんて関係無いでしょ?」
「……やはり、力量だけは確かなようですね」
そんな会話をした後、再びモンスターを掃討し始めたリディアとメリアだったが、メリアは巨大樹の方にも意識を向ける。
「流石リアムくん、巨大樹が少しずつ力を取り戻してるのを感じるよ……この調子なら、あと10分ぐらいかな」
メリアは、リアムと出会った瞬間からリアムの力量の底知れなさをわかっていた。
本来であれば測定不能なほどの魔力を持つリアムだが、メリアは大魔法使いと呼ばれるほどに魔法を専門として、世界の中でも最高峰と言えるほどに極めているため、その魔力量の底知れなさだけは見破ることができた。
「あの時は、巨大樹に魔力を与えるのを協力してもらおうって思って話しかけたのもあったけど、それにしたってまさかこんな状況でリアムくんにエルフの国の存亡を託すことになるなんて思わなかったなぁ……」
メリアの中で、元々大きかったリアムの存在がさらに大きくなっていく。
その初めての感覚が、メリアにはどこか心地良かった。
◆◇◆
「うわぁっ!ちょっ、何!?」
僕が体から魔力を抑えられずに発していると、ゼインさんたちはその魔力の圧によって両手を前に出してその圧に抵抗している様子だった。
だけど、そんなことはどうでもいい。
「今……なんて言ったんですか?巨大樹を壊すって言ったんですか?」
「お、おい!落ち着────」
「そうそう!私たちでこの巨大樹を壊して、英雄になるの!だから邪魔しないで!」
「……英雄?何を言ってるんですか?この巨大樹を壊したら、エルフの国は滅んでしまうんですよ?」
「だから、俺たちはエルフの国を滅ぼして魔族の英雄になるんだよ!」
エルフの国を滅ぼして……魔族の英雄?
ベラさんとラッドさんが何を言っているのか、本当にわからない。
エルフの国を滅ぼしたら、たくさんのエルフの人が傷付いて、ただ悲しみを生むだけのはずだ……それが、英雄?
「二人の言ってる言葉の意味は全くわかりませんけど────僕はこのエルフの国を、メリアさんに託されたんです……だから、ゼインさんたちがこの巨大樹を壊すって言うなら、僕はゼインさんたちのことを倒します」
「……託されただ?……相変わらず、お前のそういうところには虫唾が走るぜ」
そう言ったゼインさんは、拳に魔力を溜めて言った。
「あのSランク冒険者二人は、モンスターの大群の相手で手一杯ってところか?なら、ここには俺たち三人とお前が一人ってわけだな」
「はい」
「この前は水を差されたが……今度こそ、お前のことを殴り飛ばしてやる!やるぞお前ら!!」
「おう!!」
「ぶん殴っちゃえ〜!!」
その後、いつも通りベラさんとラッドさんがゼインさんに強化魔法を使うと、ゼインさんは僕の方に殴りかかってきた。
……ベラさんたちの強化魔法を受けているということは、今のゼインさんはSランク冒険者相当。
そんなゼインさんを相手に、巨大樹に魔力を与えている左手を動かさずどこまで戦えるかわからないけど────故郷を失って悲しんでいるメリアさんの顔なんて見たく無いから、ここは僕が絶対に守らないといけないんだ。
だから────僕は、本気を出してゼインさんたちのことを倒すことにした。
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