第29話 ゼイン、リアムと鉢合わせる

◆◇◆

 巨大樹の前へ向かったリディアとメリアは、もう巨大樹のすぐ前方までやって来ているモンスターの群れに目を通す。

 その中には地を歩くものや空を飛ぶものなど、種類も特性も様々なモンスターがたくさん居た。

 が、リディアとメリアが気にしているのはそんなことではない。


「この数は……」

「マギアトスでモンスターが出るなんてあり得ないから最初からわかってたけど、やっぱり誰かが意図的に巨大樹を破壊するためにモンスターを送ってきたみたいだね」

「ということは、お相手の目的はエルフの国の滅亡、ということですか」

「うん、じゃないとわざわざ巨大樹を破壊しようなんて発想に至らないからね」


 そう言ったメリアは、体全身から魔力を溢れさせると、近くの空気を大きく揺らしながら冷たい笑みを浮かべて言う。


「この私の居るエルフの国を滅ぼそうなんて、良い度胸だね……どこの誰か知らないけど、消してあげる」

「良い闘志です、では早速始めましょうか……あなたの性格はともかく、力量だけは認めていますので、私と肩を並べて共闘する相手として期待しています」

「力っていう点においては結構素直なんだね?でも、私もこんなに前衛を安心して任せられる剣士はリディアちゃん以外居ないってぐらい安心感あるよ」

「アストリアの名に懸けて、そのご期待に応えて見せましょう」


 そう言うと、リディアは剣を抜いた。


「巨大樹の方は絶対にリアムくんがなんとかしてくれるから、それまでは────私たちがちゃんと守らないとね」


 続けて、メリアも戦闘準備を始めるように両手で魔法を展開し始める。

 そして────次の瞬間には、リディアは移動魔法によって瞬時にモンスターの群れへ突撃し、メリアは空に飛ぶモンスターたちに向けて広大は範囲の魔法を放ち、モンスターの掃討を開始した。



◆◇◆

「はっ!巨大樹って言っても警備がザルだぜ!こんなもん壊すだけで魔族の英雄になれるとはなぁ」


 巨大樹の中を走りながらゼインが高らかにそう言うと、パーティーメンバーの一人、ベラが言った。


「ゼインは英雄になってお金いっぱい貰ったら何したい?」

「そうだな、まぁ、俺たちがなるのは魔族の英雄だからな、何をするにしても魔族共が相手だろうが……まずは俺ら三人の城でも作るか」

「わ〜!それ良いね!でも、確か魔族の国って能力も美貌も兼ね備えてるとかいう女帝が支配してるんでしょ?勝手に城なんて作って怒られないかな?」

「そうなったときゃ、魔族の英雄って名前を使って他の奴らと徒党を組んでその女を倒せばいい」


 ゼインの言葉を聞いたもう一人の男性のパーティーメンバー、ラッドが大きな声で言う。


「お〜!流石ゼイン!天才だぜ!」


 そう言われたゼインは、まんざらでもない表情で言う。


「まぁ、お前らのリーダーだからな……俺についてくれば、お前らの未来は保証してやるよ」

「一生ついてく〜!」

「よっ!英雄ゼイン!」

「英雄ゼインか……悪くねえ響きだ、だがお前らも英雄ベラと英雄ラッドになるんだ、これからはちゃんと英雄らしい振る舞いをしろよ?」

「おう!」

「任せて!」


 そんなことを話しながら走り続けていると、直進で走ってきた巨大樹の中央部分にある根元が見えてきた。

 そして、それが視界に映ると、ゼインは大きく口角を上げて歪んだ笑みをして言った。


「お前ら!今の話も、この先にある巨大樹の根元を破壊してこそだ!つっても、巨大樹の根元は柔いらしいから俺らで一瞬で壊してやろうぜ!!」

「うん!!」

「やってやるぜ!!」


 ゼインの言葉によって一気に士気が高くなった二人と共に、ゼインはその先頭を走って巨大樹の根元に向かう。

 あと5秒、4秒、3秒、2秒、1秒────


「着いたぜ!ここでひと暴れす────れ……ば……?」


 つい先ほどまで大きな声を上げていたゼインだったが、巨大樹の根元の目の前に居る人物────少なくとも、今日はもう会うことの無いと思っていたリアムのことを見て愕然として声を失う。

 そして、そんなゼインの方を向いたリアムが言った。


「ゼインさん……?どうしてゼインさんがここに居るんですか?」

「そ、それはこっちのセリフだ!どうしてお前がここに!?」

「僕は、巨大樹が早く元気になるように魔力を与えているんです」


 それを聞いたゼインは────これは使える、と思った。

 自分も同じ理由で来たと言えば、お人好しなリアムは信じると思ったからだ……そして、リアムの隙を見て巨大樹の根元を壊す。

 これで英雄になれると確信したゼインは言う。


「そうか、実は俺も────」


 ゼインがそう言いかけた時、後ろからパーティーメンバーたちもこの場に到着した……かと思えば、大きな声で言った。


「巨大樹壊して俺らが英雄〜!」

「魔族の女帝倒して私が女帝〜!」

「っ……!お、お前ら!!」


 ゼインが制止する間もなく二人がそんなことを口走ると、リアムが体から魔力を発して暗い声色で言った。


「巨大樹を……壊す?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る