第28話 リアム、託される

◆◇◆

「到着〜!」


 色々と言い合いが起きていながらも、歩くことは辞めなかったため、あっという間に巨大樹の根元に到着した。


「これが、巨大樹の根元……」


 巨大樹の根元というだけあってとても大きいけど、その根元には一箇所だけ魔力によって光を発している部分があった……あれは、転移魔法陣と同じ魔力だ。

 ……ということは。


「あの光ってるところに魔力を与えれば良いんですか?」

「流石リアムくん!正解だよ!」


 メリアさんが明るい声色で言う。

 すると、メリアさんが考える素振りを取って言った。


「リアムさんの最高級な魔力で巨大樹が満足しないはずはありませんのでその点は心配無いと思われますが、一体どれほどの時間与え続ければ良いのでしょうか?」

「う〜ん、この巨大樹はリアムくんが治した転移魔法陣一つだけじゃなくて、エルフの国にある全転移魔法陣と全植物に繋がってるから、いくらリアムくんでも数秒で……とはいかないかな……って言っても、リアムくんなら十分から三十分ぐらいあればいけちゃうかもね!」


 十分から三十分……思ったよりも短い。

 これなら本当に、すぐに巨大樹も元通りになってくれるかもしれない。


「リアムさんの魔力を持ってしても十分から三十分の時間を要するとは、流石エルフの国の巨大樹ですね」

「ね〜!じゃあ、リアムくん!早速────」


 メリアさんがそう言いかけた時────突如、巨大樹のすぐ近くからたくさんの魔力反応を感じた。

 一つ一つはそこまで大きな反応じゃないけど、とにかく数が多い!


「この反応は……」

「モンスター!?どうしてマギアトスの中央でモンスターなんかが!?」


 本来起こり得ないことが起きているのか、メリアさんは珍しくとても驚いた様子でそう言ったけど、続けて落ち着いて言う。


「今原因考えても仕方無いよね……リアムくんは、この巨大樹の根元に魔力を与え続けるのと、万が一に備えて防衛の準備をしててもらえるかな?」

「わかりました……防衛するのは、この根本の部分をですか?」

「うん、巨大樹はその特性上外側はかなり堅いんだけど、根本は何も防御が無いから、弱い奴の攻撃だとしても何発かで壊れるの────それで、根本が破壊されたら巨大樹そのものも壊れて、巨大樹が壊れたらエルフの国の植物全てが壊れて……エルフの国が滅びるの」

「っ!?」


 エ、エルフの国が滅びる!?

 僕がそのことに驚いていると、メリアさんは続けて真剣な表情と声色で言った。


「でも、もし巨大樹が元に戻りさえすれば、結界が発動してどんなモンスターだろうと侵入を許さない状態ができるから、そうなったら私たちの勝ち……こんな感じの私だけど、やっぱり生まれ故郷のエルフの国には愛着があるから、滅びちゃうなんて絶対嫌なんだよね────だから、お願いリアムくん……その力で、この巨大樹……ううん、エルフの国を守ってくれないかな?」


 つまり、これは────エルフの国の存亡を懸けた戦い。

 ……何事も起きなかったら、なんて甘い考えでいたけど、エルフの国にとって大切な巨大樹というものに関わる以上、そんな考えで居て良いはずがない。

 僕は自らの考えをすぐに改め、真剣な目で僕のことを見ているメリアさんの目を見返して言う。


「わかりました……僕が絶対に、このエルフの国を守ります!」


 僕がハッキリそう言うと、メリアさんは笑顔で言った。


「リアムくんがそう言ってくれるなら、何よりも頼もしいね……それじゃあ、ここはリアムくんにお願いして私はモンスターの方に行くけど、リディアちゃんも来てくれるかな?」

「一時もリアムさんと離れたくないというのが心情ではありますが、エルフの国の滅亡となれば、そうも言っていられませんね……わかりました、私もあなたと同行しモンスターに対処致しましょう」

「ありがとう……じゃあ、リアムくん!また後でね!」

「リアムさん、また後ほど」


 そう言うと、二人はそれぞれ移動魔法を使ってあっという間にこの巨大樹の根元から去って行った。


「……」


 僕は、託されたものをしっかりと受け止めて、メリアさんの大切なものを守るために、早速巨大樹に魔力を与え始めた。



◆◇◆

「……よし、行ったな」


 モンスターが出現した方とは反対で待機していたゼインは、その方角に居た警備がモンスターの対処に向かったのを確認すると、堂々と姿を出した。


「よし!お前ら!あとはあの直線を突っ切って、中にある根元をぶっ壊しゃ、大量の金が入ってくると同時に俺たちが魔族の英雄だ!!」

「おおおお!!」

「Aランクから魔族の英雄って、そんなの他に居たのかな?」

「はっ、そんな飛び級をした奴は世界のどこを探してもいねぇだろうな……俺たちで、今からエルフの国滅亡と魔族の英雄という二つの歴史を作るんだ!行くぞ!!」

「いぇ〜い!!」

「行くぜ〜!!」


 そして、ゼインたちはそのまま巨大樹の中央にある根元へ向けて走り出した。

 警備の居ない巨大樹の根元など破壊できると確信しているゼインは、今後魔族の英雄として生活する自らの姿を想像して笑みすら浮かべていた。

 ────この先に、リアムが待っていることも知らずに。

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