第31話 ゼイン、吹き飛ぶ
◆◇◆
「これでも喰らってぶっ飛べリアム!!」
そう叫んでリアムに殴りかかったゼインだったが、リアムはその攻撃を平然と右手でそれを受け止める。
「こんなもんじゃねえぞ!!」
続けてゼインはもう片方の手でリアムに殴りかかる────が、リアムは再度右手でその攻撃を受け止めた。
そのリアムの行動に疑問を抱いたゼインは、一度下がってリアムと距離を取る。
「……なんでリアムは片手しか使わねえんだ?」
思わずそう呟いたゼインだったが、視線を逸らすとその答え────リアムが左手で巨大樹の根元に向けて魔力を与えているところが視界に映った。
「なるほどな、確か巨大樹を元気にするために魔力を与えてる、だったか?つまり、この俺の相手なんざ片手間で良いってわけだ」
笑いながらそう言ったゼインは、その次の瞬間には怒りの表情で顔を歪ませて再度リアムに殴りかかって言った。
「お前のそういうところが鼻に付くんだよリアム!!」
その怒りに身を任せてリアムに連続で殴りかかるゼインだったが、リアムは先ほどと同じく平然と、それも片手でゼインの攻撃を受け止める。
「……今のゼインさんたちに同情するつもりは無いですけど、ベラさんたちの強化魔法、ちゃんとゼインさんに掛かって無いんじゃ無いですか?じゃないと、こんなに拳の力が弱いはずありません」
「っ……!お、お前ら!お前らも魔法でリアムに攻撃しろ!!」
「う、うん!」
「ま、任せろ!!」
自らの不利な状況を覆い隠すように強気でパーティーメンバーたちに指示を出すと、ゼインに言われた通りに二人のパーティーメンバーはリアムに向けて魔法攻撃を放つ……が、リアムはもはやそれらを何の魔力も使わずに手で軽く払いのけるようにしながら言った。
「ベラさんたちは強化魔法以外は苦手だったはずです……だから、そんな攻撃をしても意味はありません」
「っ!なら、俺が直接ぶん殴ってや────ぐぁぁぁぁぁっ!!」
リアムの右手から放たれた雷魔法を至近距離で受けたゼインは、その場に膝を崩す……すると、リアムによって足元を凍らされ、身動きができなくなった。
「ゼイン!」
「や、やばくねえ……?」
パーティーメンバーたちの動揺した声を背にしながら、ゼインは自らの足元の氷を魔法を込めた拳で殴るが────その氷は砕けないどころか、むしろ殴った自らの手に痛みが返ってくるだけだった。
「クソが……!」
身動きが取れなければ、以前のようにあえて死にかけの状態になって一方的に攻撃するという作戦を取ることすらできない。
もはや何もすることができなくなったことに苛立ちを露わにしているゼインのことを、リアムは見下ろして暗い声で言う。
「……どうしてエルフの国を滅ぼすんですか?そんなことをしたら、この国に住んでいるエルフの人たちが大変なことになるんですよ?そうしたら、悲しむ人だって居るんです」
「さっきも言っただろうが、英雄になるためだってな……それに、俺の知らねえ奴が悲しんだって、俺には何の関係もねえから知らねえとしか言えねえな……あぁ、お前の仲間の大魔法使い……俺のことを存分に痛めつけてくれやがったあいつもエルフだったよな?なら、このエルフの国を滅ぼせば、あいつの泣き顔の一つでも見れるんだろ?はっ、想像しただけで笑えてくるぜ」
「っ……!!」
それを聞いたリアムは大きく目を見開いた。
そんなリアムのことを見て面白く感じたゼインは、後ろに居るパーティーメンバーたちに言う。
「おい!お前ら!今度はリアムじゃなく、この巨大樹の根元とやらに攻撃してやれ!それでリアムの心もあの大魔法使いも何もかも折れる!!そうなったら俺がそいつらのことをぶん殴ってやる!!」
「わかった!」
「よっしゃあ!」
元気良く返事をすると、二人のパーティーメンバーたちが巨大樹の根元に向けて手をかざした。
「よし、これで後は……っ!?」
これであとは巨大樹の根元に向けて二人が攻撃魔法を放てば終わり、と言おうとした時、今までに無いほどの魔力の圧を感じたかと思えば、その魔力の発生源は両目から涙を流しているリアムだった。
そして、リアムは暗い声で言う。
「もう……いいです」
「……あぁ?今更降伏なんざ────」
「消えてください」
リアムがそう言った直後────ゼインの視界が真っ白になった。
正確には、真っ白ではなく、ところどころに移り変わりのようなものがある。
ゼインには何が起きたのかわからなかったが────少ししてからようやく理解が追いつくと……
「ぐああああああああっ!!」
「きゃあああああああっ!!」
「うわあああああああっ!!」
────リアムの風魔法によって、周りのものに目が追いつかないほどの速さで吹き飛ばされたゼインたち三人はそう声を上げる。
そして、指一本すら自由に動かすことのできない風圧によって、エルフの国の国境を超えてもなお、しばらくの間吹き飛ばされ続けた。
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