第26話 ゼイン、復讐を決意する

◆◇◆

 パーティーメンバー二人を抱えて走ったゼインは、人気の無い路地のようなところに駆け込むとそこに二人を置いて自分自身も壁に寄りかかることにした。


「クソッ……リアムだけじゃなくて、Sランク冒険者が二人もだと……?」


 Sランク冒険者は、その突出した実力と同じく性格も変わった人物が多く、基本的にはソロで活動しているのがほとんどだ。

 それが、何故かリアムの下で二人も集結しており、実質リアムもSランク冒険者と同等の力を持っているため、もし今後もリアムを相手にするのであればSランク冒険者三人を相手にするということになる。


「俺たちのことをあんな目に遭わせやがったあいつらにはどうにか復讐したいが……あの力量差じゃ……」


 リアムとの約束など本気で守るつもりなど無いが、今の状況では力量でリアム達のことを上回ることができないため、自らの身を案じるのであれば無理矢理にでもその約束を守らないといけない。


「ってて」

「……あれ、ここ、どこ?」


 そうこうしている間に二人のパーティーメンバーが目を覚ましたらしいため、ゼインはひとまず状況を説明する。


「ここはエルフの国の路地だ……戦局が不利になったから撤退したんだ」

「なるほどね……」

「まぁ、今回はSランク冒険者が居るなんて知らなくて不意を喰らっちまったけど、次はそれ込みでリアムをぶん殴る作戦考えれば良いだけだよな!」

「だね〜」

「っ……?」


 どうして自分はここまで力量差に絶望しているのに、二人はそこまで絶望していないどころか次のことを考えているのか、一瞬ゼインにはわからなかった……が、おそらく気絶させられたために圧倒的な力量差を知ることもなかったのだろうと予測して、それによって自らとの認識の差異が生まれていると考える。


「……お前らは気絶してたから知らねえかもしれねえが、リアムの奴はあのリディア・アストリアだけじゃなくてあのSランク冒険者の大魔法使いも味方に付けてやがった」

「嘘!」

「マ、マジかよ……」

「あぁ……だから不本意だが、俺たちはしばらく────」


 リアムから手を引く、そう言いかけた時。


「ゼインさん、そろそろ巨大樹破壊作戦の開始時間が近づいておりますが、このような場所でいかがなされているのですかな?」

「っ……!」


 以前エルフの国の滅亡に関して話してきた、長い帽子を被り顔を覆っている怪しげなマスクを付けている、タキシードを着た男性と思われる人物が話しかけてきた。

 そして、ゼインはリアムたちとの戦いに惨敗してすっかり頭から抜けてしまっていた巨大樹を破壊してエルフの国を滅亡させるという話を思い出す。


「……そのことはわかってるが、その前に一つ確認だ」

「なんですかな?」

「────巨大樹を破壊したらエルフの国が滅んで、エルフへの復讐になるのか?」


 リアムへの苛立ちは大きいが、ゼインが今一番苛立ちを覚えているのはどちらかと言えばリアムよりも、自らに長い時間苦痛の時間を与えてきた赤髪のエルフ、大魔法使いの方だった。

 そんなゼインの言葉を聞いたマスクをしている男性は、マスク越しでも口角を上げているのがわかる声で頷いて言う。


「もちろん、むしろエルフへの復讐と言えばこれ以上のものはありません」

「そうか……巨大樹の警備はどれぐらい居るんだ?」

「数名のエルフが居るのみです……後から駆けつけたとしても、巨大樹付近まで入り込むことさえできてしまえば、後は使役しているモンスターたちによって巨大樹を滅ぼすだけです」


 モンスターを使役できるのは基本的に魔族だけなため、このマスクをしている男性が魔族だということは、以前エルフの国を滅亡させるという話を聞いた時から予測できていたため特に気にしない。

 が、別の部分が気になったゼインは言う。


「怪しい話だな、どうしてエルフにとって重要な巨大樹にそんだけしか警備が居ないだ?」

「巨大樹というのは、基本的には異物の結界を阻む力を持っているので、本当であれば例え数名でも警備をつけていることですら用心深いこと……ですが、今は巨大樹が弱っていてその結界はまともに機能しておらず、おそらく混乱を避けるために通常のエルフたちにはそのことが伝えられていないのでしょう」

「それで通常運転してるってわけか……わかった、俺たちもすぐに向かう」

「お待ちしておりますよ、ゼインさん」


 そう言うと、マスクをしている男性はこの場から姿を消した。


「今聞いてた通りだお前たち、このエルフの国を滅ぼして、手始めにあのエルフの大魔法使いに復讐するぞ」


 先ほどまでリアムたちとの力量差に心を折られていたゼインだったが、今の話に加えて、パーティーメンバーたちの前であることでリーダーとしてそう言い放った。


「うん!!」

「おお!!」


 巨大樹には数名のエルフの警備のみ。

 リアムたちがわざわざ巨大樹に行く理由は無いと考えられるため、あの三人と接敵せずに巨大樹を破壊しエルフの国を滅ぼすことができる。


「あの女が知らず知らずのうちに故郷を失った時の顔か……はっ、早く見たくて待ちきれねえぜ」


 巨大樹を破壊するときにリアムたちと戦うことは無いのであればと、もはや完全に今まで通りに息を吹き返したゼインは、パーティーメンバーとともに巨大樹方面へと向かった。



◆◇◆

 一方その頃────リアムたちは、いよいよ巨大樹の目の前までやって来ていた。

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