第25話 リアム、信じる

「も……もう、勘弁してくれ……」


 数えることすら忘れてしまうほどの回数、メリアさんに攻撃されては回復されを繰り返されたゼインさんは、身体的には回復魔法で全回復している状態だけど、精神のほうがボロボロなのか今まで見たことがないほどに弱々しい表情と声でメリアさんに向けてそう言った。


「どうしよっかなぁ」


 メリアさんには全く感情が揺らいだ様子が無く、そんなメリアさんのことを見たゼインさんは顔を青ざめると、次に僕の方を向いて言った。


「な、なぁ、リアム、俺が悪かった、もう勘弁してくれないか?お前の仲間を馬鹿にしたことも取り消すし、お前に攻撃したことだって謝る!」

「……もう二度とそういったことをしないと、僕に約束してくれますか?」

「あ……あぁ、約束する、もう二度とお前のこともお前の仲間のことも馬鹿にもしないし、お前に危害を加えたりもしない!!」


 ゼインさんの叫びを僕の隣で聞いていたメリアさんが口を開いて言う。


「本当かなぁ?今助かりたいがために言ってるようにしか聞こえないけど?」

「ほ、本当だ!リ、リアム、お前なら信じてくれるだろ?」

「……」


 ゼインさんが本当にその言葉を言ったのかどうかは、ゼインさんしかわからない……だけど、ゼインさんはもう十分過ぎるほどに苦しんでいたと思うし、何よりも僕は元パーティーメンバーであるゼインさんのことを信じたいと思った。


「わかりました、ゼインさんのことを信じます」

「リアム……!」

「え〜?リアムくん、本当に良いの?」

「はい、僕はゼインさんのことを信じることに決めました……それでも、もしこの約束が裏切られたなら────その時は、僕が全力でゼインさんのことを倒します」


 僕がそう言い放つと、この場には一瞬の静寂が生まれた。

 そして、どこか顔を引き攣らせているゼインさんとは反対に、メリアさんはとても明るい表情で僕に近づいてきて言う。


「今のリアムくんの表情と冷たい感じの声、私ゾクッて来ちゃった……もう〜!まだそんな顔隠してたの?」

「え、えっ!?べ、別に何も隠してないですよ……?」

「そうかな?まだ隠してる顔とかあるんじゃない?例えば……」


 メリアさんは腰を低くして僕と身長を合わせると、僕の耳元で囁くようにして甘い声で言った。


「リアムくんが気持ち良くなってる時の顔とか」

「っ……!そ、そ、そんなの無いですから!」


 距離を取って大きな声でそう言うと、メリアさんは小さく笑って言う。


「そうかな?それなら、私がリアムくんにその新しい顔をさせてあげても良いんだよ?」

「だ、だ、大丈夫ですから!」


 僕たちがそんなやり取りをしていると、近くで膝を付いていたゼインさんは、顔を引き攣らせたまま立ち上がり、そのまま走り出してベラさんたちの方へ向かうと、その二人を抱えて走って行った。

 すると、それと時を同じくしてリディアさんが僕たちの方へやって来る。


「どうやら話が着いたようですね……気絶させた二人を見張っていたので会話内容は聞こえませんでしたが、あなたのしたことを見ていればあの方が抵抗する意志を無くしてしまうのも無理はありません」

「ありがと〜」

「褒めたわけでは……ですが、リアムさんに暴言を吐き暴力を行おうとした輩であれば、あの程度の罰が与えられても当然だと思いますので、今回は良いでしょう」


 色々とあったけど、ゼインさんとの剣はひとまず解決……ということで良いのかな。

 その後、僕たちは近辺の人に騒動を起こしてしまったことを謝罪して、壊れてしまった植物の道なんかはメリアさんが元通りにしてくれたため、こうしてひとまずは事態が落ち着いた。


「それではリアムさん、当初の予定通り巨大樹へと向かいますか?」

「はい!そうしましょう!」

「今回は治すために行くから仕方無いとしても、巨大樹はもう見慣れちゃってるから見たことないものとか見てみたいよね〜」

「そうですね!僕は巨大樹を見慣れてないので、今こうして見るだけでもすごく楽しい気持ちになります」


 中央都市マギアトスからであればどこに居ても見えそうなほど大きな巨大樹を見上げながらそう言うと、メリアさんが言った。


「私、見てみたいものがあるんだよね〜!それも、リアムくんが協力してくれたらすぐに見られる私にとっては未知のもの!」

「僕が協力したら……ですか?」

「うん!」


 僕が今こうして巨大樹を見て新鮮な気持ちになっているように、僕がメリアさんに協力することでこの気持ちを上げられるなら……


「わかりました!僕にできることならどんなことでも協力します!」

「どんなことでも!?じゃあ、今日宿に帰ったらリアムくんの下の方にある────」


 メリアさんが何かを言いかけた時、リディアさんが腰に携えている剣の柄を握って口を開いた。


「それ以上言えばあなたのことを斬ります」

「え〜!まだ何も言ってないんだけど!」

「言わずとも想像が付きます」

「想像〜?リディアちゃん、どんな想像しちゃったの?」

「どうやら、本当に斬られたいようですね」

「もう〜!リディアちゃんのえっち〜!」

「────介錯が欲しいのであれば、お望み通りそうして差し上げましょう、そこに座りなさい」

「か、介錯!?よくわからないですけど、落ち着いてくださいリディアさん!」


 僕たちは、巨大樹に向かいながらも、もはや日常となりつつあるやり取りを繰り広げていた。

 ────この日常の雰囲気のまま、何事もなく巨大樹が元気になってくれることを祈ろう。

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