第24話 リアム、メリアに戦慄する

「ぐ……っ!……な、何なんだこの女は……お、おい、リアム!この女もお前の知り合いなのか?」


 体を起こそうとしても起き上がれないのか、ゼインさんはどうにか倒れた状態から膝をついて、メリアさんへの恐怖心を振り払うように僕に向けて大声で聞いてきた。


「はい、その人もリディアさんと同じくSランク冒険者の方です」

「な、何!?」


 ゼインさんが驚いた様子で再度メリアさんのことを見ると、メリアさんが言った。


「他の冒険者に私のことを説明するなら、大魔法使いって言った方がわかりやすいかなぁ」

「だ、だ、大魔法使いだと!?」


 その単語を聞いてさらに驚いた様子だったけど、メリアさんはそんなことを気にせずに言う。


「それで?出てきたばっかりでどういう状況か全然わからないけど、とにかくこの男がリアムくんの敵なんだよね?ていうか、リアムくんのこと間抜けとか言った時点で私の敵なんだけど」

「て、敵というか、少し揉めているというか……でも、どちらにしてもこれ以上攻撃したらこのゼインさんが死んでしまう可能性があるので、これ以上は攻撃しない方が良いと思います……なので、ゼインさんが攻撃してきて完全に体力が無くなるのを待つしかないというのが現状です」


 僕がそう伝えると、メリアさんは小さく笑いながら言った。


「リアムくんは優しいね、こんな見た目から口調から性格まで悪そうな男にも慈悲をかけてあげるなんて────でも、私はリアムくんほど優しくないから、慈悲なんてかけてあげないよ」


 目元を暗くしてそう言ったメリアさんは、ゼインさんに向けて手をかざした。


「っ!メリアさん!待ってください!!」


 ────そう大きな声を出したのも虚しく、メリアさんは魔力を手に溜めるとその魔力をゼインさんの方に向けて放った。

 あんなにボロボロの状態のゼインさんが、メリアさんの攻撃なんて受けた……ら?

 なんて考えていたけど、僕はメリアさんの手から放たれている魔力が攻撃魔法では無いことに気がついた。


「……あぁ?」


 そして、それを実際に受けたゼインさんは、自らに危害を加えられていないこと────だけでなく、むしろ自らの体にあったダメージが全て無くなっていることに気が付いたのか、自らの両手や体に目を通して驚いた様子だった。


「回復魔法、これで体全身元通りでしょ?」


 メリアさんがかざしていた手を下ろしてそう言うと、ゼインさんは立ち上がる。


「あぁ、流石大魔法使い様ってわけだ……はっ、にしても、まさか大魔法使い様が俺の味方になってくれるとはなぁ、リアムとは違う俺の男らしさに惚れたか?まぁいい、ともかく……形成逆転だな、リアム!!ここからはその大魔法使い様と俺で、お前のことを徹底的に痛ぶってやるぜ!!」


 大きな声でそう言ったゼインさんが僕の方に走ってくると、拳にゼインさんの魔力を込めて僕に殴りかかろうとしてきた。

 ────その時、メリアさんが呆れたような声で言う。


「私がリアムくん以外に惚れたとか、気持ち悪いこと言わないでよ……ていうか、勘違いしてるみたいだけど私はずっとリアムくんの味方だし────リアムくんのことを痛ぶるとかいう男には、やっぱり容赦なんてしなくて良いよね」


 それと同時にメリアさんが再度ゼインさんに向けて手をかざすと、ゼインさんの真下から氷魔法が生成された。


「あぁ!?クソッ、足がっ!どうなってやが────」


 そして、ゼインさんは足から頭まで氷魔法によって凍らされた……けど、すぐにその氷魔法は解除される。


「がぁっ、ぐっ、ソが……」


 さっきまでのゼインさんが受けていたら死んでしまっていたかもしれないけど、今の全回復したゼインさんならギリギリ死なない程度の魔力でメリアさんは攻撃したようだ。


「はい、回復させてあげるね」


 メリアさんがそう言うと、ゼインさんはまたも全身が元通りに回復する。

 すると、メリアさんに向けて大きな声を放つ。


「テ、テメェ!どういうつも────ぐぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 その時には、メリアさんはゼインさんに向けて炎魔法を放っており、ゼインさんは悲痛な叫びを上げた。


「リアムくんにあんなこと言って攻撃までしようとしたんだから、ちょっと苦しんだだけじゃ絶対に許してあげない……」


 目元を暗くしてそう呟いたメリアさんは、それからもまたゼインさんのことを回復させては氷魔法を放ち、回復させては炎魔法を放ちを繰り返した────僕はそのメリアさんの行動や雰囲気に、もはや戦慄すら覚えていたけど、メリアさんが僕の味方で居てくれて心底良かったと感じた。

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