第23話 リアム、完封する

「なっ……!んだとリアム────」


 怒ってそう言いかけたゼインさんの拳を握ると、少しだけ魔力を乗せてゼインさんのことを吹き飛ばした。


「ぐっ……!」


 苦しそうな声を上げたゼインさんに対して、僕は言う。


「ゼインさんがどれだけ手加減してくれていたとしても、僕は今手加減するつもりはありませんから、せっかくなので本気で戦いましょう」

「……そういうところだ、鼻に付くのはそういうところなんだよリアム!そのなんでもねえみたいな顔を今から俺の拳で歪ませてやる!!」


 そう言って無防備に突撃してくるゼインさんに、僕は雷魔法を放つ。


「ぐぁぁぁぁぁっ!!」


 すると、ゼインさんはその場に膝を付いて息を切らし始めた。


「ベラさんたちの強化魔法はまだ続いてるはずですよね?それなのに、どうしてもっと全力で動かないんですか?」


 僕が以前ゼインさんのパーティーに居た時、ベラさんたちの強化魔法を受けて動いていた時は、今のゼインさんの十倍は早く動いていた。

 そして、それなら今の雷魔法の攻撃だって避けることができたり、そもそも今ぐらいの攻撃だとあまりダメージも感じないはず。

 そのことを不思議に思った僕がそう聞くも、ゼインさんが言った。


「もう体中が痛くて痛くて堪らねえぜ、これ以上食らったら死んじまいそうだ」

「もちろん、命を奪ったりはしません……ただ今後、僕に優しくしてくれる人たちのことを酷く言わないと約束してくれるなら────」

「だからお前は間抜けなんだよ!!」


 そう言うと、ゼインさんはまたも僕の方に無防備に突撃してきた。

 僕はさっきと同じように雷魔法を放とうとした────けど、その手を止める。


「これ以上食らったら俺が死ぬ状況なら、お前はこれ以上俺に攻撃できねえだろ!これがどういう意味かわかるか?ここからは────俺が一方的にお前に攻撃できるってことだ!!」


 ゼインさんは大きく拳を振りかぶると、その拳を僕に下ろしてきたため、それを回避する。


「僕の攻撃をあえて受け続けて弱く攻撃していたのにはちゃんと目的があったんですね……まぁ、そうでないと僕なんかがベラさん達の強化魔法を受けているAランク冒険者のゼインさんのことをここまで完封できるわけないですもんね」

「っ……!」


 僕がそう呟くと、ゼインさんは続けて僕に連続で拳を振り下ろしてきた。

 僕は、それらを全て避けながら思う────遅い。

 もうゼインさんに手加減する理由は無いはずなのに……純粋に受けたダメージのせいで動きが鈍ってるのかな。

 どちらにしても、このぐらいの速度なら何回殴りかかられても当たらないだろうし────


「はぁ、ぐっ、クソッ」


 避け続けていたら、先に体力が切れるのはダメージをたくさん受けているゼインさんの方で、事実今ゼインさんは拳を振る手を止めて息を整えることに専念していた。


「ちょこまかと、避けやがって……そんなに俺の攻撃が怖いのか?」

「避けられる攻撃にあえて当たる意味は、少なくとも今はありません」

「チッ……あ?」


 ゼインさんは、横に視線を逸らすと────何かを思いついたように歯を見せて笑い、僕の方に突撃してきた。

 また同じことを繰り返すのかな────なんて思ったけど、ゼインさんは先ほどまでとは違い途中で僕に突撃するのをやめて、横にある宿の方に向けて走って行った。


「ゼインさん……?何を────」

「そこの女!痛い目を見たくなかったら大人しく俺の言うことを聞きやがれ!」


 ────女の人!?

 まさか、その人を人質にするつもりで……?

 僕は、ゼインさんの向かった宿の方を向いて言う。


「ゼインさん!それだと盗賊の人と変わらな────」


 そう言いかけた時、僕はゼインさんが剣を向けて走っている方角に居る女の人の姿を見た。

 赤い髪のエルフの女性で、とても際どい服を着ている抜群のスタイルを持っている女性────メリアさんだ。

 このままだと……まずい!

 そう思い至った僕は、すぐに大きな声で言う。


「逃げてください!!」

「はっ!今更逃げられるわけねえだろ!」


 そう言ってメリアさんに近付くゼインさんに、僕は大きな声で言う。


「逃げてください!!ゼインさん!!このままだとゼインさんが死んじゃいます!!」

「あぁ!?そんな嘘がこの俺に通ると思ってんのか!こいつさえ盾に取っちまえば、間抜けなお前は何もできねえだろリアム!!こっからは、俺が一方的にお前を殴るんだよ!!」


 ゼインさんとメリアさんの距離が至近距離になった────その時。

 突如メリアさんの方から強力な魔力を感じたかと思えば、メリアさんは体全身からその強力な魔力を溢れさせていて、今の弱っているゼインさんでは受け身も取れないのかその魔力の圧力に吹き飛ばされると受け身も取れずに倒れた。

 だけど、メリアさんはそのことを特に気にした様子もなく冷たい笑みで言う。


「リアムくんのことを間抜けだなんて面白いこと言う男も居るんだね────ちなみに、燃やされるのと凍らされるのだったらどっちがいい?私のオススメは凍らされる方だよ……一瞬で終われるからね」

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