第21話 リアム、リディアが大切

「……許さないだと?」


 僕の言葉を拾って聞き返してきたゼインさんは、続けて怒ったように大きな声で言った。


「お前!誰に向かって口聞いてやがるのかわかってんのか!」

「ゼインさんです」

「……元々所属していたパーティーのリーダーに、そのパーティーから追放された瞬間調子に乗るような奴には言葉じゃ無い方法で教育してやらねえとな」


 そう言うと、ゼインさんは僕との距離を縮めようとしてきた────けど、僕との距離を縮める度に顔を苦しそうにしている。

 すると、ゼインさんのパーティーメンバーの女性、ベラさんがゼインさんに向けて言った。


「ゼイン!それ以上近付いたら────」

「うるせえ、こいつが調子に乗ってると思うとそれだけで虫唾が走って殴らずにはいられねえんだよ!」


 ベラさんの言葉をそう一蹴すると、ゼインさんは苦しさを紛らわすように叫びながら僕の方に駆け出してくると、拳に魔力を溜めて僕に殴りかかってきた。


「これでも喰らっとけ!」


 そう言って僕に繰り出されるゼインさんの拳を、僕は片手で受け止める。


「なっ……!?」

「僕のことを殴りたいと言っていた割に、遅い動きに弱い力ですね……それもゼインさんの優しさなのかもしれませんけど、僕と一緒に居たいと言ってくれた人のことを貶めるような発言をしたゼインさんのことを、優しい人だとは思えません」

「っ!ぐぁっ!?」


 さらに一段階上の魔力を体全身から放つと、ゼインさんはパーティーメンバーであるベラさん達の方に吹っ飛んで行った。


「ゼ、ゼイン!大丈夫!?」

「お、おいおい、今日は退いた方が良いんじゃねえ?」


 パーティーメンバーにそう声を掛けられるも、ゼインさんは僕のことを睨んだままどうにかといった様子で体を起こして言った。


「ふ、ふざけんな、このまま退いたら俺が完全にあいつに敗北したことになるだろうが……こうなったら……お前ら!俺に強化魔法を使え!今から本気であいつを倒す!!」

「強化魔法って、こんな街中で良いのかよ?」

「はっ、どうせ俺たちはで来てんだから、仮にこの国の街一つ壊したとしてもそんなもんはあと少しで何の意味も無くなるんだよ」

「そ……そうか、そうだよな」

「ベラもいいな?」

「おっけー!あんな間抜け早く殴り飛ばしちゃってよ!」


 二人はゼインさんと同様僕と戦うつもりなのか、ゼインさんに向けて強化魔法を使った……そして、ゼインさんも自らに強化魔法を使う。

 ……ゼインさんのパーティーが恐ろしいのは、ここからだ。

 本来ならSランク相当のモンスターを一人で倒せるはずなんて無い僕がそれらのモンスター達と渡り合うことができていたのは、全てあのゼインさんのパーティーによる強化魔法のおかげ。

 つまり……ゼインさんは今、Sランク冒険者相当の実力を持っていてもおかしくない。


「今度こそ、その間抜け面ぶっ飛ばしてやる!喰らえ!!」


 そう大きな声を出して僕との距離を縮めてくるゼインさんに、僕はSランク相当の相手だと認識して本気で戦うことにした。

 Sランク相当の相手に僕一人でどこまで戦えるかわからないけど、とりあえず様子見で全力の攻撃を────と思った、その時。

 僕の出て来た宿の方向から一瞬影が見えたかと思ったら、その次の瞬間、金髪で鎧を着た人物が僕の前に出てきて、ゼインさんの拳を軽々しく剣で受け止めて言った。


「リアムさんのお帰りが遅く、何やら叫び声が聞こえると思い馳せ参じてみれば……どこのどなたか知りませんが、リアムさんに拳を振るおうとしたことを悔いなさい」

「っ!?だ、誰だテメェ!?」

「リアムさんに拳を振るった人間に対し名乗るななど無いと言いたいところですが、剣を用い相対したのであれば騎士としての道理を守り名乗って差し上げましょう────私は誇り高きアストリア家の騎士であると同時に、Sランク冒険者のリディア・アストリアです」

「Sランク冒険者の……ア、アストリア、だと!?」


 その名前を聞いたゼインさんは拳を振るうのをやめてリディアさんから距離を取ったけど、僕は反対にリディアさんの方に近づいて言う。


「リディアさん!来てくださったんですね!」

「このような相手に私など不要だと理解しておりますが、リアムさんが攻撃されていると思うと……申し訳ございません」

「そ、そんな!僕はリディアさんが来てくださって嬉しいです!」

「リアムさん……」


 どこか嬉しそうな表情で僕の名前を呟くリディアさんに続けて、今度はゼインさんが驚いたように僕の名前を叫んで言った。


「お、おい!リアム!そこに居るあのリディア・アストリアと、知り合いなのか?」


 ゼインさんがそう聞いてくると、僕はゼインさんの方を向いて答えた。


「はい、リディアさんはゼインさんが悪く言った、僕と一緒に居たいと言ってくれる人で、僕の大切な人でもあります……だから、さっきも言った通り、そんなリディアさんのことを悪く言ったゼインさんのことを、僕は絶対に許しません」


 僕がゼインさんに再度そう伝えると、僕の隣に居るリディアさんが厳格な雰囲気になると、ゼインさんに向けて冷たい声色で言った。


「リアムさんに攻撃を行っただけでなく、アストリアの名を持つ私のことを貶める発言を取っていたとは……愚か者よ、覚悟なさい」

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