第17話 リアム、リディアに誘われる?

「……リディアさん?どうかしたんですか……?」


 そんなリディアさんに対して疑問を抱いた僕がその疑問を投げかけると、リディアさんはどこか暗い表情で言った。


「リアムさん……このままでは、リアムさんがあのエスメリアという女性に誑かされる日……いえ、汚されてしまう日もそう遠くないと推測されます」

「け、汚され……?」

「はい……ですが、私はリアムさんにあのような品の無い女性に汚されてほしくは無いのです」


 そう言うと、リディアさんは僕との距離を縮めてきた。

 そして、至近距離から真っ直ぐと僕の目を見て、恍惚とした表情で呟く。


「もしあのような方に汚されてしまうぐらいであれば、私が……リアムさん、こちらへ来てください」

「リ、リディアさん?」


 僕の手首を握って、突然僕のことをどこかに連れて行こうとするリディアさんに動揺しながらもそのままリディアさんについて行くと、部屋は変わらなかったけど、場所はベッドの上に変わって、僕たちはそのベッドの上に二人で座っていた。

 すると、リディアさんが頬を赤く染めて聞いてきた。


「リアムさん、これまで女性と交際したことや、特別な関係性になったことはありますか?」

「こ、こ、交際!?な、無いです!僕なんて、とても女の人とお付き合いできるような人間では無いので……特別な関係性というのも、パーティーが一緒だったという人が居るぐらいで、それ以外には思い至りません」


 Aランクパーティーから追放されてしまったこともそうだけど、この旅先でも所々でリディアさんに助けてもらっている。

 そんな僕が女性とお付き合いするのに足る人間だとは思わない。

 そして、一体どういう関係を特別というのかはわからないけど、少なくとも僕にはゼインさんのパーティーに居た時にそのパーティーに居た女性と同じパーティーになったということぐらいしか思い至らなかった。


「私も、これまで男性と交際したこともなければ特別な関係性になったことはありません……何故なら、これまで私はそうしたいと思える方と出会うことができなかったからです────ですが」

「えっ……?」


 リディアさんは、突然僕の手に自らの手を重ねてくると、より頬を赤く染めてどこか甘さを感じる声色で言った。


「リアムさんは私を救ってくださり、お力も強く、精神性までとてもお優しいお方です……そんなリアムさんにであれば、私は……リアムさん、どうか私と────」


 リディアさんが何かを言いかけた時────突如、ドアの方から大きな音が聞こえたかと思えば、その直後に聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。


「発見〜!……うわ〜!二人でベッドの上座ってる〜!」


 その声と同時に姿を現したのはメリアさんで、メリアさんは僕たち二人に近づいてくるとニヤニヤしながら言った。


「ねぇねぇ、二人でベッドの上に座って何しようとしてたの?私にも教え────」

「どうしてここがわかったのか、それだけを簡潔に答えなさい」


 先ほどまでの甘さを感じる声色が瞬時に無くなると、リディアさんはいつにも増して冷たく怒っている声音へと変化してメリアさんに鋭い眼光を向けてそう言った。

 怒っている、と言っても明らかに今までの怒っているというのとは雰囲気の違うリディアさんに対して、メリアさんは特に様子を変えずに言う。


「それは簡単だよ?私よりも得意としてる移動魔法で私から距離を取る判断は良かったと思うけど、魔法で移動するってことは移動の痕跡が残っちゃうってことだから、私はそれを追って来ただけ……それにしてもまさかこんなに移動してるとは思わなかったから、遅くなっちゃったけどね」

「そうですか……でしたら、今後は移動魔法など使わず────いえ、あなたに今後の話などしても意味などありませんでしたね、あなたの首はここで私に刎ねられてしまうのですから」

「え〜?あ、もしかして私お邪魔だった〜?ていうか、もしかしなくてもお邪魔だったよね〜!ごめんね〜?でも退いてあげることはできないんだよね〜」


 リディアさんは我慢の限界といった様子でベッドから立ち上がって剣を鞘から抜こうとした────けど、僕もリディアさんと同じようにベッドから立ち上がると、その剣を抜こうとするリディアさんの手を握って言う。


「お、落ち着いてくださいリディアさん、こんなところでリディアさんが剣を振ったりしたら、宿が大変なことになってしまいます」

「ですが────っ、リ、リアムさんが、私の手を……」


 自らの手元を見て何かを小さく呟いたリディアさんに対して、僕は続けて言う。


「怒ってしまっているならそうしたくなってしまう気持ちが湧くのも当然かもしれないですけど……ここは一度、剣を収めませんか?」


 僕がそう言うと、いつの間にかリディアさんは怒った様子は無く、落ち着いた……というか、どこかさっきまでとは違う意味で緊張感のある表情で言った。


「……リアムさんがそう仰るのであれば、わかりました」


 そう言うと、リディアさんは剣を抜こうとする手の力を弱めてくれたため、僕はリディアさんの手から自らの手を離した。


「メリアさんは、僕たちの後を追って来たということは僕たちに何か用事があるということなんですか?」

「流石リアムくん!話が早くて助かるよ〜!」


 そう言った後────メリアさんは、初めて見る真剣な表情で言った。


「実は……このエルフの国のことで、どうしてもリアムくんに協力してほしい事があるの」

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