第12話 リアム、頭を撫でられる

「リアムさんに色目を使うなど……恥を知りなさい!この不届者!」

「いきなり何〜?私は、ただその子の……リアムくんの魔力を測るなら、そんな安物のじゃなくてもっとちゃんとしたやつじゃないとリアムくんの魔力を感知することもできないよって教えてあげただけだよ?」

「あなたのような軽薄極まり無い方がリアムさんの名前を呼ぶなど────」


 そう言ってさらにまた一歩赤髪のエルフの女性に近づいて剣を構えたリディアさんに対して、僕はそんなリディアさんのことを宥めるように言う。


「リ、リディアさん、そのエルフの女性の反応からして、おそらくその人が転移魔法陣の時に聞いたSランク冒険者としても活躍しているという大魔法使い様だと思うので、今は事を荒げずに落ち着いて話をしませんか?」

「このような方とお話などできるはずがありません」

「ですけど────」


 僕が、それでもこの場では落ち着いて話したほうが良いと思います、と主張しようとしたところで、この魔法学校に居たエルフの女性が赤髪のエルフの女性の方に近付いて慌てた様子で言った。


「だ、大魔法使い様!そちらの男性があの転移魔法陣を1秒で治した、というのは一体どういう意味なのでしょうか……?」

「そのままの意味だよ、私も直接その場面を見たわけじゃ無いけど、そこに居るリアムくんが輝きを失った転移魔法陣を1秒で治したって話をそこに居た人に聞いたんだよね……そんなとんでもない魔力を持ってる子を、そんな安物の魔力測定器で測れると思う?ううん、答えなくてもいいよ、どう考えたって無理だからね」

「なるほど……確かに、今大魔法使い様が仰られた通りなのであれば、この測定器ではこの方の魔力を感知することは難しいと思われます」

「そういうこと」


 赤髪のエルフの女性は、そう話を締めると次に僕に近付こうとしてきた。

 けど、その赤髪のエルフの女性と僕の間に割って入るように、リディアさんがその赤髪のエルフの女性と向き合った。


「私が話したいのは君じゃなくて、君の奥に居るリアムくんだから、ちょっとどいてもらっても良いかな?」

「リアムさんとあなたのような存在が言葉を交わすことなど、このリディア・アストリアがリアムさんのお傍に居る限り許すはずがないでしょう」


 一触即発な雰囲気を醸し出している二人に、僕はこのままでは危ういと感じすぐに二人の前まで移動して言う。


「だ、大魔法使い様が僕に用事があるというなら聞きます……リディアさんも、どうにか一度で良いので落ち着いてもらうことはできませんか?」


 もしこれでダメだったらどうしよう、という不安を感じながら僕がリディアさんに向けてそう言うと、リディアさんは少し間を開けてから剣を鞘に納めて言った。


「リアムさんにそのようなお顔でお願いされてしまっては、断れるはずもありませんね……わかりました、私はひとまず話を見守らせていただくことと致します」

「ありがとうございます、リディアさん!」


 リディアさんにお礼を言うと、今度は赤髪のエルフの女性が僕に向けて口を開いて言った。


「色々と言いたいことはあるんだけど、どうしてリアムくんみたいなすごい魔力を持ってる子がわざわざ魔法学校に来てるの?」

「え?す、すごい、かはわからないですけど、魔法学校に来てるのは短期間で魔法を学ばせてもらいたいと思ったからです」

「魔法学校で学べるぐらいのレベルのことだったら、今のリアムくんでも簡単にできてるんじゃないかな?」


 僕はとても過大評価を受けていることに驚きながら、首を横に振って言う。


「そ、そんなことないです!僕なんて、リディアさんや大魔法使い様に比べたらまだまだです……その証拠に、つい先日Aランクパーティーから追放されてしまったばかりなので……」

「Aランクパーティーから……リアムくんが……?」


 そう困惑する赤髪のエルフの女性に、僕は言う。


「す、すみません!今はそのことは気にしなくて良いです!」


 その僕の言葉を聞いた赤髪のエルフの女性は、僕と視線を合わせるように前屈みになると、僕の頭を優しく撫でながら言った。


「強すぎる魔力を持って生まれるっていうのも考えものだよね……でも大丈夫だよ、私はちゃんとそのリアムくんの魔力の凄さを誰よりもわかってるからね」

「っ!あ、あの────」


 僕は頭を撫でられたことに恥ずかしさを覚えてしまい、その感情のままに口を開こうとした────その時、リディアさんは僕から赤髪のエルフの女性を引き離して言った。


「リアムさんの頭を撫でるなど、私とてまだ……もう我慢できません!」


 そう言った直後、リディアさんは赤髪のエルフの女性に向けて鞘から抜いた剣を向けて言った。


「あなたに、決闘を申し込みます!」

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