第8話 リディア、初めての感情を抱く

◆◇◆

 リディアが自らの意思表示をするために口を開いて言葉を発しようとしたが、その言葉を遮るようにリアムが慌てた様子で言う。


「ま、待ってください!リディアさんが何を言っているのか具体的にわかってるわけじゃ無いんですけど、別に僕はあの人に対して変な欲求……みたいなものを抱いたわけじゃ無いんです!」


 そのリアムの言葉を聞いたリディアは、リアムが赤の髪をしたエルフのことを見ていた時の記憶を脳裏に呼び起こすと、納得がいかないと感じて言う。


「でしたら、どうしてリアムさんはあの方のお体に視線を向けていたのですか?」

「そ、それは、その……」


 リアムは口籠る。

 ……だが、こんなことを聞いているリディアも、リアムが出会ったばかりの女性にそういった欲求を抱くはずがないということはよく理解している。

 それは、リアムの性格は元より、自らがドラゴンとの戦闘によって弱っている、そして自分よりも強いリアムが下着姿の自分のことを見ても何もしなかった、どころか意識を朦朧とさせるほどにそういったことには耐性が無いということを実際に見た経験談からだ。

 ────リアムさんは、私の下着姿を見て意識を朦朧とさせた時のように、今回の件もリアムさんが純粋が故に引き起こされたことなのでしょう……それはわかっているのです……わかっているのです……が。


「……」


 リアムが自分以外の女性のそういったところに見惚れていたこと、それがリディアの中ではどうしても引っかかってしまい、その感情をぶつけるために今リアムにこんなことを聞いてしまっている。

 そして、頭の中で同じことを考え続けていると、リディアの脳内に先ほどの自らの言葉が浮かんだ。


「私を助けてくださり、私よりも強き力を持つリアムさんに、そういったことが必要なのであれば、私は────」


 ────あのような言葉が自然と出てしまうなど……私はこの短い間で、それほどまでにリアムさんのことを……



◆◇◆

 長考の結果、今回のことは少なくともリディアさんのことを不快にさせてしまったという点では絶対に僕が悪いから、素直に謝ることにした。


「リディアさん……リディアさんのことを不快させてしまってすみません、今後はこういったことが無いように気を付け────」

「いえ、リアムさん……私は何も、今後リアムさんにそういった情動を無くしてほしいと言っているわけではありません」

「……え?」


 僕は、さっきのリディアさんの言葉と今のリディアさんの言葉に少し矛盾を感じて困惑の声を上げる。


「ただ、その向けどころを考えて欲しいと思っているのです……その情動を向けるべき相手は、間違っても街中で体を露出させている怪しげな者ではなく、リアムさんの身近でリアムさんのことを支えたいと思っている者────」


 リディアさんは、僕の左手を両手で握ると、頬を赤く染めて恥ずかしそうにしながらもどこか嬉しそうな表情で言った。


「つまり……今後は、私にそういった情動を向けていただきたいと考えているのです……リアムさんがお望みになるのであれば、いえ、そうでなくとも私はリアムさんに────」


 その後もリディアさんは話し続けていたみたいだけど、僕はそのリディアさんの表情や握られた両手、そしてさっきからずっと心拍数が上がっていることに加えて、このリディアさんからのお話を聞いて────意識を途絶えさせた。



◆◇◆

 顔を赤くして意識を途絶えさせたリアムのことを横にすると、リディアはそんなリアムのことを見ながら呟く。


「今まで騎士として、ひいてはSランク冒険者として生きてきましたが────男性にこのような感情を抱くのは初めてです……」


 そっとリアムの顔に手を添える。


「リアムさん、私はこれからあなたのことを様々なことでお支えすることをお約束いたします……あなたの供に見合う実力を付け、あなたの旅の手助けをし────そして……ふふ」


 続けて、リアムの顔に手を添えたまま頬を赤く染めて言った。


「そのような可愛い寝顔を見せつけられたとしても、責任から逃れることはできません……リアムさんには必ず、責任を取っていただきます────私の今まで芽生えたことすらなかった恋心を芽吹かせ、その恋心を奪い取ったこと、その責任を……リアムさん、これからも私が誰よりも近くで、あなたのことをお支え致します」


 優しい表情でそう告げると、それからしばらくの間、リディアはリアムの寝顔を見て過ごした。



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