第6話 リアム、リディアに感謝する
「あ……案内、ですか?」
「うん、案内……どの国もそうだと思うけど、エルフの国もやっぱり他の国とは少し勝手が違うから、君みたいな可愛い人間の男の子だけだと心配だなぁって」
目の前に居る赤髪のエルフさんは、少し微笑みながらそう言った。
僕よりも身長が高いから、僕のために視線を合わせてくれているんだろうけど、目の前に居る赤髪のエルフさんが前屈みになっていることで、赤髪のエルフさんの胸がとても強調されている。
ただでさえ際どい服、それも胸の大きい人が前屈みになったらそうなっちゃうのも仕方無いんだけど……それにしたって、刺激が強すぎるよ!
僕がそんなことを思っていると、その人は体を揺らすと同時に胸を揺らして言う。
「ねぇ、どう?人間の男の子だけだと、この国のエルフと何もトラブルを起こさずに生活していくのは結構難しいと思うし、その辺のことも私がたっぷり教え込んであげるから……ね?」
「あ、あの、僕一応もう一人────」
「リアムさんがトラブルになど巻き込まれぬよう、私が支えさせていただきますので、あなたの手助けは不要です」
僕の後ろからそんな声が聞こえてきたと思い、僕の背にある鍛冶屋の方を向くと────そこには、鎧を着たリディアさんの姿があった。
そして、そんなリディアさんはとても鋭い目つきで僕の目の前に居る赤髪のエルフの人を見据えていて、同じく僕の目の前に居る赤髪のエルフの人もリディアさんと目を合わせると言った。
「あれ、女の子連れなんだぁ、まぁ……そうだよね」
そう小さく呟いて僕の方を見ると、赤髪のエルフの人は僕たちに向けて手を振って言った。
「そういうことなら、私はお邪魔だろうし帰ろうかなぁ、また会うことがあったらその時はよろしくね〜」
そう言いながら赤髪のエルフの人がこの場を去ると────
「リアムさん」
「は、はい!」
リディアさんが、とても落ち着いた声音で僕の名前を呼んだため、僕は思わず少し慌てて返事をすると、リディアさんが僕と顔を向かい合わせて言った。
「ああいった体を露出させた怪しげな女性に話しかけられても、今後はしっかりと会話を途中で中断しないといけませんよ?」
「それは、その……はい……で、でも、あの人はエルフの国を案内してくれるって言ってくれて────」
僕が会話を中断できなかった理由を伝えようとした時、リディアさんはさらに僕と顔の距離を縮めて言った。
「仮に案内が必要だとしても、その時は本職として案内という職に就いている方のところへ赴きその方にお頼みすれば良いのです、間違ってもあのような怪しげな女性にお願いするようなことではありません」
「……ごめんなさい」
僕がリディアさんの言葉を聞いて素直に謝罪すると、リディアさんは少しだけ目を見開いて慌てた様子で両手を振ると言った。
「そ、そのように深刻に捉えなくてもよろしいのですよ?リアムさんはまだ16歳で、こういった細かいことはわからなくても当然なのですから……1つしか年は変わりませんが、それでも私がリアムさんのことを今後もお支え致します」
「リディアさん……!本当に、ありがとうございます!もし僕一人だけだったらたくさん不安になるようなこともあったと思いますけど、リディアさんのおかげで今後の不安がほとんど無くなりました!」
僕は、そう伝えてリディアさんに頭を下げた。
「あ、頭をお上げくださいリアムさん、私はそう仰っていただけるだけで十分ですから────」
その後、僕はしばらくの間リディアさんに感謝を伝えた。
◆◇◆
リアムに感謝を伝え続けられたリディアは、リアムと一緒に今日泊まる宿を探すべくエルフの国の街を歩いていた。
そして、隣に歩くリアムのことを横目に見て思う。
────リアムさんは、強大な力を有してはいますが、その実は素直で優しく思いやりのある年下の男性……リアムさんが私のことを助けてくださったように、私もリアムさんの助けにならなくては。
だが、リディアの脳裏には先ほどから引っかかっていたこともあった。
それは────リアムが、あの赤髪のエルフの女性の体に見惚れていたように見えたことだ。
「……」
どうして自らがこのようなことに引っかかるのか、それはリアムより1つ年上とは言っても、リディアはまだ17歳の少女であり、このような感情を覚えるのは初めてだったため詳しくはわからない。
今抱いている感情が嫉妬なのか、焦燥感なのか、それすらもわからない。
それでも────リディアは、今脳裏で引っかかっていることをどうしてもリアムに確認したかったため、宿を見つけた後でそのことをリアムに確認することにした。
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