第5話 リアム、エルフの国に入国する

◆◇◆

 リディアさんと馬車に乗り始めてからしばらくした頃。

 いよいよ、エルフの国が見えてきた。

 エルフの国は、その大半が魔法によって成長した植物でできており、その建物には他の国には無い独特な活力のようなものを感じる。


「リアムさんは、エルフの国でどのような修行をなされるのですか?」

「短期間で魔法を学べる場所があるらしいので、そこで自らの魔法力を顧みて修行をしたいと思っています」


 エルフといえば、他の種族よりも一つ抜けて魔法の扱いが得意とされている国のため、きっと今の僕なんかでは知らない魔法もたくさんあるはずだ。


「なるほど……私は今まで剣術を主とする騎士の家系に生まれ、魔法はあくまでも剣の補助という形でしか扱って来ませんでしたので、私にとってもこの地でのリアムさんとの修行はとても良い修行になるかもしれません」

「わからないことがあっても、二人で助け合って頑張りましょう!」

「はい、リアムさん!」


 僕たちがエルフの国に入国するにあたっての気持ちを互いに話し合うと、馬車がエルフの国に入国しようとした時、エルフの人と思われる門番の男の人が馬車の中に居る僕たちに話しかけてきた。


「どちらかの方のみで構いませんので、お名前とご身分の方をお教えいただいてもよろしいですか?」


 一応この旅は、リディアさんが僕の修行に付き合ってくれているという形のため、ここは僕が伝えようと思ったけど、リディアさんはそんな僕のことを手で静止する。

 そして、次に剣の柄の部分にある家紋と思しき紋章を見せながら言った。


「私は騎士の家系であるアストリア家に生まれたリディア・アストリアと言います」

「ア、アストリアさん……!?それも、リディア様と言えばSランク冒険者の方……ですよね?」

「はい」


 リディアさんは、声を揺るがすことなく堂々とそう答えた。

 すると、エルフの人が言う。


「どうぞ、この先へお進みください……エルフの国を存分にお楽しみいただけることを、心より祈っております」


 その言葉を背中に馬車が進むと、入国してすぐに馬車が止まったので、僕とリディアさんは馬車から降りた……それにしても。


「リアムさん?どうかなされましたか?」


 首を傾げて僕の方を見ているリディアさんに対して思う────やっぱり、リディアさんはすごい人なんだ!

 Sランク冒険者の人と聞いていたからそんなことはわかっていたけど、なんていうか……


「あの……Aランクパーティーからすら追放されてしまった僕なんかが、リディアさんのお隣に居ても良いんでしょうか?」


 僕が不安を抱きながらそう聞くと、リディアさんは僕の左手を両手で握って優しい表情で言った。


「もちろんです、むしろ今更私から離れるなどと言われても、そうなった時は私の方が怒りますから絶対にそのようなことはしてはいけませんよ?」

「わ、わかりました!」


 リディアさんは怒ると怖そうだから、絶対に怒らせないようにしよう……

 僕が頷いてそう返事をすると、リディアさんは満足したように僕の左手からリディアさんの両手を離した。


「大体、リアムさんは自らのお力を────」

「あ!見てください、リディアさん!あっちの方に鍛冶屋さんがありますよ!」


 鍛冶屋さんらしき建物を発見した僕は、その方向を指差す。


「本当ですね……」

「行ってみましょう!」

「はい!」


 そして、僕とリディアさんが一緒にその鍛冶屋さんの中に入ると、そこには綺麗な女性のエルフの方が店主の人として一人立っていた……お客さんは、僕たち以外には、他に誰も居ないようだ。


「いらっしゃいませ!本日はどのようなご用件ですか?」

「私の鎧を治してもらいたい」

「なるほど……」


 そう言うと、店主さんはリディアさんの鎧をジッと見つめて────少ししてから言った。


「こちらでしたらすぐに治せますので、問題ありません……では、鎧をお脱ぎいただいてもよろしいでしょうか?」

「っ!」


 店主のさんがそう言うと、リディアさんは頬を赤く染めて僕の方を見てきた。

 ────そうだ、リディアさんは鎧の下は下着しか着てないんだった!


「ぼ、僕は外で待ってるので、終わったら呼んでください!」


 そう言って逃げるように鍛冶屋さんから出ると、僕は静かにリディアさんが出てくるのを待つことにした。

 それから数分後────リディアさん、ではなくかなり際どい服を着た綺麗な赤の髪をしているエルフの人が話しかけてきた。


「あら、可愛い人間の男の子……エルフの国は初めて?」

「え!?えっと……はい」

「そっかぁ……良かったら、私が君にこの国を案内してあげよっか?」


 僕よりも高身長なそのエルフの人が、僕に視線を合わせるように前屈みになって突然そんな提案をして来たことに、僕は困惑と驚愕を隠すことができなかった。

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