第2話 パリオリンピック開会式
「どーも、カタリィ・ノヴェルです! ぼくのことは気軽にカタリと読んで――いや、呼んでくださいね!」
「どーも、リンドバーグです! わたしのことは可愛らしくバーグちゃんと呼んでね!」
「せーの、二人あわせて『カクヨム』です!」
「せーの、二人あわせて『カクヨム』です!」
「バーグちゃん、遂にパリオリンピックが開幕したよね!」
「そうだね、カタリくん! これからしばらくの間は、興奮の毎日が続きそうだね!」
「それじゃ、今回は開会式の流れを順番に振り返っていこうか! まずは各国の選手団が船でセーヌ川を進んでいったんだけど、船首部に立って、両手を広げて、タイタニックのポーズをする選手が何人もいたから、思わず笑っちゃったよね!」
「そんな不謹慎な選手、ひとりもいなかったでしょ!」
「今回は参加国が多かったから、船の数も多かったよね!」
「たしかにいろんな種類の船での入場だったね」
「だけど、参加人数がひとりの国の選手はかわいそうだったよ」
「えっ、どうして?」
「だって、ひとりでスワンボートを足で漕いでの入場だったから、見ていてすごく不憫だったよ!」
「そんなボートなかったから! だいたい6キロ先の開会式の会場までスワンボートを漕いでいくなんて、もはや罰ゲームもいいところでしょうが!」
「船での選手入場と同時に始まったのが、聖火を運ぶ映像シーンだったよね。最初に出てきた聖火を持った登場人物がオリンピックの会場を間違えてしまうというアクシデントがあって、そこに怒ったジダンが登場すると、ジダンは相手に頭突きをかまして、聖火を奪っていったんだよね!」
「ジダンがワールドカップで起こした頭突きシーンは、みんなもう忘れているから!」
「でも結局、ジダンが手にしていた聖火は、謎の覆面姿の人物の手に渡っちゃったから、これも自業自得かもしれないね!」
「謎の覆面姿の人物も演出のうちだからね!」
「一方、選手が船でセーヌ川を進んでいく入場シーンでは、様々な演出があったよね!」
「うん、今回は開会式の会場まで6キロもあるから、いろんな演出が見られたよね!」
「中でも目を引いたのが、パリの老舗キャバレー『ムーラン・ルージュ』の『フレンチカンカン』のダンスシーンだよね!」
「たしかにピンク色の衣装が目にも鮮やかだったね!」
「でも、そのダンスの最中に、スカートをまくり上げるフレンチな、いやハレンチな振り付けがあったから、道徳的にどうなのかなって思ったけどね!」
「そういう振り付けのダンスだから、しょうがないでしょ!」
「覆面姿の聖火ランナーも現実の世界でいろいろな演出があったよね! 中でも驚いたのが、アーアアーって大声を上げながら、ジップラインでセーヌ川の上を渡ったところだよね!」
「ターザンじゃないんだから、そんな雄たけびはあげてないでしょ!」
「次に覆面姿の聖火ランナーが移動したのが、ノートルダム大聖堂だったんだよね! でも、まさかノートルダム大聖堂に移動するとはびっくりしたよね!」
「えっ、どうして? ノートルダム大聖堂はパリの有名な建造物でしょ?」
「だって、聖火でまたノートルダム大聖堂に火を付ける演出なのかなって思っちゃったからね!」
「間違っても、そんな演出するわけないでしょ!」
「それから映像シーンでは『ルイヴィトン』のバッグを作るところが映し出されたんだけど、そこはさすが天下のNHKだよね。商品名やブランド名は公共放送では言えないから、とっさに『VとLのマークで有名なあの高級バッグです! セレブがドヤ顔で持っているあのバッグです!』って誤魔化して実況したんだよね!」
「なんか言い方にトゲがあるから!」
「セーヌ川の入場シーンに話を戻すと、次にオペラ座のバレエ団が市庁舎の屋上で踊っているところが映されたんだけど、画面の下にはしっかりと『お子様は危険なので、絶対に真似しないでください』って字幕が出ていたよね!」
「そんな字幕が表示されたら、興ざめもいいところでしょうが! 四年に一度のオリンピックなんだから、それくらいの危険な演出は許してあげようよ!」
「そして世界中の人々がびっくりしたのが、マリー・アントワネットが出てきた場面だよね!」
「そうだね。なにせマリー・アントワネットは処刑された歴史上の人物だからね」
「演出も過激だったよね。血しぶきを上げながらマリー・アントワネットの頭部がギロチンで切断されるシーンを表現したんだからね!」
「そこまでスプラッターな演出はなかったでしょ! そんな演出をしたら、テレビの前の子供たちがみんな泣いて、トラウマになっちゃうから!」
「次に映像シーンでは、国立図書館で愛についての本を読む3人の若者の映像に変わったんだよね!」
「これも多様性を表現している感じだったね」
「あの三人はその後、ドロドロの三角関係に落ちていくわけだけど、まあ、それもひとつの愛の形ではあるよね!」
「平和なオリンピックの開会式で、そんな愛憎劇は見たくないから!」
「ここでも『お子様はこういう恋愛は絶対に真似しないでください』って字幕が入っていたよね」
「そんな字幕なかったでしょ!」
「覆面姿の聖火ランナーが次に向かったのが、ルーブル美辞術館だったよね。ここでは名画に描かれた登場人物が、外の世界に飛び出してきたんだよね!」
「きっと名画の登場人物もオリンピックを間近で見たかったんだろうね!」
「だからというわけじゃないけど、オリンピック期間中にルーブル美術館に行っても、中身が空になった絵画しか見られないから、観光客にとっては残念なことだよね!」
「本当に絵画の中から飛び出してきたわけないでしょ!」
「映像シーンの中には、子供たちが喜ぶ演出があったよね! それがミニオンが登場したところなんだけど」
「ミニオンがパリ生まれという設定だから、登場したみたいだね」
「そんなミニオンの登場に、テレビの前で歯軋りをして、地団駄を踏みながら悔しがっていたのが、ミッキーマウスなんだよね!」
「そういうブラックな笑いはいらないから!」
「ミニオンが開会式に出ているのに、なんで自分は出られないのか憤慨して、次のオリンピック開催地の大会組織委員会にすぐに電話して、直談判をしたみたいだよ!」
「ミッキーマウスはそういうキャラ設定じゃないから!」
「偶然にも次のオリンピック開催地はミッキーマウスの生まれ故郷でもあるアメリカなんだけど、ミッキーは『ボクを開会式に出さないと、ディズニーランドへの出演を拒否するけどいいのかな?』って相談を持ちかけたみたいだよ!」
「それは相談というよりも、むしろ脅しだからね! ていうか、どんだけミッキーマウスは開会式に出たがっているの!」
「さらに『ディズニーグループが豊富な資金を持っているのは知っているよね? ここは腹を割って、大人の話し合いをしようじゃないか』って言ったらしいよ!」
「もはやミッキーマウスのミの字も感じられないから! 高級料亭で悪巧みの話をしている悪徳政治家でしかないから!」
「話をまた開会式に戻すと、なぜか橋の上で仮装行列も行われたんだよね!」
「カタリくんの目には仮装行列に見えたかもしれないけど、あれは橋の上をランウェイに見立てた、れっきとしたファッションショーだからね!」
「ここでの演出もいろいろ物議を醸したよね。だって、まさか映画アバターのキャラクターが登場するなんて思いもしなかったからね!」
「あの体を青くペイントした人はアバターじゃないから!」
「考えてもみれば、たしかに多様性と言う意味で言うと、宇宙人の参加も多様性に通じているよね!」
「だから、あの人は宇宙人じゃなくて地球人なの! フランスではチョー有名な芸能人なんだからね!」
「全裸に青のペイントだけをしているからすごく不安だったんだけど、最後にちゃんと『安心してください。はいてますよ!』って言ってくれたから良かったよ!」
「それ、とにかく明るい安村さんのネタでしょうが!」
「それから開会式会場に到着した聖火は、次に歴代のアスリートたちに手渡されたわけだけど、カール・ルイスは聖火をリレーのバトンと間違えて、いきなり走り出しちゃったから、びっくりしちゃったよ! きっとまだ現役の頃のクセが抜けきれないんだね!」
「そんなことしてないでしょ!」
「カール・ルイスの動きを見て、セリーナ・ウィリアムズも負けずに聖火をテニスラケットみたいにブンブン振り回したんだよね!」
「もはや聖火を使った『物ボケ』になっちゃっているでしょうが!」
「結局、聖火は気球の形をした聖火台に点火されたわけだけど、まさか最後の最後に日本へのオマージュがあったなんて不思議だよね! 『風船おじさん』、懐かしいよね!」
「『風船おじさん』へのオマージュなわけないでしょ! あれはパリで世界初の有人気球飛行が成功したことへのオマージュなの!」
「そして開会式のクライマックスシーンが、エッフェル塔に登場したセリーヌ・ディオンだったんだけど、ここでもNHKの実況が慌てて『セリーヌというのはブランド名でも商品名でもありません! 人の名前です! 人の名前なので絶対にNHKに抗議の電話を入れないでください! NHKでは商品名は絶対に放送しませんので!』って、必死になって言い訳していたよね!」
「そんな間抜けなこと言ってないから! そんなこと言ったら、開会式の一番の盛り上がりシーンが台無しになっちゃうでしょうが!」
「そんなセリーヌ・ディオンが最後に両手を広げて、タイタニックのポーズを決めたところで、開会式は無事に終わったんだよね!」
「セリーヌ・ディオンはそんなことしてないから! たしかにセリーヌ・ディオンはタイタニックの主題歌を歌っていたけど!」
「つまり今回の開会式はタイタニックで始まり、タイタニックで終わったということだよね!」
「そういう感想を持ったのは、世界でもカタリくんひとりだけだからね! ていうか、カタリくんがタイタニック、タイタニックって何度も言うから、開会式のイメージがタイタニック一色になっちゃったじゃん!」
「とにかく、いろいろ詰め込まれた開会式だったけど、あの鉄の馬に乗った甲冑姿の人物と、あの覆面姿の聖火ランナーはいったい何者だったんだろうね?」
「たしかに最後まで分からず終いだったからね」
「ぼくの考えでは、あの甲冑姿の人物は、馬を鞭で叩いて、オリンピックを辞退することになったイギリスの馬術選手だと思っているんだけどね!」
「そんなニュースもあったけど、みんな、すっかり忘れているから! 覚えているのは、カタリくんぐらいだから!」
「それから覆面姿の聖火ランナーの正体だけど――」
「えっ、まさかカタリくん、あの覆面姿の聖火ランナーの正体も考えたの?」
「うん、考えてみたよ! あの運動が得意そうなアクロバティックな動きといい、敏捷な身のこなし方といい、そして最後まで覆面姿で顔を見せなかった点を合わせて考えると、あるひとりの人物が思い当たるんだよね!」
「それって誰なの、カタリくん?」
「あれはオリンピック直前に出場を辞退することになった、体操女子の――」
「カタリくん、それ以上、言わないで! もうそれは終わったことなんだから!」
「とにもかくにも開会式も無事に終わって、競技が始まったよね! 選手の皆さんには怪我に注意して、頑張ってもらいたいよね!」
「うん、そうだね。わたしたちもしっかり応援しないとね!」
「それではこのへんで今回の漫才は終わりにしたいと思います。どーも、ありがとうございました!」
「どーも、ありがとうございました!」
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