最終話 影

 「あれまーずいぶん汚れたねー」

「後で洗濯を頼む」

 ヘブンズフィールに戻ったダンは自室に戻った。汚れた衣服を無造作に脱ぎ捨て、寝間着に着替える。ドアをノックする音が聞こえ、クローデルが入ってきた。手には盆を持っている。

「…………今回のはきつかったみたいだね」

「まあな」

「ほら。酒と水と、好きな肉の揚げ物だよ」

「すまん」

 クローデルは一人掛け用の円卓に食事を置くと、投げ捨てられた衣服を抱えて部屋を出て行った。

「まさかこんな」

 服は土で汚れ、見たこともない色をした染みが点在していた。袖の一部が歪な形の切り口を残して、綺麗に消え去っている。このような有様は今まで見たことがない。命の危険に晒されていたのではと思い、無事に帰ってきてくれたことに胸を撫でおろす。ダンは仕事の話をしない。どこでなにをしてきたのかは、後日礼を言いにきた依頼者が教えてくれる。だがその依頼者も、ダンに口止めをされているのか多くを語らない。ただ簡単に「彼は凄い人だ。剣の達人だ」と言う。それだけでは情報が足りなかったが、ダンが望まない以上、むやみに詮索することはなかった。

「うめえ~!」

 ドアの向こう側からダンの嬌声が聞こえてくる。好物に手をつけはじめたのだろう。ダンは仕事から帰ってくると、決まって一人で過ごす。いつの頃からか、酒と肉料理を所望するようになった。クローデルは彼の要望に応えた。この食事については代金を取るつもりはなかった。

「ゆくっり休みな」

 そう呟き、クローデルは階下に降りていった。


 一通り食事を終えたダンはすぐさまベッドに横たわった。オリヴィアがここに訪ねてきてから、まだ一週間と経っていないはずだが、柔らかな弾力の感触は妙に懐かしかった。

 カーテンを閉めると部屋は暗闇に包まれる。見えない天井へ視線を向け、睡魔が意識を夢へ誘うのを待っていた。ぼんやりと眺めていると、宵闇の森を思い出す。今頃オリヴィアたちはどうしているだろうか。徐々にまどろんでいく意識の中で、ダンは魔物を殺した後の出来事を思い返した。


 オリヴィアはダンの胸でしばらく泣き声をあげていた。それを止める者は誰もおらず、彼女の思いをエルフたちみなで共有しているようだった。魔物の死体はその間に、溶けて消え去っていた。

「ごめんなさい…………服を汚しちゃいました」

「気にすることはない」

 ダンの胸元はオリヴィアの涙や鼻水で濡れていた。魔物のものならごめんこうむるところだが、美女の涙は尊い。服も喜んでいるだろうと思った。

「オリヴィア、人間族のダン、ようやってくれた」

 グレナダが二人に歩み寄り、労りの言葉をかけた。

「族長様も、ご無事でなによりです」

 とオリヴィア。

「ああ。…………また老人が生き残ってしまったよ」

 グレナダの視線は、自分を守るために犠牲となったエルフたちが立っていた場所に注がれている。そこには、地面に忌々しい染みがあるだけだった。

「人間族のダン、人間族は仲間を葬る際、土葬ではなく火葬すると聞いている」

「ああ」

「…………今日散っていった者たちも同じように葬ってくれんかえ?」

「いいのか?」

 ゆっくりとグレナダは頷く。ダンはオリヴィアに視線を向ける。彼女も小さく頷いた。

「分かった」

 その夜、エンチャントリアでは盛大な火葬が行われた。草木に燃え移らないよう、火は魔術で制御されていたが、煌々と輝く火柱は散華した者たちの遺体を激しく包み込み、浄化するように燃やしていた。無残に切り裂かれた肉塊は、骨になり、鎮火する頃には美しい灰となっていた。オリヴィアが魔術を唱え、一陣の風を巻き起こす。遺灰は風に乗って空高く舞い上がり、エンチャントリアの森に降り注いだ。吸光虫の光で、細かい粒が反射し、煌めていく。

 翌日、エルフたちは再びエンチャントリアの復興作業をはじめた。宵闇の森に隠れていた者たちも連れ戻し、本格的に故郷の再建を図った。それと同時に、現族長であるグレナダから、その座をオリヴィアに継がせると公表があった。異を唱える者はいなかった。オリヴィアの働きと活躍を考慮すれば、当然だと考えたからだった。

 作業は順調に進み、エンチャントリアは平穏を取り戻した。だが毒に侵され焼却を余儀なくされた草木は無数にあり、完全な回復には数百年の時間が必要とのことだった。

 それでもエンチャントリアに平和が戻ったのだ。

 作業を終えたダンはエンチャントリアを後にした。愛馬が待つ厩に戻ってきたダンとオリヴィアは、そこで一旦別れた。後日マルキスの墓参りをする算段を取り付けた。

 

「そ、そうだ…………」

 ダンは、師匠のかつての家がどこにあるのか、明確に覚えていたわけではなかった。連れて行くと大見得を切ってしまった以上、約束は守らなければならない。睡魔を退け、過去の記憶を掘り起こす。しかし酒を飲み、へべれけの状態ではうまくいくはずもない。記憶はとりとめのない断片が合わさり、混沌とした意味不明の映像が出来上がる。頭を振り払拭するが、その行為で更に酔いが回る。新しく浮かび上がってきた映像も、打ち消したものと同じ意味のない落書きのようだった。

「…………」

 諦めよう。今日のところは諦めよう。大丈夫、オリヴィアはまだエンチャントリアで仕事をこなさなくてはならない。数日の猶予がある。その間に思い出していればいい。

 自分を強くそう納得させると、そばで待ち構えていたかのように睡魔が再び襲い掛かってきた。ダンは拒むことなく、心地よい眠りに身を任せた。

 翌日からダンの生活はいつもの自堕落なものに戻ってしまった。目を覚ますのは昼過ぎで、起きてもクローデルの店を手伝うでもなく、畑仕事に精を出すでもなく、村中を散歩しては顔見知りと他愛のない世間話に興じる。百姓連中のそばを通りかかった時、彼らは農具を放り出してダンに群がってきた。

「で、今回のはどんくらいすごかったよ?」

「おれ、みたことあるぞ!ぼん、きゅ、ぼんのエルフだろう?え!?」

「で、で?お前さんの望みは叶えてもらったのか?ごく潰しのダンさんよ?」

 ダンが仕事で美女と村を離れていたことは、既に周知の事実となっていた。歳をとってもまだお盛んな百姓たちは、ダンから土産話を聞こうと必死だった。もちろん彼らの関心はダンや、彼が殺した魔物や、エンチャントリアにはない。名も知らぬエルフの美女の話が聞きたいのだ。

「そんなことねえよ。仕事しろよ仕事」

 ダンはハエを払うように手を振る。飢えた男どもから開放されたかったのだが、その願いは叶わなかった。

「け!たまにしか働かんくせになにが『仕事しろよ』だ。おれたちは毎日真面目にやってんだぜ?」

「そうだそうだ!いいじゃねえか少しくらい。減るもんじゃあるめえしよ~」

「だめだ。個人情報だからな」

 道をふさいでいる数人をどかせ、ダンはその場から歩み去った。

「んだよけち!」

「でえじょうぶだ。どうせ今日もクローデルんとこいるべ。そこで聞きゃあいい」

「それもそうだな」

 男たちはヘブンズフィールで落ち合うことを決め、それぞれの畑に戻っていった。

「あ~あ」

「なによ」

 ヘブンズフィールに戻ったダンは、カウンターに腰掛け気だるそうに生あくびをする。足を乗せようとするが、クローデルに見とがめられた。

「平和なもんだな~ここは」

 窓からの景色を眺めながらぼんやりと呟く。ここからはるか東には、エルフ族の故郷であるエンチャントリアという森があり、つい何日か前までは、そこでエルフ族と共に未知の魔物と命のやり取りをしていたことなど信じられなかった。まるで別世界の出来事だった。本当にオリンシアという大陸に存在したのだろうか。もしかすると、宵闇の森と同じように、ある地点から魔法がかけられて、通常の空間と隔絶している世界に行ったのではないか。そうかもしれない。その方が現実のこととして納得できる。そうでなければ、俺を夢でも見ていたんだろうか。

「あ、そうそう。あんたのあの服、直しといたよ」

「なに?」

「ほれ」

 クローデルの声でダンは現実の世界に引き戻された。目の前に汚れ一つない外套が置かれる。窓から射し込む陽光を受けたその姿は、新品同様に見えた。魔物の体液は綺麗に取り払われており、毒がかかってやむを得なく切り捨てた袖は、目立たないように縫合してあった。

「新品みたいでいいだろう?」

 クローデルが得意気に言う。

「あ、ああ。…………ありがとう」

「まあ、今回はかなり大変だったみたいだし。でもツケとくからちゃんと返すんだよ」

「はぁ!?」

「ははは!冗談さ。じょーだん」

 クローデルはダンの反応を面白がっていた。今まで仕事から帰ってきたダンと、このようなやり取りをしたことはあまりなかった。いつもなら「仕事を手伝わないなら出て行け!」と夜まで放りだしているところだ。だが今回はそんなことをしたくなかった。ダンがいる。生きて、目の前に座り、いつものように自堕落でいる。その姿を眺めていたかった。

「まったく。そういや、オリヴィアからもらった金貨で俺のツケは全部返せるよな?」

「さあねえ~。まだちゃんと見てないから」

「おいおいそれこそ冗談だろう」

「どうだかねえ~」

「はあ……」

 途中口笛を交えながらクローデルはダンとの会話を楽しんだ。ダンも彼女との会話を楽しんでいるようだった。その素振りこそ見せないが、話し方や目線でそれが分かる。

 こんな日がずっと続くと良い。

 口には出したことのない、彼女の切実な願いだった。

 夜になるとヘブンズフィールは多くの客で盛り上がっていた。店内は笑い声や矯正、怒号で溢れかえり喧噪という言葉を体現していた。

 ダンたちは、カウンターに近い円卓を囲んでいた。顔ぶれはいつもとまったく変わらないが、それはそれで楽しめる。

「だっははははは!!」

 飲み始めて一時間も経たない内にダンは出来上がっていた。百姓連中に囲まれ陽気な笑い声をあげている。

「おいそろそろいいじゃねえかよ」

「なにがさ?」

「今回の仕事…………いやべっぴんエルフさんのこと話してくれよ」

「断る」

 ヘロヘロになりながらも仕事に関する話は一切しようとしない。

「頼むよ~おれの嫁さんと良いことさせてやるからよ~」

「馬鹿野郎!他人の女とそんなのできるかよ!そんなこと言ってると、またぶっ飛ばされるぞ」

「な!え!そんなことねえよ!」

「いいやあるべ!!お前、まえも若いのに言い寄ってるのばれてボコボコにされてたべ!」

 と別の男が茶々を入れる。

「そういえばそうだったな!で、その後奥さんとはどうなんだ?俺はそっちを知りたいね!」

「勘弁してくれよ~。…………最近ようやっと口きいてくれるようになっただ。飯も作ってくれるようになったし、だけどおらあいつの言いなりよ…………!助けてくれよ~ダン~」

「いいやお断りだね!自業自得。そうだろ?みんな」

「んだんだ」

「ちがいねえ」

 会話を聞きながら酒をあおっていた仲間たちが異口同音に言う。

「はいお待ちどう」

 クローデルが追加の酒とつまみを運んできた。

「きたきた!…………ん~!この一杯のために働いているなあ」

 男たちは芳醇な香りのする冷えた液体を、熱気にまみれた体へ流し込んでいく。酒は清涼剤となり、彼らに高揚感と幸福感をもたらした。

「クローデルよ、このごく潰しからなにか仕事のこと聞いてねえかぁ?ぜんぜん話してくれんだよ」

「んだんだ。聞いてたら教えてくれよ~いっぱい注文するから」

「残念ながらなにも聞いちゃいないよ」

「ほんとけ~?なにか聞いとるじゃろ?」

「聞いてない聞いてない。ね、ダン」

 ダンはぐでんぐでんになっており、視線はおぼろげで、誰に話しかけられのかもわかっていなさそうだったが、固く頷いた。

「まあ諦めるんだね。またこいつに仕事を頼みに来る人が見えるまでさ」

「ちぇ、んだよたまには話してくれてもいいのによ~」

「そんだけ義理堅いってことじゃねのか?おらはそう思うべ」

「なんだぁ?おめえもさっきまで聞き出そうとしてたくせに」

「やんのかこの」

「まあまああんたら落ち着いて」

 男たちは席を立ちかけたが、クローデルがなだめたおかげで爆発することなく終わった。

「そういやよクローデル、おめえもそろそろいい歳だべ?」

 別の男が口を開く。

「さあてね。どうだろうね」

 クローデルは今年で二〇歳になっていた。男の言う通り、"いい歳"だった。

「おめえ貰い手はおるんか?」

「はぁ?なにいきなり」

「おめえもべっぴんだし気立てもいいし、貰い手なんてすぐ見つかると思うがねえ…………おらんところのせがれはどうかね?」

「あんたんとこの?…………待ってよ、あのチビのこと言ってんの?まだ鼻たれ小僧じゃないか!お断りだよ」

「がはははは!冗談冗談」

「だめだめ!このじゃじゃ馬には心に決めた男がいるのよ!」

「んだんだ!」

 クローデルに喧嘩を止められた二人が仕返しと言わんばかりに茶化してくる。

「そ、そんな人いないよ!なに言ってんだい!」

 クローデルは図星を指された思いだった。頬が紅潮していっているのが自分でも分る。気づかれまいと、火照りを抑えようとするが、その意識が彼女の羞恥心を更に刺激して、まったく改善されなかった。

「あ!赤くなっとる!やっぱいるんだな!え?」

「誰だ?だれだれ?」

「んなもん決まっとろうが!」

 男たちは視線を合わせにやりと笑う。そして先ほどから一言も喋らず、静かにつまみを食べている黒い礼服をまとった男を凝視した。

「あ?」

 ダンはとぼけた顔をして男たちとクローデルを交互に見た。話をまるで聞いていなかったようだ。

「おいダンさんよ」

 奇妙な笑みを浮かべたまま男がダンの肩に手を回す。

「なんだ?」

「おめえさ、このじゃじゃ馬娘のこと、クローデルのことをどう思ってるよ?え?」

「どうって」

 ダンは目の前に立っている女性をまじまじと見た。ポニーテールに束ねられた濃い青色をした髪。左目に重なるように前髪が垂れている。髪の向こう側から紺色の瞳が見え隠れしていた。一方右目ははっきりと見え、同じく深い色を持った瞳だった。鼻梁は女性らしく控えめで、一文字に結ばれた唇は桃色をしていた。頬が染まっているのは気のせいだろうか。体つきも申し分ない。よく発育しているし、見ただけで頑健さが分かる。遠い昔、一度だけクローデルの裸を見てしまったことがあった。その時の光景が混濁した意識の中で浮かび上がる。

「な、なによ」

 ダンはクローデルを見上げたまま喋らない。焦らされている気分だ。早く答えて欲しい。

「まあ良いんじゃないか?」

「まあ良いって、どういうことだべ?」

「いや、だから、貰い手?だっけ。見つかるんじゃないか?」

 クローデルの体がわなわなと震えだす。顔を伏せ、手に持ったお盆を握りしめている。ぎりぎりと木の軋むような音が聞こえた。男たちは顔を見合わせ幻聴ではないかと疑ったが、現実の音だった。見るとお盆にひびが入り、今にも砕け散る様相を浮かべていた。

「お、おい…………」

「こりゃあかんべ…………」

「ど、どうした?みんな。……クローデル?なんでそんなに震えてるんだ?寒いのか?…………季節はまだ」

「馬鹿野郎が!」

 クローデルはダンの頭を、力を込めてお盆で叩く。その衝撃でお盆は砕け、木片が辺りに散らばった。

「なんだ?なんだ?」

 他の席で歓談していた客が、クローデルの声に驚き彼らの方を興味深そうに見ている。ヘブンズフィールの店内は、一瞬の内に静まり返った。

「い、いってえ」

「ふん!その鈍感な頭でよく考えるんだね!」

 クローデルはぷりぷりしながらキッチンに引っ込んでいった。

 見世物が終わったと分かると、客たちはまた自分たちの世間話に興を戻した。

「おめえほんとうにばかだなあ」

 ダンの肩に手を回していた男が面白おかしく言う。

「な、なんだよ。貰い手の話じゃなかったのか?」

「それはそうだが」

「いや駄目だべこりゃ。ばかは死なんと治らん言うしな。こいつはずっとこのままよ」

「ちがいね。だははははは!」

 ダンは話を完全に理解できないまま、その後も酒を飲み続けた。仲間連中が帰るまで、納得できないと言いたげな表情を浮かべていた。

 翌日、相変わらず正午近くまで寝て過ごし、ガンガン痛む頭を押さえながら起床する。クローデルに向かい酒を頼んでも断られ、非常に不愉快な一日となった。

 客がいない閑散としたカウンターに腰掛け、ひたすら水を飲んでいた。ダンは昨日のことをまるで覚えていなかった。素っ気ない態度をとるクローデルに昨日の出来事を聞いた。

「俺、昨日なんかしでかしたか?」

「…………」

 クローデルは答えない。きびきびとした動きで開店準備を整えていく。

「なあ」

「別に……ただ、あんたは一生かかっても理解できそうにないね」

「……?なにを?」

「さあね」

「なんだよそれ」

 こうも不可解な態度をとられ続けるのは、ダンにとっても好むところではなかった。コップに入った水を飲み干すと、黙ってヘブンズフィールから立ち去った。今も頭が痛む。外にでて、風に当たりたかった。あそこで鬱屈しているより、気分もマシになるだろうと思ってのことだった。

 今日の天気はどんよりとした雲が立ち込めていた。重々しい雰囲気で、湿ったにおいが鼻孔を突く。もう少しすると雨が降り出しそうだった。

 エンチャントリアでは雨は降るのだろうか。

 ふとそんなことを考える。エンチャントリアでは空はまったく見えなかった。族長だったグレナダの住居となっている大木をはじめ、そびえ立っている木々の枝葉が完全に空を覆ってしまっている。あそこでは昼夜の区別もつかない。係のエルフが吸光虫の光を消して、はじめて夜になったと分かる。雨水が、地面に降り注ぐ様子を想像できない。……新しく族長となったオリヴィアは、今頃どうしているだろう。他種族との外交関係を持とうと奔走しているのだろうか。

「オリヴィア。か」

 帽子のつばから微小な衝撃が伝わる。衝撃はしだいに連続的になり、ぽつぽつと音まで聞こえ始めた。雨水だった。鉛色をした空から、雨が降り出した。

「なんでおめえこんなところにつっ立っとるよ」

 ヘブンズフィールで共に飲んでいた百姓の男が道の向こうから走ってきた。荷車に農具を載せている。

「今日はもう終いか?」

「あたりめえよ。雨だからな。たぶんもっと降るぞ。そんな中で作業なんてできねえべ。服濡らしたらまたクローデルの姉ちゃんに怒られるぞ!」

「余計なお世話だよ」

「昨日今日だておめえ。あんまり世話かけるなよごく潰しのダン!」

 話している間に、雨足は強まり、天から降りかかる矢のように激しくなっていった。男は雨音に負けじと大声をだし、足早に家へと帰っていった。

 ダンはずぶ濡れになっていた。今から焦って帰っても遅い。またクローデルの仕事を増やしてしまった。しかし、このまま外に居続けても風邪を引くだけだった。ダンは来た道を戻りヘブンズフィールへ帰った。

 室内に入ると雷鳴がこだました。一瞬、青白い閃光が窓から室内全体を照らしたかと思えば、腹に轟音が響く。

「あらら。今日は客がつかないかね」

 作業の手を止めクローデルが外を見ていた。雨水が窓を力強く、間断なく叩いている。天井からも雨音が途切れることなく聞こえてくる。何人もの小さな子供が屋根の上で遊んでいるかのようだった。

「ダン、あんたこんなに濡れて。風邪ひくよ」

 クローデルはダンに一枚のタオルを投げ渡した。

「それで体拭いて、乾いてる服に着替えな。服はその辺に置いてていいから」

「あ、ありがとう」

 言われた通りにダンはその場で服を脱ぐ。クローデルは下着だけになったダンの姿をまじまじと見ていた。細身だが筋肉質な体だった。女性であれば目を奪われるのもやむを得ないだろう。だが彼の体でひときわ目立つのは、全身に渡って残った傷痕だった。傷痕は、ダンがクローデルと知り合った段階で在った。過去にどれだけの苦難を強いられたのだろう。前に見た時も、それとなく聞き出そうとしたが、ダンは黙して語らなかった。話したくないのだろうと察したクローデルは、それ以来傷痕のことについて一切触れていない。しかし、それでも関心が止むことはなかった。

「ここに置いとくぞ」

「分かった」

 衣服が置かれたテーブルは濡れて、よろよろと端まで這い進んだ水滴が、静かに床へ落ちた。

「なにか食べるかい?」

「いやいい」

「そうかい」

 ダンは階上へ上がり自室に戻った。一階にはクローデルだけが残った。クローデルは、なぜ雨というのは人を情緒的、感傷的にさせるのかを漠然と考え続けていた。

 数日後、雨が上がり、陽光が水に濡れた大地を煌びやかに輝かせた。オリヴィアがヘブンズフィールに再び訪れたのは、村民が活動を開始してからすぐの頃合いだった。

「あら、オリヴィアさんいらっしゃい」

「クローデルさんこんにちは」

 クローデルはオリヴィアの雰囲気が変化していることに気が付いた。はじめて会った時の、少女のような弱々しさは微塵も感じられない。成熟し、苦境を乗り越えた一人の女性になっていた。

「ダンならまだ寝てるよ。起こしてこようか」

「いえ、お構いなく。私、クローデルさんとお話したいんです。よければですが……」

「あたしと?まあ良いよ。こっちへどうぞ」

 オリヴィアにカウンター席を勧める。オリヴィアの腰掛けた椅子は、昨日ダンも座っていたものだった。

「改めてお礼を言わせてくださいクローデルさん。おかげで私たちの故郷は救われました。ありがとうございます」

「あたしはなにもしてないよ」

「ダンさんを説得していただきましたわ」

「……まあそうだけど、あたしもお金が欲しかったから。あれも商売さ」

「それでも良いのです。王都の軍は、ただの一人も派遣してくれませんでしたから」

「あいつらは全員無駄飯食いの寄生虫さ。あてにするもんじゃないよ」

「ふふ、まったくですね」

「ところで、ダンになにか悪さされてないでしょうね?」

「悪さ、ですか?」

「ああ。ほら、乳とか揉まれたりさ」

「まったくされてませんよ。ダンさんはいつもに紳士的でした」

 オリヴィアが微笑みながら言う。自分からダンの胸に飛び込んで、泣きはらしたことは言わないでおこうと思った。

 オリヴィアの、過去を慈しむような表情を見て、クローデルの胸中に形容しがたい感情が広がっていく。いつも紳士的だった、か。

「なら良いんだ。なにしでかすか分かったもんじゃないからねえ」

「立派に仕事をやり遂げてくれましたわ」

 オリヴィアは言葉を切った。ちらちらと視線がクローデルと卓上を行き来している。

「あの、クローデルさん」

「なんだい?」

「……ダンさんの過去を教えてくれませんか?」

「それを聞いてどうするんだい?」

「どうこうするつもりはありません。ただ、もっと知りたいと思いました。知っておく必要があると。命を救ってくれた恩人なのに」

「……………………」

 クローデルは頭を掻く。彼女の立場上、様々な人間と会話の機会が生じる。内容の多くは他愛もない話だが、中には話者が誰にも打ち明けられなかった内容もある。客は彼女を信用して話しているのだから、それを口外することはできない。クローデルは、この村の秘め事を最も多く知る人物となっているが、ダンを含めてこれまで何人にも、他人から聞いた話を明かしたことはない。それは酒場の主たる彼女の矜持であり、誠実さでもあった。

 ダンの過去をクローデルは知っている。その昔、一度だけ聞いたことがあった。あまりにも悲惨な内容だったし、自分と境遇が似ていたため、無意識に記憶に刻み込まれていた。

「私、少しだけ聞いたんです。ダンさんから。あの人の過去を」

 目の前のエルフの美女はダンの過去を知っている。本人と、自分しか知らない彼の過去の一端を知っている。嫉妬なのか、怒りなのか、悲しみなのか、渦巻いている感情の正体をクローデルは知ることができないでいた。

「それで?」

「ダンさんは、家族が殺されたことは、自分の責任だと思っているみたいでした。自分が無力だったから殺されたと。自分だけが、のうのうと生き延びてしまったことに罪悪感を抱き続けているみたいなんです」

「あいつが?」

「はい。普段は隠していると思います。自分のことをあまり話さない方ですし」

「まあ、そうね」

「ですから」

「悪いけど、あたしは人の秘密をばらすような軽い奴じゃないんだ。知りたかったからダンから聞きな。そこまで聞いてるんだったら、多分話してくれるんじゃないかい」

 自然と語調が強くなる。私はオリヴィアに嫉妬しているのだろうか。

「…………そう、ですよね。すみません変なことを」

「悪いね」

「いえ、クローデルさんが謝るようなことでは」

 それからしばらく二人の間に会話らしい会話はなかった。沈黙に耐えかねたクローデルは、オリヴィアに水を差しだし「ダンを起こしてくる」と言って二階へ上がっていった。


「あの~…………ダンさん?」

「な、なんだよ」

 ダンとオリヴィアはマルキスの墓参りをするため、ヘブンズフィールを後にしていた。村を出てから一日が経つ。オリヴィアは目的地に近づいている気配をまるで感じなかった。それは、先導役であるダンも同じだった。結局、彼の家がどこにあるか思い出せなかったのだ。

「すまん」

 その日も、当てもなくさまよっただけで日が落ちた。二人はいつかの時のように、焚火を囲んでいた。

「元気そうだなあいつ」

 ダンはオキュポロスに視線を向けて言う。

「ええ。ただ、普段はあまり外にでることがないので、悶々としているようです」

「あの馬、俺をたずねてくる途中で、村から買ったって言ってたけど」

「はい。とても良い人たちで」

「しかしあんな駿馬が農村で飼われてたとはな」

「人間族の村では、馬はあまり飼われないんですか?」

「そんなこともないが、あれだけ上等なのは珍しいよ。買うとなればかなりの金額だろう」

「そうなんですね……」

「ああ。だから大切にしてやりな」

「はい!」

「ところで……その、マルキスの墓参りなんだが、オリヴィア、マルキスのマナの痕跡を辿るのは難しいか?」

「う~ん…………理屈で言えばできます。ただ、賢者マルキスはもう生きてはいないですし、いなくなってから時間が経ってますから…………」

「そうか」

「でもやってみます!なにしろ賢者マルキスは賢者ですから!きっと体に宿ったマナの質も量も比類ないと思います。ダンさんの剣をお借りしてもいいですか?賢者マルキスのマナの特徴を掴んでおきたくて」

「頼む」

 ダンはヴァレリア鋼の剣をオリヴィアに手渡した。

「お任せください!」

 ふふんとオリヴィアは嬉しそうに胸を張った。他者から頼られることを喜んでいる様子だった。それから間もなく、オリヴィアは剣の柄を熱心に調べていた。その日はそうして過ぎて行った。

 ダンの提案は功を奏した。オリヴィアの魔術で、マルキスのマナの痕跡を見つけることができた。はじめは、空気中にわずかばかり残っているだけだったが、痕跡を辿るにつれて反応は色濃く、鮮明になっていった。

 二人はさまよいながらも、目的地に近づいていたらしく、日が暮れる頃にはマルキスの家まであと半日程度の距離にまできていた。再び野宿する。

 その夜、オリヴィアは興奮のあまりよく眠れなかった。朝になると、目をギラギラと輝かせ、のろのろと支度を調えるダンをせかしていた。ダンは彼女の気持ちが分からないでもなかったが、早口でまくしたてる彼女には辟易していた。

「反応がかなり強まりました…………これは、魔法です」

 オリヴィアがダンに告げる。

「マルキスの魔法か?」

「はい。はっきりと分かります」

「なにか残しているんだろうか」

「それは分りませんが、行ってみましょう」

 太陽が天頂に昇り、それから地平線へその身を傾ける頃、二人は亡きマルキスが生前住んでいた家を見つけだした。一軒の平屋で、長い間放置されているのが一目で分かった。外壁には蔓が縦横無尽に這っており、これは自分のものだと声高に主張しているように見えた。家の周りに置かれているガラクタには、落ち葉が積もり、人の目からその姿を隠していた。

「ここだ」

 ダンは戸口に立って、ドアを開けようとした。だが頑として動かない。

「ダンさん待ってください」

 オリヴィアがダンを止めに入る。彼女の視線をドアに注がれたままだった。

「どうした?」

「これ、魔法で封印されています」

「……そうなのか?」

 ダンにはなにも分からない。ただの壊れたドアにしか見えなかった。

「はい。かなり強力です。…………きっと賢者マルキスは誰にも見られたくなかったのでしょう」

「途中で言ってた魔法ってこれのことか?」

 オリヴィアが頷いた。マルキスらしいとダンは思う。彼は弟子の自分にすら、死に目を見せなかった。そんな人物が、どこの誰かも分からない奴に、自分が眠る場所を入れる訳がない。

「先生らしい」

 二人は瞼を閉じ、黙禱を捧げた。

 山間へ入り込み、森の奥深くまで侵入してきた木枯らしが、落ち葉を舞い上げていた。

 

「じゃあ私はここで」

「おう」

 墓参りを終えた二人は山を降りて、ヘブンズフィールがある村の近くまで戻ってきていた。

「また困ったことがあったらいつでも来な」

「はい。そうさせてもらいます」

 オリヴィアはちらとダンに視線を向ける。ダンは黙って彼女の言葉を待ったが、結局口は開かれなかった。

「ダンさん、本当にありがとうございました。また会う日までどうかお元気で」

「ああ。そっちも族長の仕事がんばれよ」

 オリヴィアは丁寧にお辞儀をする。ダンは帽子を脱いで頭を下げ応えた。オリヴィアが顔を上げた時にはまた被っていた。

 馬にまたがり、ダンに背を向けて去って行く。オリヴィアの背中はどこか寂しげに見えたが、呼び止めるようなことはしなかった。ダンもヘブンズフィールに馬首を向けて走り出す。

「結局、聞けなかったな……」

 オリヴィアが振り返った時には、ダンの姿は見えなくなっていた。彼のことをもっと知りたい、できる範囲で癒してあげたい、力になってあげたい。心の声が声高に叫ぶ。決して憐れみや慰めではない。真心からそう思っていた。

 齢八〇を数えるエルフ族の少女は、それが愛だと分からずに帰路へついた。

 

「僕、僕……」

「大丈夫だよ。ほら、こっちにきなさい」

 差し出された手は節くれだち、見ているだけで痛々しい。だが、その手には人の温かさが通っていた。律動する心臓から、押し出された血液が全身をくまなく駆け巡っている。まさに生きた血、今を生きる生命の証。

「もう安心しなさい。…………今日からお前は私の子供だ。いいね?」

「…………」

 手をつないで、腐臭が立ち込める荒野を歩いた。辺りには夥しいほどの肉片や、生命活動を止められた臓物が散乱している。つい何時間か前までは、オリンシアというこの世界に生きていた生命。穏やかな生を享受する権利があった者たち。殺風景な辺境の地で、静かに暮らしていきたいと願っていた者たち。それが今ではただのグロテスクな肉塊へと変わっている。……食欲は一切そそられない。ただただ恐ろしい。これが地獄でなくて、いったいなんだと言うのだろうか。

 気力を振り絞って歩いた。途中、何度か斃れそうになった。その度に手を引いてくれる男は、水とわずかな食料を与えてくれた。おかげで生き長らえた。無限に続くかと思われた地獄は、しだいに新緑が立ち込める風景に取って代わった。そこには生命力があった。生きとし生けるモノすべてが、互いに作用しあい、複雑で神秘的な息吹を奏でていた。

 瞳に光が宿った。美しいと思った。

「どうかね?素晴らしいだろう」

「はい……」

 彼の言った通りだった。今までこんなにも美しい光景を見たことがなかった。あそことここが地続きなどと、到底考えられない。まるで別世界だ。

「僕の知らない世界が、ここにはあります」

「そうか」

 彼は短く返答したが、顔は微笑んでいた。柔らかな、慈愛のこもった笑顔だった。

「…………、………………。……」

 どこかから声が響いてきた。目の前の景色が歪んでいく。彼の姿が溶けて、薄っすらとなくなっていく。意識が明瞭になる。深い海の底から、太陽が降り注ぐ水面へと昇っていくような感覚があった。浮上するにしたがって話し声が聴覚を刺激し、話している内容もはっきりと現実のものだと理解できるようになる。

 そうか。これは………………夢だったのだ。

 

「ドクター・アンバーです」

「入れ」

 重々しい威厳に満ちた声だった。石造りの室内に反響し、聞いている者たちは目に見えない重圧を感じていた。胸が圧迫され、目が充血する。扉が開かれ、長身瘦躯と、尖った耳とわし鼻が特徴的な、男が一人入ってきた。複眼になっている眼鏡をかけており、その奥にある瞳は失意と失望の色で満ちていた。

「計画はどうであったか」

「は…………。まことに遺憾ですが、失敗に終わりました。責任はすべてこのアンバーにあります」

「経過報告ではほぼ完璧に近いと言っていたな?」

「は。報告しました通り、計画半ばまでは完璧でした。しかし、乱入者があった模様です」

「乱入者?」

「は。これを見てください」

 ドクター・アンバーと名乗った男が虚空に手をかざす。すると、空中に円形をした鏡のような物体が出現した。なにも映していなかった鏡に光が立ち込め、一つの映像が浮かび上がった。

「…………なにかに斬られているな。この断面は剣であろう」

「は。ご明察の通りで」

「……ヴァレリア鋼だ」

「…………は。…………?」

「これだけ鮮やかに、かつ正確な切り口を残せるのはヴァレリア鋼で造られた剣以外にはない」

「ま、まことに…………しかしヴァレリア鋼の発見は既に」

「このヴァレリア鋼の剣を持つ者に、ディリーティオは殺されたのだな」

「おっしゃる通りでございます」

 鏡の中の映像が切り替わる。映像は何者かの主観視点となっていた。目の前に黒い服をまとった男が一人立って剣を構えている。視点となっている者は男に突進したが、その直後、天地がひっくり返ったと思ったら映像は途切れてしまった。

「申し訳ございません。はじめての試みだったものですから、映像も不明瞭で、ディリーティオを殺したあの男が何者なのかも分からず仕舞いとなっております。エルフ族を抹殺することもできませんでした。現在、エンチャントリアは復興を進めていると思われます」

「……」

「願わくば、この身で今回の責任を取らせていただきたく」

「殊勝な心掛けだなドクター・アンバー」

「はっ」

「だがお前は私の臣下であり、得難い存在だ。勝敗は戦う者の常である。気にすることはない。いつの日か、お前は私に言ったな。『成功は夥しい失敗の上にはじめて成り立つ』と。お前が推進している、カガクとやらの実験にも同じことが言えるのではないかな?」

「ま、まことにおっしゃる通りでして…………」

「ならば罰する必要などない。失敗は一度の成功で償えば良い。陳謝は無用である」

「ははっ」

「この男とヴァレリアの剣は想定外だったが、それまでは思惑通りにことは進んでいるのだからな。ところで、身元が割れるような痕跡は残していないだろうな?」

「は。体から切り離された部位や死体はすぐに溶けて消えるように設計してあります。マナも抜き取っておりますので、仮にディリーティオが生きて逃亡したとしても、マナから追跡されることはありませんし、そうなればこちらで廃棄することも可能でした。ですが奴がまき散らした毒液については…………」

「それについては次回以降に改善するがよかろう。励めよ、ドクター・アンバー」

「ははぁ!」

「下がっていい。お前たちもな」

「は!」

 ドクター・アンバーと、控えていた者たちはうやうやしく一礼をすると退出した。広い空間には男だけとなった。

「ヴァレリア鋼の剣か」

 それにしてもと思う。映像で見た限り、あの剣を振るっていたのは人間であるように見えた。服装がエルフとは違いすぎるし、エルフは剣を使わない。生身の人間が、己の体術だけでドクター・アンバーが試作したディリーティオに勝利したという訳だ。あの魔物に、剣だけで。人間とは本当に分からない種族だ。

 あの男が真に人間族だとすると、どこからか情報が漏れたということになる。エルフ族は相も変わらず閉鎖的な種族であった。それは、過去何度か行われた、他種族と外交関係を結ぶ計画を妨害したからだ。外交官となったエルフを殺すことで、徹底的に外の世界とつながりを持つことを防いだ。奴らは治癒できない病を、呪いだの祟りだのと恐れた。結果的に、今日まで種族間でのやり取りはない。ドクター・アンバーの精密な調査結果がそう告げていた。だとすると、自然的に漏れたのではなく、エンチャントリアが危機に面している情報を持ち出したエルフがいるということか。そのエルフはあの男をどこからか見つけ、連れてきた。

「面白いじゃないか」

 口元が歪む。人間族に、自分の命をかけて、他種族を救おうとする奴がまだいたとは。

「父上。あなたと同じような人間が、今も生きているみたいです」

 黒服の人間に対する好奇心と、亡き父を懐かしむ懐古の情がないまぜになった声が、暗い室内に小さく響いた。

 その声を耳にする者は、誰もいなかった。

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報酬は要らない。代わりに俺の性癖を満たしてくれ!第一部 たんぼ @tanbo_TA

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