第11話

「はぁー、お腹いっぱい!結局デザートまで食べちゃった」


「確かに食べすぎたな…私はしばらくデザートはいいかもしれない…」


「なに言ってるの千紘ちゃん!女の子は甘いもので出来てるんだからもっと食べないとだよぉ!」


全員がお腹いっぱい食べて喋っていたら、時刻は17時を指していた。

結構長居したな。

食べすぎて酷使した胃に手を添えてそっと労う。

俺もしばらくデザートはいいかも。


「木藤、お前は大丈夫か?」


「なにが?」


「お前も結構食べていた気がするんだけど、胃は悲鳴をあげていないか?」


「私はそんなに食べてないから大丈夫」


お前が一番食ってたろ。

木藤はマヨコーンピザから追加してハンバーグ、サンデー、ついでに山盛り2倍パフェまで平らげていた。

ダイエットはどこにいったんだ。


「じゃあ時間もいい感じだし、そろそろ解散しようか!」


「そうだな、私と姫花はこっちから帰るか」


「うん!きふじんも家こっちだもんねぇ、一緒に帰ろぉ!」


「そうね、そうしよっか」


そうか、宮久保と木藤は同じ小学校だから家の方面も一緒なのか。

若宮も一緒なのであれば安心だな。


「俺は帰り道が反対だからここでさよならだな」


「大司、私もそっちからなんだけど!」


「わかってるよ、一緒に帰るか」


「うん!」


今日はご飯イベントも乗り越えてやり切った気持ちでいっぱいだ。

帰ったらどのラブコメを嗜むか決めながら帰ることにしよう。


「じゃあね、北方」


「おう、また明日な」


「なにいってんの、明日土曜日だから休みよ」


あぁ、そうだった。

春休みの感覚が抜けていないのか、衝撃が多過ぎて頭から抜けていたのか、明日が土曜日ということを忘れていた。

忘れてもしょうがないくらいいろんなことあったからなぁ‥


「そうだったな、明日も木藤と会えるもんかと思ってたから少し寂しいな」


「…そっ」


「じゃあ、また来週な」


「ん、また来週」


「ましろんまた来週ねぇ!北方くん、ましろんのこと頼んだよぉ」


「北方、貴様は土日に今学期のテストに向けて動くのだろうが、今回は順当に行くと思うなよ!」


期待に添えなくて悪いな若宮、今のところ土日はゴリッゴリに寝て過ごすつもりだ。

安心して俺に勝ってくれ。


「それじゃあみんな、また来週ねー!」


俺と真白は木藤たちを見送った。


「じゃあ、私たちも行こっか」


「そうだな、帰るか」


◇■◇


春の夕暮れは好きだ。

寒過ぎず暑過ぎない、それでいて言語化できない心地いい空間を作ってくれる。


「大司と2人で帰るのなんて久しぶりだね」


「そうだな、最後に帰ったのいつだったか」


「中3の夏が最後だね」


「なんで覚えてんだよ」


「ふふ、何でだろうね」


他愛のない会話が懐かしく感じる。

そうだ、俺は真白とこんな感じで喋ってたんだ。

ファミレスで会話が止まったのも、変に意識してしまったからかもしれないと考え、余計なことを考えるのをやめた。


「大司、最後に帰った時、私に言った言葉って覚えてる?」


「最後に帰った時に言った言葉か…すまん、覚えてない」


「ははっ、そうだよね〜」


「俺はなんて言ったんだ?」


「自分で思い出してよ」


真白は笑顔でこちらを向く。

しかし、その眩い笑顔の奥は笑っていない気がした。

俺はこれ以上深掘りせず、会話も止まり、夕暮れに染まる住宅街をただ一緒に歩いていた。


「あとさ、もう一個聞きたかったんだ」


真白が先に沈黙を壊し、問いかけた。


「大司、木藤さんと仲良いよね」


「そうだな、仲はいいと思うぞ」


「木藤さんのこと、好きだったりするの?」


…は?

どうしたんだいきなり。

まさか真白からこんな質問が来るとは思わなかった。

俺は一瞬立ち止まったが冷静さを取り戻し歩みを再開した。


「好きだぞ、最高の友人だからな」


「友達として好きってこと?」


「それ以外あるのか?」


「ふ〜ん、そっか」


再び静寂が戻り、住宅街をただ歩く。

え、なんでそんな質問をしてきたんだ?

解は出ないと、わかっていても考えてしまう。

思考を巡らせていると、いつのまにか別れ道が来てしまった。


「じゃあ、私はここで!今日はありがとう、また来週ね!」


「こちらこそ誘ってくれてありがとう。また来週な」


真白は笑顔で手を振り、俺に背中を向け歩き始める。


「真白!」


真白はびっくりしたようにこちらを振り向く。

大声出してすまんな、真白。

しかし、これはやらなければならないことなんだ。


よく振り返ってほしい。

夕暮れの帰り道、閑静な住宅街、幼馴染と2人っきり。


…ラブコメ好きがこんなシュチュエーションでなにもしないわけないだろう!!

悪手だとわかっている!

いまの自分が冷静じゃないということも!

それでもやれと…頭じゃなく心が叫んでるんだ!


絶対に困らせてしまうだろう。

断られるということもわかっている。


しかし、それでも言うのが….

ラブコメをすると決意した男の覚悟だ。

玉砕してこい北方大司!!


「日曜日!おれとデートに…」


「うん、行く」


……へ?

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