第10話

舞台は学校からファミレスに移り変わった。

学校が終わり、放課後に友人とファミレスで駄弁りくだらないことをするのも青春と言えるだろう。


「このチーズインの3乗ハンバーグ、いつ見ても頼んじゃうんだよねぇ」


「姫花いつも同じのばっかり頼んでるじゃん。たまには違うの食べなよー」


「真白、そういう君もいつもハバネロオムライスとかいうえげつないもの食べてるじゃないか」


しかし、今回相手にするのは友人ではなくクラスのマドンナ、しかも3人。

青春と呼ぶには難易度が死にゲーのそれと遜色ない。

ラブコメ主人公達はこんなのと戦っていたのか。


「北方、なにへばってんのよ」


木藤が小声で話しかけてくる。

その声が眩い聖のオーラが眼前に広がる様に戦意を喪失しかけていた俺を引き戻してくれた。


「悪いな、膝から崩れ落ちかけてた」


「無理もないわよ、相手が悪いわ」


木藤も俺と同じ感想を抱いているらしい。


「大司〜、決まった?」

真白が顔を覗くよう大司を見てきた。

大司は50のダメージ。


「きふじーん!早く決めて食べようよぉ」

「焦らせるな姫花。木藤さん、ゆっくり決めていいからな」

宮久保はホワホワわがまま攻撃、若宮は優しさギャップ攻撃を繰り出した。

木藤は70のダメージ。


まずい。

このままだと防戦一方で何も進展がないまま終わってしまう。


「俺はミノラ風ドリアにしようかな、木藤はどうする?」


「あたしはマヨコーンピザ」


まずは注文を済ませて準備が整ったところで、次はこちらから仕掛けさせてもらう。


「真白と一緒に昼飯食べるなんて久しぶりだな」


「ねー!中学の時はよく一緒に食べてたけど、気がついたら別々だったもんね」


俺はエイムを真白に合わせる。

そもそも1人で3人を相手にしようなんて無理な話だったんだ。

ならば…


「若宮さんって普段休みなにやってるの?」


「そうだな、大体休みの日は1週間でやった授業の範囲を復習して、後は読書をしてるな」


「そうなんだ、若宮さんが勉強得意なのは、それくらい努力してるからなのね」


「私は家でお菓子食べて寝てるかなぁ」


「聞いてないわよ姫花、というか小学校の頃から生活スタイル変わってないじゃない」


木藤が俺の考えを読み取り、宮久保と若宮の対応に回る。

さすがだ木藤、愛してるぜ。

これで1vs1に持ち込める。

ここでは爪痕はあえて残さない。

この場合は聞くに徹した方がいいと知恵袋と恋愛系動画配信者が言っていた。

聞く分野に関しては俺の専売特許だ。


「真白は今休みの日って何やってるんだ」


「基本的に雑誌読んでるかな、流行はすぐに変わるからね。最新の情報は常にキャッチしておかないと!」


「真白は昔から努力家だな!」


「ふふ、ありがとう!」


「おう!」


「…」

「…」


なぜだ!?

俺はどこで選択肢を間違えた。

会話が途切れ、気まずい空気が広がる。

このままではこの空気が伝播して全体的に面白くなかった会になってしまう。

ふと横にいる木藤に目を向け助けを求める。

しかし、木藤は2人のマドンナに対応を追われているため余力がなさそうだ。


冷静になれ、北方大司。

真白とは幼馴染だ、久々に面と向かって接するとなれば話す内容は一つ。

思い出話だ!


「そういえば真白、小学校の頃は変な石集めるの好きだったよな。今でも集めてるのか?」


「…覚えててくれたんだ」


「そりゃあ、変な色や形の石を集めては鑑賞会に参加させられてたからな」


「実は私、別に石を見たりするのするの特別好きってわけじゃなかったんだよね〜」


「え、そうなのか?にしては結構な数集めて見せられたぞ」


「うーん、なんというか…口実が欲しかっただけというか…」


「口実?」


「…ううん、なんでもない!あっ、ご飯きたよ!」


変なタイミングで猫型の配膳ロボットが料理を運んでくる。

料理を見たらお腹が急に減ってきた。

俺は真白の発言を深ぼることはせず、とりあえず頼んだ料理を食べることにした。

それにしても口実ってなんだったんだ…?


「きふじんどうしたのぉ?具合悪い?」

「木藤さん、苦虫を潰すような顔をしてたぞ」


「ううん、頼んだピザが思ったより大きくて食べれるかなって。いまダイエットしてるから」


「そうか、それならいいんだが…」

「無理しちゃダメだよぉきふじん」


「ごめんね、心配させちゃって」


隣で木藤が浮かない顔をしていたらしい。

確かにダイエット中は目の前にうまそうなご飯があると逆に辛いもんな、わかるぜ。

…でも、木藤がダイエットなんかしてたか?

十分痩せてると思うんだけどな。

そんなことを考えながら、料理に手をつけ、積もる話をしていると時間があっという間に過ぎていった。

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