第7話
不思議な夢を見た。
学校の帰り道に誰かと歩いてる夢だ。
くだらない話をして、悩んでること相談して、明日何するか決めて、そして手を繋いで帰る。
その空間がとても居心地良くて、いつまでも一緒に居たいと思ってしまう。
顔はわからないが、笑顔で話しかけてくれている。
『大司!』
◇■◇
「…タカタ…キテ…」
「ぅうん…」
「北方、起きて」
「あれ…木藤…?」
とっさに体を起こすと、ぶつかるんじゃないかと思うくらいの近さに木藤の顔があった。
木藤はとっさに後ずさり、後ろを向いた。
ひとつ深呼吸をして、もう一度こちらを見る。
「あんた寝過ぎ、漫画全巻読み終わっちゃったわよ」
時刻を見ると針は18時を指していた。
木藤の言う通り、寝すぎだな。
なんか悪いことしてしまったと少し反省をした。
「悪い…あれ、優也は?」
「妹を迎えに行くとかで先に帰ったわよ」
「あぁ、今日学校早く終わったもんな」
優也には5歳の妹がいる。
その妹が可愛くて仕方ないらしく、学校が早く終わる日や休みの日にお出かけに付き合ってあげるんだと。
まぁ、そのあと結局俺の家に来てたけど…
「すまん、せっかく遊びに来てくれたのに寝てしまった」
「いいわよ、今日学校で結構疲れてたんでしょ?」
「まぁな…心が疲れてた」
「…確かに。逆の立場だったら私もきついかも」
「お前だけだよ、わかってくれるの」
「そっ」
木藤は不思議と満足気な顔をしていた。
なんかいいことでもあったのか?
そんなことを感じていると、木藤が唐突に聞いてきた?
「ねぇ、一個だけ聞いていい?」
「何個でもかもんぬ」
そんな顔しないでくれ木藤、悲しくなる。
気を取り直して話を続けることにした。
「なんだ?」
「あんたはしようと思わないの?」
「なにを?」
「ラブコメ」
あぁ、こいつは何もわかっちゃいねーぜ。
超絶優しい俺が懇切丁寧に説明してあげることにした。
「いいか、木藤。ラブコメっていうのは環境が大事なんだ」
「環境?」
「あぁ、例えるならクラスに高嶺の花がいるとか、ライバルがいるとか、幼馴染や許嫁も必要だな。あとは入学式前に犬を庇って車に轢かれるとか…」
「長い。あと、最後のは何?」
「拗らせまくるラブコメが始まったきっかけ」
「もっとわけわかんないわよ…」
「まぁ、つまりラブコメっていうのは本人の努力だけじゃなく現実にはない理想の環境があって初めて成り立つんだよ。」
「ふーん」
「そんな環境がない限り、少なくとも俺にラブコメなんてものできっこないってわけだ」
「あるじゃん」
「何が?」
「環境」
はぁ…これだから素人は…
「あのな木藤、俺のどこにそんな環境が…」
「幼馴染のマドンナ」
「……」
「ライバルのマドンナ」
「……」
「許嫁はわかんないけど、もう一人ふわふわしたマドンナ」
「……」
「しかも全員同じクラス」
「……あぁ…」
環境揃いまくってたぁぁぁ!!
なんてことだ、俺としたことがなぜ気づかなかった。
これ以上ないくらいの環境がそこにはあったのだ。
「そろっ…てるな…」
「これ以上ないくらいね」
木藤の言葉は想像以上に俺の心を揺らした。
ラブコメはいつだって理想の中にあると思っていた。
そんな都合のいい環境なんて、そうそう現れるものじゃないって、勝手に諦めていた。
手の届かないものに手を伸ばすほど虚しく儚いものはない。
そう思っていた。
窓からは冬の余韻を残した冷たい風が入り、全身を奮い立たせる。
絶対に後悔する、できっこない。
そんな考えすらも、今にでも動き出しそうなほどの興奮がかき消してしまう。
「…するわ」
「え、なに?」
「俺、ラブコメするわ」
「は?」
素っ頓狂なことを言い出す俺に少し驚いた木藤を他所に続ける。
「お前の言葉で気づいたよ、理想の環境は揃ってたんだ。あとは、俺がどうするかだって」
「え、ちょ…」
「俺はここに宣言する」
椅子から立ち上がった俺を見上げる木藤に向かって言い放った。
「おれは学園のマドンナとラブコメするぞ!」
そういえば名乗ってなかったよな。
俺は北方大司(きたかた たいし)
さっきまで、なんの変哲もない高校生だった男だ。
これはそんな俺が
学園のマドンナとラブコメをする話だ!
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