第3話 決意
決起夜行と一悶着あった日の夜。
「疲れたー」
「お帰り東谷、いくら稼げたんだい?」
「帰ってそうそう金の話かよ…ざっと五万くらいだな」
「その調子なら一ヶ月後には返せそうじゃな」
「なめんな!っと…次のバイトがあった」
「飯くらいしっかり食ってけ、ほら干したヤモリ」
「おお…ありがてぇ、行ってくる!」
ドタドタと走り去っていくその様子は疲れを感じさせない。
「あいつもようやるわ、いくら家賃のためとは言え…」
なんのために生きるのか、今のくだんが抱えている問題だった。
(あいつも懸命に仕事をして…なぜそこまでして生きようとするのかのう)
四畳半の狭い部屋の奥でキッチンの蛇口から水がぽつりぽつりと垂れている。
それにくだんは気づき止めようとする。
そうして立ち上がると、急に体に異変を感じた。
「…まずい、しかもまだ予知が」
そんな時にふと風が吹き、アパートが揺れた気がした。
そして、自分しかいないはずの部屋には見覚えのある男が立っていた。
「よお、くだん…またあったなぁ」
狂骨だ。
「こっちの事情が変わってな、話があるんだ」
くだんは狂骨には目もくれず一人呟く。
「なぜだ?人に化けて過ごせは、消えはしないはず…思い違いだったのか、わしの」
くだんはそう呟くと、悔しそうに手を握りしめ床に四つん這いでテントの様に固定され、動かなくなってしまった。
呆気にとられる狂骨、後で控える火車と邪魅もくだんの異常さを感じて窓から部屋に入る。
「おい、狂骨…なんだよこれは」
「わ、わからねぇよ…部屋に入った時からからこんな調子でよぉ」
「やっぱし、狂骨なんかに任せるからいけないのよ!このポンコツ!」
「骨だけに?」
カタカタカタと笑う狂骨。
「うるせぇぞ!」
そんな二人の間に、一喝が飛んで入る。
「目的忘れんな、今はくだんに集中しろ!」
「か、火車の旦那…分かってますが、こいつどうします?」
その問いに対して誰も答えられなかった。
目の前の人の姿をした妖怪は未だにうなだれていてとても話し合えそうもない。
どう切り出したものかと頭を抱えていると、くだんは立ち上がり近くにあった戸棚から紙とペンを取り出し、それらを使い机の上で何か手紙のようなものを書き出した。
その鬼気迫る様子を、三人はただ見守ることしかできなかった。
しばらくして、時間にして三分経つかというくらいにくだんは書き終わったのか筆を置いて一息入れた後こちらに向き直った。
「あー主ら、すまんな客人を放ったらかしにして」
「あ、いえ…お構いなく」
突然冷静になられたので、つられて火車も答えてしまう。
「あ、じゃなくて!」
「百鬼夜行の勧誘に来たんじゃろ、断る…というかやりたくてもできん」
「は?」
「何が何だか分からんから説明しろ…だな、待ってろ説明してやる」
くだんはそう言うと立ち上がり台所へと向かった。
「緑茶で良いか?」
「…まぁ」
「あーなんでもいいぞぉ」
「茶菓子も出してくれるとありがたいわね」
三人とも、もはやくだんに説明されるまで身を任せるしか出来なくなっていた。
台所からくだんがお茶と安物のお菓子を持ってきて三人にくだんに起きた事を話しだした。
……………
…………
………
話が終わるころ、邪魅と狂骨はお菓子を早々に食い尽くし話が長くなると見るとすぐに卓から離れ共に暇を潰していた。
だが、火車だけは湯呑みに手を付けることもなくくだんの話を聞いていた。
「なるほど…大体わかった、だがなんでそんな話を俺らに?」
「決めたんじゃ」
その声色に場が一瞬止まった、がくだんが話すと同時にまた時を刻みだした。
「先は長くないのだ、そんな時に幸か不幸かお主らがきた…預けてみようと思ったんじゃ」
「傘化けが来たら今の話をして、そしてこの手紙を渡してやってくれ…頼む」
くだんのその目は真剣そのものだった。
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