第32話『壁の向こうの虚無空間の更に向こう』
前回のあらすじ:横回転をしながら壁に突っ込みました
「ああああああああああ!!!!!!!!!!」
モブーナとママリアの手で、私を軸とした駒は王城の方向の壁に向かって突撃する。
そもそも壁を抜けられるのか?
よしんば抜けられたとして、ちゃんと王城にたどり着けるのか?
そしてもしたどり着けなかったら壁の中でどうなるのか………
どうあがいても避けられない様々な『死』の予感が過っては消えていく。
だがそんな事を考える余裕も無いくらいに、体にかかる負荷はどんどんと増していく。
「お嬢様、行きますよ!」
「ああああああああ死ぬうううううううううう!!!!!!!!!!」
もはや何が見えているのかも分からない回転速度の中、壁に向かって徐々に移動していく感覚だけを体に受ける。
………一瞬、学生時代や転生前の記憶が頭によぎり、ああ、これが走馬灯なのだろうか…と思う。
そして次の瞬間、私は壁に激突………
していなかった。
「………!?!?」
「成功ですね~!それじゃあ、このまま行きますよ~!」
そこに広がっていたのは…壁、そして果てしない虚無であった。
無限の闇、ないしは「なにもない」がある空間…
ともかく、言語化出来ないような空間がただひたすらに続いていた。
そして、その先に見えるもう一つの壁…
恐らくそれが、王城の地下なのだろう、ということを何となく頭で察した。
最も、最早何も考えられないだけだったのかもしれないが。
「このまま直進します…!振り落とされないで下さいね?」
「それはモブーナさんも同じですよ~?」
「……………」
数秒とも、無限とも取れる時間が過ぎる中…
不意に浮遊感が無くなったかと思えば、そこに見える景色は…王城の地下であった。
だが、今の私にはそんな事を考える余裕は無く。
「………」
「ふう…なんとか無事に到着しましたね」
「賭けには勝った…といった所でしょうか」
「………………」
「お嬢様?大丈夫でしょうか?顔色が悪いようですが…」
「うっ」
おぼろろろろろろろ…という汚らしい音と共に、私の口からは綺麗な虹が架かっていた。
「だ、大丈夫ですか!?お嬢様!?」
「え、えっと、か、回復魔法…!」
「…しょ」
「何でしょうか?」
「貴方達の身体能力であんな事したらこうなるのは目に見えてたでしょうが!!!」
「し、しかし!王城に向かうにはこの方法しか無かったと…」
「分かってるわよ!分かってるけどもうちょっとこう…こう…!ああもう!」
実際これはやり場のない怒りをぶつけているだけに過ぎないのは自分でも分かっている。
分かっているのだが、いやしかし…!
「…!話している時間は無さそうですよぉ!」
「衛兵!?早すぎる!とにかく玉座まで急ぎますよ!」
「ちょ、私まだ気持ち悪…ぎゃ!」
壁抜けの衝撃から復帰しきる間もなく、衛兵たちが即座に現れる。
恐らく前回の一件から警戒度が上がったのだろう、私はモブーナに担がれ王妃様の下へと向かうこととなる。
…いやしかし……なんか……なんかこう……
「…なんか衛兵多くね?」
地下の通路にわらわらと現れ、通路にみっちみちに詰まった衛兵たち。
よくこの状態で移動できるな…と思っていたが、まあ案の定後ろの方は移動できていないようであった。
ああ、なんだかこんな光景ジ◯リやル◯ンで見たことある気がするなあ…と思いながらモブーナ運ばれていると、衛兵たちがにわかにざわめき立つ。
すわ何事かと見てみれば、どうやら衛兵の1人が私の吐瀉物に足を取られ、すっ転び、そして…周囲の衛兵も巻き込みながら物理演算が荒ぶり始めたらしい。
「ふむ…どうやらトラブルのようですね、我々にとっては好都合ですが」
「いやありがたくはあるけど…恥ずかし過ぎる…」
「良いではありませんか、ファインプレーですよお嬢様」
「あんまり嬉しくなーい…!」
そんなこんなで逃げていれば、気付けば衛兵は1人、また1人と脱落していき…
玉座の間の扉の前に来る頃には、もう殆ど残っていなかった。
「烏合の衆の数が増えた所で所詮はこの程度です、世界が不安定な今、よりそう思わせる結果でしたね」
「この前戦った皆さんのほうがよっぽど強かったと思いますよ~?」
「いや煽るな煽るな」
…とは言え、実際に「こんなもんか?」と思わせてしまうような練度、強さであったのも事実であり…
…これも世界に広がるバグの影響なのだろうか?
だとすれば急いだほうが良い…のかもしれない。
「さて、思ったよりもあっさりここまで来れてしまい…正直拍子抜けでしたが」
「ええ、これなら正面突破しても良かったかもしれませんね~」
…とは言え、そんな話をしてしまうぐらいにはあっさりとここまで来れてしまっている。
だが、当然そう簡単に行かせてくれる訳は無く…
「おっと!ここから先は!」
「アタシ達が通さないよ!」
「世界を壊す不届き者さんはぁ…マリア達が成敗しちゃいますよぉ?」
玉座の間へと続く扉の前に立ちはだかったのは、リメイクされた世界の主人公達であった。
「世界を壊す?元はと言えば、貴方達の生みの親がリメイクなどと言い出さなければこんな事にはなっていなかったのでは?」
「自分の意志も無い王妃の飼い犬さん達…可哀想です…」
「ほざけ!パワーアップした俺達の力!見せてやる!」
「ふむ、そうですね…お嬢様、失礼します!」
「え、何!?」
モブーナはそう言うと、私を扉の前まで投げ飛ばし
「お嬢様は先に行って下さい!ここは私達にお任せを!」
「…ええ、分かったわ!」
そうして私は、モブーナとママリアにその場を預け、先を急ぐこととなる…
「ハッ!主人を助けて自分だけで戦おうってか?3対2だぞ?」
「いくら強くても人数差があったらねぇ~!」
「はぁ…弱い犬ほどよく吠えると言いますが…良いでしょう、人数差など意味が無いということを教えて差し上げます」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます