第33話『Side:モブーナ&ママリア』

前回のあらすじ:リメイク主人公が立ちはだかりました


ニエリカが玉座の間へと向かったその裏で…もう一つの戦いが火蓋を切ろうとしていた。


「御主人様のために殿を努めようだなんて、見上げたメイド根性だなぁ!」

「でもそのせいで御主人様の預かり知らぬ所で死ぬことになるなんて、本当にバカだよね~?」

「はぁ…自身の置かれている立場も理解できないとは、全く、救いようがない」


キョウリ・ムギアとアキ・サタスト、そしてモブーナ・モブナンデス。


「主人公さんが世界の一大事に殿なんか努めてて良いんですかぁ~?あ、今は『元』でしたねぇ!」

「あら~?そんな事を言う現主人公さんは世界を一大事に巻き込む側に立っているじゃないですか~?主人公の風上にも置けませんよね?」


マリア・スウィーチスとママリア・スウィチ。

それぞれがそれぞれ、人の思いに応えるために、刃を交えるのだった。


「ま、どうあっても勝負は一瞬で決まっちまうんだけどなぁ!」


先に動いたのは、キョウリ達であった。

何かを唱え始めるアキ、そしてそれと同時にキョウリの全身を炎が包み込む…


「ほう…中々面白い術を使いますね」

「ハッ、どうだ!?アキはバフが得意分野なんだよなぁ!」


そして、次の瞬間…踏み込んだかと思えば、モブーナのすぐ横に現れ、彼女に一撃を食らわせていた。


「…!成程、言うだけはあるようですね」

「驚いてるようだなぁ!そうだ、アタシらだって口先だけじゃねえってこと、その身で思い知ったら良いんじゃねえかぁ!?」


そのまま息をつかせぬ猛攻を繰り出すキョウリ。

そんなキョウリに対し、モブーナは防戦一方であった。


「ふむ…そうですね、確かに出会った当初、お嬢様にキャンキャン吠えるだけだった可愛いチワワちゃんとは違うということは…認めざるを得ませんね」

「ハッ!そうだろうそうだろう!なにせ今の俺達のステータスは…カンスト状態だからなぁ!」

「そうだそうだ!しかもそこに私のバフまで乗ってるんだぞ!アンタに勝ち目があるもんか!」

「成程………確かにこれは、少々厳しい戦いを強いられそうですね」


…が、次の瞬間、キョウリの攻撃は止まっていた。

否、モブーナによって止められていたのだ。


「…並の人間ならば、の話ですが」

「…な、何っ!?」


キョウリがモブーナに蹴りを食らわせようとした瞬間、モブーナはキョウリの足を捕らえていたのだ。


「俺の攻撃を止めるなんて、やるじゃねえか…だが、その程度のまぐれ!」


そう言って拘束を振りほどこうとするキョウリ。

だが…


「…な!?ぜ、全然振りほどけねえ!?な、何でだよ!?おかしいだろ!?アタシの能力はカンストなんだぞ!?」

「では教えて差し上げましょう、私の能力は…」

「うわぁっ!?」


そう言って、振りほどこうとするキョウリを片手でアキの方へと放り投げるモブーナ。

目にも止まらぬ速さで飛ばされてくるキョウリを前に、アキは避けることも敵わず…2人共正面衝突してしまうのだった。


「参照先がバグっておりますので、カンストを遥かに超えた能力値でございます。……まあ、もう聞こえていないかもしれませんが」


後に残されたのは、一撃で気絶させられた2人の姿のみであった。

―――キョウリ・ムギア、アキ・サタスト、戦闘不能。


…一方その頃、マリアとママリアは。


「カンストだなんて大言壮語しておきながら一撃ですか~。マリアさんもあの人達と同じじゃなければ良いんですけどね?」

「あははっ!あんなバカ共と一緒にしないでくれますぅ~?ママリアさんこそ、いつもの巨体で一方的な蹂躙が出来ないからって負けた言い訳にしないで下さいねぇ~?」

「私はそんなつもりでは無いんですけどもねぇ…」


対峙する新主人公(予定)と元主人公。

やはり出自は同じなだけあって、実力も拮抗しており…体格的にママリアが多少有利かと思われたが、マリアの方も攻撃を上手く捌き、一進一退の攻防が繰り広げられていた。

そんな中、先に勝負を仕掛けたのは…マリアであった。


「多少体格が有利だからといって…一方的に勝てると思わないで下さいねぇ!あはは!」

「くっ…!」


ママリアの一瞬の隙を付き、彼女を転ばせ地に組み伏せるマリア。


「あはぁ…!どうやら私が一枚上手だったようですねぇ~!これで理解していただけましたかぁ?実力も!恋の行方も!人間関係も!私が上だって事を!」

「い、一体何を…?」

「貴方が狙っている男を私のものにするのはぁ…実に気分が良かったですよぉ!やっぱり音取りって最高ですねぇ~!ああ、寝取られたエリカ嬢のそっくりさんはお気の毒ですがぁ…主人公の踏み台なんですから、仕方ないですよねぇ~!?ああ、貴方もあんな人の友達になってしまったばかりに…主人公という立場も、恋をする資格も、何もかも失って…ああ…可哀想…!」

「………」

「そんな可哀想な貴方の為にぃ…今ここで息の根を止めてあげますねぇ!あはぁ!」


マリアの凶刃が、組み伏せられたママリアに襲いかかる。

だが、ママリアは既の所でマリアの手首を掴み、その攻撃を防ぐ。


「無駄な抵抗はやめて下さいよぉ!大人しく、私のために死んでくださぁい!」

「………別に」

「はぁ?なんですかぁ?今更言い訳ですかぁ?まあ遺言なら聞いてあげないことも無いですけどぉ?」

「…別に、主人公がどうとかは、私どうでもいいんです。マーロイ様の事も別に気にも止めていませんし、貴方が主人公で彼と付き合うっていうなら勝手にすればいいと私は思ってます」

「へぇ~?じゃあ私の邪魔をする必要は…」

「ですが」

「はぁ?まだ何か…」

「ですが…その為に私の親友を悲しませたり…あまつさえ侮辱しようというのは………絶対に許せません!」


そう言ったママリアは、マリアを掴んだ手に力を込め始め…その手が光りだす。


「なっ!?まだこんな力を隠していたんですかぁ!?」

「別に隠していた訳では…」

「け、けど!こんな目眩ましをした所で勝負は…」

「そう言えば、今私、体内の魔力保有量の上限が減っているからこんな身長になってるんですけど…」

「はぁ!?急に何!?」

「魔力吸収体質じゃなくなってるとは、一言も言ってないんですよね、私」

「な…」


ママリアの手の光が更に輝き出し…

そうして、光が収まった時…そこには何も残っていなかった。


「…う、うう…全く、窮鼠猫を噛むってことですかぁ…?けど振りほどかれたぐらいで勝負はまだ…」

『勝負はまだ…なんですかぁ?』

「…!?!?!?」


マリア・スウィーチスはママリアの光に包まれた後…目の前から彼女の姿は消えていた。

そして、彼女より遥か上空から聞こえる声。

見上げれば………そこには、自分よりも遥かに巨大なママリアが存在していた。


「な、な…このタイミングで魔力量を元に戻すなんて…卑怯だとは思わないんですかぁ!?」

『卑怯だなんて…マリアさんには劣りますよぉ。それに…貴方、何か大きな勘違いをしていらっしゃいますね?』

「勘違い………!?」


マリアが困惑していると、丁度そこに戦闘を追えたモブーナが近づいてくる。

…そう、『ママリアと同じ体格の』。


「な、な…!?嘘…!?」

『おや、そちらも終わりましたか。あれだけ大言を吐いておきながらあっけないものでしたね。…と、これは?』

『はい~、これがマリアちゃんですよ~。私が魔力をぐっ、と吸収して…今はこんな体格になっちゃってますけど』

『ふむ、成程、ママリア様は他人のサイズも操作できるのですね』

『まあ…魔力消費量が激しいので…多用は出来ませんけど』

『そう多用するものでも無いでしょう。しかし…泥棒猫が鼠になるとは、皮肉なものですね』

「ひっ…!」


逃げなければ殺される…マリアの脳裏には、明確な「死」のビジョンが浮かび上がっていた。

今まで自分が何気なく殺していた小さな虫。

まさか自分がその立場に立たされるとは夢にも思わなかったのだ。

だが…


『おや…必死で逃げていますね、可愛らしい事です』

『え、逃げてるんですか?これで?』

『まあそう言ってあげないで下さい、これでも必死なんですよ、多分。我々の一歩にも及ばない距離ですけども』


マリアは生きるために必死で逃げていた。

それこそ、今まで出したことのないような全力疾走をしていたのだ。

だが、それでも…今のママリア達にとっては『一歩にも満たない』距離であった。

それを耳にした瞬間…マリアの中で、何かが途切れた。


「あ…はは…あはは……はは……私…死ぬんだ…ここで…こんな所で…惨めに…虫みたいに潰されて…」


次第に重くなっていく足取り、そうして…気付けば、彼女はその場にうずくまってしまっていた。


「嫌…嫌だ…死にたくない…死にたくないよぉ………」


だが、無慈悲にもそんな彼女の頭上に手が伸ばされ、それは彼女に近づいていき…


『煩い虫ですねぇ…』

「い、嫌ああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」


ママリアはそんな怯える彼女を掴み取り、胸元に仕舞ってしまった。


「…おや、良かったのですか、彼女、何か言いたげでしたが」

「錯乱して叫んでいただけだと思いますよ~?まあ、ここに入れておけば落ち着くんじゃないかしら~?」

「ふむ、まあ、確かにそうかもしれませんね」

「はい~。さて、これでこちらは片付きましたねえ」

「ええ、後はお嬢様が上手くやってくれていれば良いのですが…」

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