第31話『壁抜けを試みます』

前回のあらすじ:再び屋敷の地下にやってきました


「ここが…屋敷の地下…」


本来では絶対に開かないと言われている、キュービック家の開かずの扉。

私達は今その奥にあるという地下室へ足を踏み入れている。

そして…ここには前にも一度足を踏み入れたことがあるような………いや、そんなはずはないのだが…?

そうして進んでいった先、そこにあったものは…


「…培養槽?」

「そうだ、正規の方法では絶対に見ることのできない部屋、通称『モデルビューワー』だ」

「ここが…」


モデルビューワー。

作中で使われている3Dモデルなどを閲覧できる機能であり、まあ…例によって作品によって搭載されていたり居なかったりするのだが…

まさかディアストにもあったとは夢にも思わなかった。


「…ん?けど今正規の方法では絶対に見ることのできないって…」

「…そうだ、だから私がこうして地下への扉の存在を『書き換えた』」

「それはつまり…ルイリオ様の能力、ということですか」

「ああ、そう思ってもらって構わない。私の能力は…説明が難しいんだが…『バイナリエディタ』ってあるだろう、アレと同じことが出来ると思ってもらって良い」


…それは割と大分チートなのではと思わなくはないが、まあそれは一旦置いておこう。


「…それで、わざわざここに連れてきた理由はあるんでしょう?」

「そうだな…まあ、正確には『ここ』である必要は無いんだが、一番近い場所がここしかなくてな」

「その心は…?」

「…『この世界の地下は全て繋がっている』」

「はぁ…?地上が繋がっているなら地下も繋がっているのは当然なのでは…?」

「うーん、そういう概念的な意味じゃないんだけどもね…そうだなあ、もうちょっと古いゲームだと、ダンジョンのマップがどのダンジョンも実は全て同じマップに配置されている…みたいなのを聞いたことはあるかい?」

「あー…まあ概念的にはなんとなく?」


そう、昔のゲームだとよくあるものなのだが…

例えば『地上』『ダンジョン』の2種類のロケーションがあった場合、「地上」は1枚のマップで全て繋がっているが、「ダンジョン」はダンジョンごとに別のマップになっている…と見せかけて、実は「ダンジョン」も裏では1枚のマップで全て繋がっている、みたいな話だ。

…ゲームクリエイターというのは今も昔もゲームというものを容量に収めるために色々なことを考えるものだと、諸先輩方には一生頭が上がらないとひしひしと実感する。


「それで…?その、繋がっているのは分かったけど、繋がってるだけじゃかなりの距離があるわよね?」

「ああ、だが私が調べた結果、繋がっているだけじゃなくて距離も大幅に縮まっていることも分かったんだ。…最も、ゲームの中では、だけどね」


…ん?ゲームの中?

それって…


「それってつまり、こっちの世界でも『そう』という確信は無いということでは…」

「ああうん、いや確かに仮定の話ではあるんだが…この世界の成り立ち、法則を考えたら…有り得ない話じゃない、とは思わないかい?」

「いやまあ…そうかもしれないですけど…」


そして、ルイリオ様は地下室の壁のある一点を指し示す。


「で、この壁をまっすぐ掘り進んだ先が王城の地下ね」

「おお…またざっくりですね、確証はあるんですか?」

「…僕の記憶が正しければ、だね」

「つまりこの世界でもそうだという証拠は無いと…はぁ、まあ良いですよ、他に方法もありませんし…」

「いや、すまんね…」


うん、大分分の悪い賭け感が出てきたが…どうせ元より負けに近い成功率だ、だったら分の悪い賭けだって乗ってやろうじゃないか。

さて、後はその向こう側に行く方法だが…


「それで、場所は分かりましたけど…そこまでどうやって向かうつもりですか?まさかそこまでデカい穴を掘ろうって言うんじゃ…」

「いや、流石にそれはリスクも大きいし時間もかかりすぎるだろう」

「じゃあどうやって…」

「ニエリカ、君はパチンコを持っていたね?」

「え、ええ…持っています…けど………ハッ!?」


まさか

まさかとは思うが

ルイリオ様はパチンコを使って『アレ』をやろうと言うのでは無いだろうか


「い、いや…でも私RTA走者とかじゃないですし、流石にアレは出来ないですし…?」


それに…それに『アレ』は流石に生身ではやりたくない…!


「大丈夫だニエリカ!我々も全力でサポートする!それにやり方自体はそんなに難しくないはずだろう?」

「いややり方は難しくないですけど…物理的に優しくはないというか…!」

「…お嬢様、ここまで来たのです、今更引き返す道はありませんよ」

「モブーナ!?」

「いいじゃないですか、やりましょうよ~」

「ママリアまで!?」


う…人数的には3:1、やりたくないのは私だけってことか………いや君等は実際にやる訳じゃないんだから良いだろうけどさぁ!?

くぅ…後で恨む…!


「…分かったわよ!やれば良いんでしょ!やれば!」

「流石はお嬢様ですね!その決断力、尊敬に値します」

「…くうぅっ!」


…多分、傍から見たらこの時の私は凄い表情をしているのだろう。

さて、あまり引き伸ばしても良くないだろう、私がやりたくない『アレ』というのは…


「ではお嬢様、ママリア様、準備はよろしいでしょうか」

「私はいつでも大丈夫よ~?モブーナちゃんも無理しないでね?」

「一番に心配して欲しいのは私…んああああああああああ!!!!!」


…パチンコを使った壁抜け…その応用として、壁に突っ込む→そのまま振り向く→再度壁に突っ込む…を繰り返すと少しづつ壁の方に進んでいく、という技があるのだ…

あるのだが…難易度が高く、普通にプレイするには成功率はあまり高くはないバグ技だ

(ちなみにRTAだと常套手段らしい)

そして、今私達がやろうとしていることは…


「原理は同じだからってこれは無いでしょうよおおおおおおおお!!!!!」

「大丈夫です!お嬢様なら出来ます!」

「ファイトですよ!」


私を駒に見立て、モブーナとママリアが左右から全力で私を回転させる…というものだった。

確かにこれなら壁に突っ込んで振り向く…を連続で出来る、それはそうなのだが…!!!


「というか、これで本当に再現できるんですのおおおおお!?!?!?」

「大丈夫です!自分を信じて!」

「信じるとか信じないとかではなくううううううう!!!!!」


そうして私は2人に振り回されるまま…壁に突っ込むのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る