第3話『とりあえず現状を整理しておきましょう』
前回のあらすじ:全部白状しました。
さて、なんやかんやでルイリオ様と話をしてキュービック家の一員として認めてもらった訳だ。
当面の部屋としては客室の1室を与えられた。
そうして部屋に向かったのだが…安堵からか、ベッドに入るなり思考に耽る事となる。
(…とは言え…当面の危機は去ったものの…問題は山積みな訳で…)
そう、私が悪役令嬢のエリカだがエリカではない存在と分かり、悪役令嬢ならぬ『バグ役令嬢』となった訳だが…
ハッキリ言ってまだ何も分かっていない、というのが現状だ。
(とりあえず当面の生活の心配をしなくても良くなったのは良いけれど…)
まず現状の時系列が『ゲームのどの部分なのか?』ということだ。
そう、ディアストのゲーム本編のメインの舞台となるのは『マテル王立学園』…なのだが、ゲーム本編でのエリカ様は16歳…
しかし現状のエリカ様はそれよりも遥かに幼い…つまり、今はゲーム本編よりも過去の時系列という訳だ。
(とは言え、これに関しては概ね検討がついてるのよね…)
そう、ディアストはゲーム本編以外にも『外伝』が出ているのだ。
そしてこの外伝では本編では描かれなかった悪役令嬢『エリカ・キュービック』や第一王子『マーロイ・シュタットネス』等、サブキャラのショートストーリーが収録されているというものだ。
(そして「外伝」ではエリカ様のストーリーは幼少期から描かれていた…つまり、今の時系列は恐らくエリカ外伝の序盤…)
そしてその仮定を真とするならば、恐らく今のエリカ様の年齢は7歳…だったはず。
…だとすると、ゲーム本編まで大分期間が空いているな…いや、これもエリカ様バッドエンドルート回避のための準備期間と考えれば…
(…そう、それも考える必要があるのよね……)
エリカ様バッドエンドルート回避。
これもこの世界で目指すべき目標…なのだが…
自身がエリカ様ではなく「コピー」な以上、自分にできることはエリカ様を誘導することぐらいで…
(その上、エリカ様からの印象は最悪と来てるのよね…)
まあ、自分と同じ姿形の人間が突然目の前に現れたとなれば、警戒するのは当然ではあるのだが…
とは言え、ずっと警戒されたままではバッドエンドルート回避には不都合。
何より一緒に住む上での不都合が大きすぎる。
(なんとか仲良くしたい所ではあるけれど…前途多難だわ、こりゃ…)
…そう、この世界における私は『バグ』。
即ち『登場人物ですら無い部外者』なのだ。
だが、それは逆に言えばより自由に動くことが出来る可能性もある、ということだが…
(可能性はあくまで可能性、逆に世界から排除される可能性だってあるのよね)
まだこの世界に来て1日と経っていない、その辺りがどうなるのかはこれから考えるべきだろう。
…ちなみに原作における『エリカ複製バグ』で生まれたエリカがどうだったのかと言えば………
………
どうもなっていない。
まあ、それも当然といえば当然なのだが…
そもそも『エリカ複製バグ』とは何なのか?
とりあえず簡潔に説明するとすれば『エリカをパーティーメンバーに入れ、ある特定のダンジョンに出発する、その中で強引にダンジョンを脱出し、エリカ邸へ帰還するとパーティーメンバーにエリカが居るにも関わらずエリカの部屋にエリカが居る』というものだ。
…何を言っているのかさっぱり分からないと思うが、とりあえずはそういうものだと理解して欲しい。
とは言え口で言うよりも実際に成功させるのは難しく、いくつも準備をする必要があるのだ。
そのため偶然起こるとは考えづらい…というのが現在の私の推測だ。
だが仮に偶然で無いとしたら、一体誰が何の目的で?となってくるのだが…
(…考えても埒が明かないわね)
現状ではパズルのピースが少なすぎる、いくら考えてもそれは憶測の域を出ない。
…話が逸れたが、そうして複製されたエリカはそのセーブデータ内ではずっと残り続けるのだ。
エリカの部屋の中に居座り続け、本編の彼女がどれだけ成長しようと当時のままの姿で、ただ同じ言葉を繰り返し続けるだけの存在…
それが「複製されたエリカ」という存在だ。
勿論、それは『ゲームでの話』であり、私自身が『そう』なると決まった訳では無いが…
(…ぞっとしないわね)
少なくともゲームでの複製エリカと違って、私は自分の意思もあり、喋り、動く。
つまりそこだけを考えれば、少なくとも今の私は複製エリカとはまた違った存在になる…のだろうが。
身体の成長がどうなるかまでは流石に今は分からない。
(…せめて健やかに成長できるように祈っておきましょう)
…さて、現状をまとめるのならば
・時系列はディアスト外伝、エリカストーリー序盤と思われる
・エリカ様バッドエンドルート回避の為にはエリカ様を補助する必要があると思われる
・エリカ複製バグを意図的に引き起こした黒幕が居る?
といったところか。
「うーん…異世界転生も楽じゃないわね…」
なんというか、こう…物語でよく見る『異世界転生』とは一味も二味も違うというかなんというか…
なんならチート能力とかも無さげではある。
…いや、これはまだ私が気づいていないだけなのかもしれないが。
とは言え、『悪役令嬢もの』はあまりそういう能力は出てこない印象ではあるが…
(そもそもこれを悪役令嬢ものと言っても良いのかどうか…)
…などと思考の沼に沈んでいると、気付けば眠りに着いてしまっていたらしい。
そうか、もうこんな時間だったのか…
そんな事を思いながら、思考は微睡みの中に溶けていった。
…そうして眠りに就いた私だったのだが、翌朝、喧騒で叩き起こされる事となる。
「エリカ・キュービック、エリカ・キュービックは居るか!」
この声は…この国の第一王子、エリカ・キュービックの婚約者でもある『マーロイ・シュタットネス』のものだろう。
そう、つまりは…私の波乱な第2の人生は、まだ始まったばかりということだ。
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