第2話『バグ役令嬢、爆誕!』

前回のあらすじ:悪役令嬢に転生したら元の悪役令嬢も普通に居た。


「…私って、何役令嬢なんでしょうか?」

「はぁ?一体何を言っているんですの?」


うん、そりゃそうだ。

『悪役令嬢』って概念だから当の悪役令嬢にそんなこと言っても分かるわけ無いよな。


「あ、すいません、こっちの話です。で、えー…っと………貴方が本物のエリカ様…ってことで、合ってるんですよね?」

「何で偽物の癖に聞き分けが良い上にちょっと疑問形なのよ」

「ああ、いえ、その…実は私も何が何やらさっぱりで…」

「はぁ!?そんな言い訳が通用すると思っていまして!?ほら!貴方達何をぼーっとしているんですの!早くこの者を捕まえ…」

「エリカ、何があったんだい?」


混乱と喧騒の最中への、さらなる乱入者。

恰幅の良い体型と、立派なヒゲが特徴のエリカの父、ルイリオだ。


「お、お父様…!」

「ふむ…これは…エリカが………2人?」


今のこの状況、どう考えても私は娘の姿形を真似る不審者以外の何物でもない。

さて、どう言い訳をしたものか…いや、こうなってしまっては正直に話す他あるまい。

とは言え、信じてもらえるかどうかは分からないが…


「…その、実は私はエリカ様ではなく…この世界とは別の世界から転生してきた人間でして…実を言うと、私も何故エリカ様と同じ姿形をしているのかさっぱり…」


うむ、言ってしまった。

だが言ってしまったからにはもう後には引けない。

この上で2人がどう出るか…


「はぁ!?一体何を言っているのかさっぱり分かりませんわ!貴方、まさか死にたくないからって適当な事を言っているんじゃ…」

「…エリカ」


私に罵詈雑言を浴びせるエリカ様を制止するルイリオ様。

…どうやら、少なくとも話は聴いてくれそうだ。


「…とりあえず、こんな所で話すのもなんだ。ひとまず私の部屋まで来なさい」

「え、ええ…分かりました」

「ちょっと!?お父様!?」


彼にそう言われ、屋敷の中を一緒に移動する。

…何故か従者たちも一緒に着いてきている気がするが、一旦気にしない事にしよう。


「さて…君のことはなんと呼べばいいか…とりあえずはエリカ (2)君、と呼ばせてもらうが」

「ストップ、(2)て」

「おっと…エリカ_コピーの方が良かったか?それとも新しいエリカの方がお気に召すかな?」

「いやどっちも嫌ですよ!?そんな適当にコピーされたファイルみたいな呼び方!?」

「そ、そうか…」


いや何故ちょっとがっかりしてるんだ、ルイリオ様。

…もしかして割と本気で考えた上のあの名前だったのか!?


「エリカ (2)様か…一体何者なんだろうな」

「転生してきただなんて言ってたけれど、本当かしら…」

「それにしてもあんな怪しい人の話を聞くだなんて、ルイリオ様も人がいいというかなんというか…」


というか部屋の中に人多いなぁ!?

もしかしてさっき集まっていた人達全員部屋に入ってたりするのか!?

だとすれば一体…


「…ハッ!」


そうだった、ディアストは会話シーンで登場人物が捌けた後背景に残り続けるバグがあったのだ。

ということはこの人達はこの会話が終わるまでずっと居るってことか…


「ええと、それで…エリカ (2)…あー………ニエリカ、君」

「ニエリカ…あー………まあ、それでいいです」

「それで、その…別の世界から転生してきた、というのは?」

「文字通りの意味です。ええと、どこから説明したら良いか…」


ひとまず私は現状把握している分の自分が置かれている状況を説明することにした。

自分は日本という国で生まれた桜井 結愛という人間ということ。

今日目覚めたらエリカ様の身体になってこの世界に来ていたこと。

それ以上の現状は把握していないということ。


(…まあ、この世界が自分の世界ではゲームということは一旦言わないでおきましょう)


この世界の人にしてみれば荒唐無稽な話だろう。

だが、彼は真剣に私の話を聴いてくれていた。

私が話し終えると、彼はしばし悩み。


「…成程、君の話は分かった。であれば…そうだな……」

(ゴクリ…)

「……これは恐らくバグフェアリーの仕業かもしれんな」

「バグフェアリー???」


何だそれは、初めて聞いた概念だぞ。


「…む、もしかして知らないのか?」

「え、ええ…恥ずかしながら…」

「うむ…この世界ではよく物理法則がおかしい出来事や理解できない出来事、奇妙な行動を取る人間が出現するのだが…それを引き起こしているのは妖精だと言い伝えられているのだよ」

「…な、成程」

「誰が呼んだか『バグフェアリー』…まあ、本当に妖精の仕業かどうかは分からんがな」


成程…バグは妖精の仕業…か、確かに言い得て妙だ。

それにゲームでもないのにバグっぽい挙動をするのにも納得が行く。


「それで、これはあくまで私の推測なのだが…バグフェアリーの悪戯でエリカが複製され…君はそれに巻き込まれてしまった、といった所だろうか」


悪役令嬢『エリカ』が複製されるバグ。

確かにそんなバグがあれば今の状況は説明できるが、そんなバグは…


「………!」

「…その顔、どうやら心当たりがあるようだね」


ある、確かにある。

「エリカ複製バグ」、確かそう言われていたはずだ。

だが仮にそうだとすると…


(あのバグは安定して引き起こすのが難しくて、よっぽど条件が重ならないと起きないはず…だとすると誰かが…?)

「また何か考えているようだね…まあ、君も今起きている出来事に困惑している事だろう。当分は家に住むと良い」

「…あ、ありがとうございます」


…実際、考えても埒が明かないのはその通りだ。

何のお咎めも無しでそのまま住まわせてくれるというならこんなにありがたい話はない。


「お、お父様!?こんな怪しい人間を信じると言うんですの!?」

「まあそう言うな、エリカ。困っている人が居るなら手を差し伸べよ…私がいつも言っている事だろう」

「し、しかし…」

「それに」

「それに?」

「仮に彼女がお前の命を狙う刺客やお前に成り代わろうとしている人間だったら、こんなバカな事はしていないだろう。もしそうだとしても計画が杜撰過ぎる」

「………」


…ルイリオ様は普段はとぼけた顔をしているが、実際の所はかなりの切れ者なのだ。

私の行動が合っていたかどうかは分からないが…少なくとも、捕まったり処断されたりは免れたらしい。


「さて、話は以上だ。ニエリカ君、お互い急なことで戸惑うかもしれんが…今日からは君もキュービック家の一員だ、よろしく頼む」

「え、ええ…ありがとうございます、ルイリオ様」

「…ふん、私は認めませんからね」


使用人たちの中にざわめきを残しつつ、私はひとまず開放される事となる。

兎にも角にも、当面の難は逃れたと言う訳だ。

いくつかの謎は残しつつも…こうして私の異世界での新生活が始まったのだ。

…そう、悪役令嬢ならぬ『バグ役令嬢』としての。

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